エピローグ 二人の居場所

第46話 二人の居場所①

 綾音は蘭と合流し、その場で治療を受けていた。綾音たちが居るのは、公園から北へ数キロほど進んだところだ。


 琥珀に抱えられながら聖のところから去る際、綾音は見てしまった。聖は、ナハトに変身して戦っているのだ。


 だから、綾音は遠くへ逃げることよりも、聖とナハトの戦闘の成り行きを見守ることにした。どちらかのマナが尽きるまで、ここを動かないつもりだった。


 遠くで戦闘している気配を感じる。綾音はただ祈っていた。


「綾音さん。……聖さんは、何者なんですか?」


 琥珀が訊く。琥珀は、綾音の判断にとまどっているらしく、ずっと不安そうな顔をしていた。


「聖くんは、アイビスの魔女だよ」


 綾音は琥珀の目を見て言った。琥珀は目を伏せ、これ以上は何も言わなかった。


「戦いが終わったとき、狂暴なマナが消えていれば、私たちはすぐに戻る。どちらかでも残っていたら、また精一杯逃げる。だよね。

 私は聖を信じるよ」


 蘭が綾音の治療を続けながら、これからの流れを確認する。蘭は綾音の意向にあっさり納得し、聖を待ってくれていた。


 綾音のわがままを受け入れてくれた二人には感謝している。だから、もしナハトが生き残ってしまった場合は、二人が逃げる時間くらいは稼ごうと思っていた。


 治療が終了してまもなく、マナが消えた。一つじゃない、両方だ。


「――あ、綾音さん!」


 蘭が今にも泣き出しそうな表情で綾音を見る。

 ナハトは消滅した。しかし、二つとも消えたということは、聖も消滅していたということになる。


「……戻ろう」


 綾音が言うと、蘭と琥珀は同時に頷いた。聖は姿を元に戻し、この距離でマナが感じられなくなっただけかもしれない。そんな都合の良い解釈をしながら、公園へと急いだ。




 綾音も蘭もある程度回復したため、三人は各々空を飛び、公園を俯瞰する。

 公園には、灰色になった粘土が散乱し、付近の施設やモニュメントが破壊されていた。ヒトガタ同士の戦闘の痕跡は、公園を廃墟のような光景にしていた。


 最もその痕が色濃いのが、競技場とスタジアムの間の周回コース付近だった。広域に粘土が散らばっており、近くにあった木々や銅像にもこびりついていた。


 その銅像付近に、裸の男性がうつ伏せで倒れていた。少し年上くらいの青年で、気を失っているようだった。


「あれは……ヒトガタの正体でしょうか」

「――綾音さん!?」


 躊躇する二人を尻目に、綾音は男性に駆け寄っていく。スカートを外して男性の腰辺りに掛けると、綾音はその男性を抱きかかえた。


「ちょっと! どうするんですか!?」

「東塔へ戻ります」

「でも、後始末は?」

「いいの。機関が来る前に離れたいから」


 綾音の言葉に、二人は目を丸くした。二人には理解できないかもしれないが、綾音には確信があった。

 この男性は、美倉聖なのだ。

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