第17話 1番嫌いなのは···?

私は1度死んでいます。

何を言っているか分からないですよね。私も分かりません。

これは私という人間の浅ましさと愚かさの話。

私という人間がどうやってこの瞬間を生き永らえているかの話。




私は私が1番大事だった。

欲しい物は何でも欲しかった。

好きな物、好きな人、好きな場所。

そこで私は主人公になりたかった。

私が1番で、私がお姫様で。

周りは皆私という物語の登場人物。

きっとあの頃はそう思ってた。


でも人生は思い通りに進み続けることは無い。

手に入らないものができた。

邪魔をする人が出てきた。

思いどおりにはならないことに焦りを感じた。


私は気を引きたくて嘘をついた。

故意に体を傷つけたこともある。

みんながこっちを見てくれるように、気にしてくれるように。

でも所詮、嘘は嘘。

どんなに塗り重ねても真実にはならない。

いつかそれは暴かれた。

ぐちゃぐちゃの欲望は見るに耐えなくて、

痛々しい自傷痕は呆れられ、

みんなみんな去っていった。私のせいだ。


私は子供だった。何も知らない無知な子供。

無知は罪なのだ、恥なのだと学んだ。

それから私は普通になろうと自分を少しずつ矯正していった。

新しい春を迎える頃には、私は今までの癖をなおした。


そうして変わった私は、昔の私が大嫌いになった。

私を指さして笑った人よりも

私を不幸にした人よりも

何度も嫌なことを言ってきた人よりも。

この世でいちばん嫌いな人は、過去の自分だった。

だから私は、過去の私は死んだことにした。

この世に居ないのであれば死んだのと同じだと、どこかの漫画で読んだことがある。

もうあの頃の私はこの世にはいない。

そうして私は私を殺した。

あの頃の話をされても、覚えてないふりをした。

ごめんね、覚えていないの。

それは段々と本当になっていった。

実際私は、今はもうあの頃のことは思い出せない。

そうして過去を砂に変えて、いつしか風に攫われてサラサラとなくなってしまったのだった。

それはあの黒くて汚くて苦しい日々の思い出とは思えないくらい穏やかで、どこか寂しかった。

こうして私は私を許していったのだと思う。

ただの自己完結だ、罪から逃れたいだけだと言われても否定はできない。

ただ、当時きちんと相応の報いは受けたと思う。


あの時おかしいのは周囲だけだと思っていた。

でも私も確かに、あの時おかしかったのだ。


風に髪がなびく度に、私は戒める。

正しく生きよ。まっすぐに、まっすぐに。

もう何も間違えたくないから。

これ以上自分を汚さないように。


それが死んだ私への、1番の弔いだ。

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