第4話 勉強

父上に案内され、俺は書斎へ連れていかれた。


その道中




「エリスは知っているか?」




「いえ…」




「彼女は司書だ。ここに務めて間もないが、教授をしていたらしいからな。彼女に教えてもらいなさい。」




「分かりました。」




兄様達が通っている騎士学校とは別の学校だろうか…?


この世界の知識は乏しいので、願ってもないことだ。




「エリス、いるか?」




「こちらに。」




「息子の教育を頼んだぞ。」




「お任せください。」




そう言うと、父上は執務室の方へ戻った。


俺はそこにいた金髪で緑色の瞳をしていて、長い耳を持つ綺麗な女性に見とれていた。


…そう、エルフだ!




「ふふっ、そんなにこの耳が気になりますか?」




「えっ?あ、すみません…」




フルダイブ型VRで何度も目にしたが、本物はもっと美しかった。




「私はエリスと言います。先生と呼んでくださいね。」




「よろしくお願いします、先生。」




先生なんて呼ぶのは、学生時代ぶりだ。


うっ…ボッチで真っ暗だった青春を思い出してしまった。


…最悪の気分だ。




「では坊ちゃま、勉強を始めましょうか。まずは…そうですね、これとこれとこれと…」




…ちょっと待て。


高校時代に使ったチャート式と同じくらい分厚い本をどんどん重ねているが…まさか全部読めとか言わないよな?




「これくらい…ですね。読んでもらいましょうか。」




「は、はい…」




師匠だけでなく先生も鬼だったとは…


だが、社畜の本気を舐められては困る。


これくらい朝飯…いや、夕飯前だ!




幸い“言語理解“のお陰で難しい文字も完璧に読める。


前世でラノベやTRPGの設定本を読んで俺の鍛えた速読力(暗記力は皆無だが)…見せてやろう!!




数時間後




「…じゃあ一旦休憩を入れましょうか。」




何とか1冊読み終わったところで午前の訓練の疲れが出て、睡魔に襲われかけていた。


運動と勉強の両立は難しいと思うんだが…




それはさておき、今の本には種族や魔物、魔道具など様々な内容が書かれていた。


最初は楽々読み進めていたが…ページ数が多い!!




「634ページってなんだよ⁉ラノベ2冊分くらいあるじゃんか…!!」




…とまぁ、社畜時代と違って文句を口に出せるのはありがたい。


文句すら言えないと精神を病むからな…




「そろそろ再開しましょうか。今度は今読んだ本の内容の確認と解説をしますね。」




「はい。」




「まず、1番人数が多いのはどの種族だった?」




「人間です。」




「正解。じゃあ2番目に多いのは?」




「えっと…獣人だったと思います。」




「正解よ。ちなみに人間だけ他種族より人数が圧倒的に多いわ。それはどうしてだと思う?」




「人間の寿命は他種族に比べて非常に短いから…でしょうか?」




「正解よ。すごいわね。」




「ありがとうございます。」




前世で読んだTRPGの設定本と似通ったところが多かったので、結構簡単だ。




「じゃあ次、仲が悪い種族はどことどこ?」




「えっと…分かりません。」




「…今のは意地悪だったわね。どの種族も仲がいいが正解よ。」




「なるほど…?」




異世界ものではよくエルフとドワーフの仲が悪く描写されていることが多いが、この世界ではそうではないらしい。


…仲が良いに越したことはないな。




「じゃあ少し難しい質問をするわね。人間の寿命が短いのは短所だけど、同時に長所でもあるの。それは何だと思う?」




「うーん…」




社畜時代はただ脳死状態で仕事をこなしていた。


そのため、いつの間にか考えるのが苦手になってしまっていたようだ。




「…あ、世代交代が頻繁な分多種多様な考え方が生まれること…でしょうか?」




「正解よ。…本当に5歳児なのかしら?」




「あはは…父上と母上の子供ですから…」




おっと…


少し自重した方が良いようだ。




「じゃあ次は…」




それからも色々な問題を問われ、分からない部分があれば解説をしてもらった。


解説は丁寧かつ明快なもので、勉強嫌いな俺でも苦痛に感じなかった。




「っと…そろそろ時間ね。じゃあ残りの本は部屋に運んでおくから読んでくるように。」




「はい…」




授業は分かりやすいし良いのだが、予復習が多いのか…


面倒臭いが、この世界において知識は武器になるだろう。


将来出家した後楽に暮らすためにも、今は我慢して努力しようではないか。




「奥様がお作りになった夕食が冷めてしまうわ。早く行ってきなさい。」




「はい。」




それから俺は家族と夕食をとった。




「アル、頑張ってるみたいね。」




「師匠の訓練も、先生の授業も大変ですが…やりがいがあります!」




「そう…!!でも休憩も必要よ。しっかり目を休めなさいね~」




「はい!」




夕食を終え、就寝するまでは自由時間だ。


俺は久しぶりに感じた自由時間にウキウキしながら部屋に帰った。




「なっ…!!」




そして、扉を開けて机に高々と積み上げられた本の山を見て絶句した。


3段になっており、合計30冊が積まれていた。




「…流石に数ヶ月分だよな?」




机に近づくと、メモ書きが置かれていた。




坊ちゃまへ




毎日最低1冊を読んでから書斎に来てください。


授業時間では、今日と同様に読んできてもらった本の内容確認と解説を行います。




エリス




「…まじか。」




どうやら俺の自由時間は2時間ほどしか無いらしい。




「…社畜時代は自由時間がなかったからあるだけましか。」




自由時間がある生活をくれた神様に、改めて感謝を。

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