第3話 身体作り

翌朝




朝食を終え、自室に戻るところで父上に引き止められた。




「アルフレッド、アーノルドは分かるな?」




「確か父上の召使いでしたね?」




「そうだ。あいつは元冒険者だから、俺がいないときは稽古をつけてもらえ。」




「はい!」




冒険者とは、異世界ものの定番通りの存在だ。


命を懸けて魔物討伐や護衛任務などの依頼を達成し、報酬を得て暮らす人々を指して使う。




ちなみに俺は、出家したら冒険者になる予定だ。


自由に世界を見て回れるし、楽しそうだからだ。




「…まあ本音は力さえあればがっぽり金稼げるからなんだけどな。」




今更だが、ペンシルゴン家は大貴族なだけあって召使い、いわゆるメイドを雇っている。


ちなみに俺の専属はまだいない。




「専属メイド欲しいなぁ…」




メイドに興味があるのはもちろんだが、自分で身の回りの片付けをするのが面倒くさいのだ。


前世でも、財布と話し合いながらお手伝いさんを雇うか悩んでいた。




「…ってそもそも自室には物が少ないし居なくてもいいか。」




廊下を歩きながら庭の方を見ると、アーノルドさんが大剣を背負って仁王立ちしていた。


…もしかして俺が来るのを待っているのだろうか?




動きやすい服装に着替えようと自室に戻ると、トレーニング着のような物が机の上に置かれていた。


おそらく朝食中にアーノルドさんが用意してくれたのだろう。


俺はそれを着て、庭に出た。




「坊ちゃま、お館様から稽古をつけるように言われましたので私めが指導させていただきます。今後は私めを師匠と呼び、指示に従うようにとの伝言です。」




「分かりました。よろしくお願いします、師匠!」




前世でやっていたフルダイブ型VRゲームのチュートリアルと似たような展開だ。


最初は師匠呼びが違和感だったが、たくさんのゲームのチュートリアルを経てもう慣れたものだ。




「まずは…そうですね。身体作りに屋敷の外周を50周していただきましょうか。」




「…え⁉」




「指示に従いなさい。」




「は、はい…」




そうだった…


師匠はこんなに礼儀正しいが元冒険者、つまり前世で言うところのガチガチの体育会系だったのだ。




「まぁ…この世界で権力を除いたら力が全てだからな…やっておいて損はないか。」




とはいえ久しぶりの運動だ。


長距離ランニングをするのは上司にマラソン大会に無理やり出場させられたとき以来か…




「…あの時は翌日筋肉痛で動けなかったなぁ。嫌なことを思い出してしまった…」




幸いなことに、今の身体は運動不足の社畜ではなく5歳児だ。


突然の運動で怪我をすることはないだろう…




そんなことを考えながら走っていると、既に1周を終えた。




「この身体は結構体力あるな…行けるんじゃないか?」




数十分後




「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」




「遅いですよ!もう10周追加です!!」




「は、はい…」




最初にペースを上げ過ぎた…


15周目を超えた辺りから、ただ胸が苦しかった感覚しか覚えていない。




「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」




「もっと早く!!」




「は、はいぃぃ…」




そして数時間後




「よく頑張りましたね。少し休憩したら、次の訓練を始めましょうか。」




「は、はいぃぃ…」




師匠は鬼なのだろうか?


結局追加に追加を重ねて100周は走らされた…


…まさかこの世界ではこれが普通なのか?




「もしそうだったら化け物染みてるだろ…」




身体能力だけで魔物と戦う世界だ。


これが普通という可能性も十分に有り得る。




「そろそろ休憩を終わりましょうか。」




「ちょ、待っ、まだ全然休めてな…」




「指示に従いなさい。ジル様やレイフ様はこの程度、難なくこなしましたよ。」




…まじかよ。


記憶でしか知らないが、俺の兄様達はどうやら化け物の類だったようだ。




そんなことを考えているうちに、手と足、腰に何かを付けられた。


お、重い…⁉




「し、師匠!これは…?」




「枷です。手足の枷は3kg×4個、腰の枷は6kgです。」




…いやいやおかしいだろ。


俺5歳児ぞ?


体重より少し軽いくらいじゃないか…




「ではこれを付けたまま屋敷の外周を40周してきてください。」




「…はい。」




そこからのことはあまり覚えていない。




ただ手足が引きちぎれそうで…でもペースが落ちたら何周も追加されて…


…地獄だったことしか思い出せない。




「お疲れさまでした。これで午前の訓練は終了です。」




「終わったぁぁぁぁ!!!!」




「今奥方が昼食を作ってくださっています。この間に水浴びを済ませ、着替えてきなさい。」




「はい!」




前世では食事はただの栄養補給としか考えていなかったが、今はもはや娯楽の一部になりつつある。


娯楽が少ない今の生活では、至福のひと時なのだ。




指示通り水浴びと着替えをした後、食事机で待機した。




「…アルフレッド、訓練はどうだ?」




「辛いけど…言われた通り頑張ります。」




…社畜精神はまだ抜けていなかったようだ。


もし抜けていたら、一瞬で訓練を投げ出して逃げていただろう。


社畜時代の俺に感謝…




「そうか…!!お前は将来家を出ることになるからな…ちゃんと強くなるんだぞ?」




「はい!」




こんなに厳しい訓練を受けているのは、どうやら心配が故だったようだ。


その心配が増してもっと訓練が厳しくならなければいいが…




そんなことを話しながら、昼食を終えた。




「ふぅ…やっとベッドに寝っ転がれる…!!」




「アルフレッド、どこへ行くんだ?」




自室に戻ろうとしたところで、父上に呼び止められた。




「自室ですけど…どうかしましたか?」




「午後は書斎で勉強だぞ。聞かされていないのか?」




「…え?」

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