第12話 優しい人になる、ということ
優しい人になりましょう。
人の痛みがわかる人になろうね。
相手の立場に立って考えよう。
大人達から口酸っぱく言われて育った記憶がある。
優しくなろう、思いやりを持とう。
幼少の当時の時代背景だか教育方針だか何だかは分からないが、小学生の頃よく言われた気がする。
ゆとりやらさとりやら色んな世代がいるが、私たちはその狭間の何とも微妙な年代だった。
なんてタイミングの悪い、と思ったことはかなり多く記憶しているし、それは私の人生の基盤にも多少なりとも影響している。多分、今現在も。
昔はもっともっと暮らしやすかった。
それこそ“優しい”大人達が多かったのか?
今となっては分からないが、その頃は大人達の求めるいい子出来る子、優しい子になることに損得なんて感じなかったし正解だと思った。
ここまで書いておいてなんだが、私自身は決して優しい人間などではない。自分が一番可愛いくせに、本音を聞こえのいい言葉で覆い隠しただけの臆病者だ。他人との衝突が怖いだけの…
私は基本的に自分の意志が強い方ではない。
自分がやりたいと思ったことがあったとしても、隣にいる友達に「一緒にこちらへ行こう」と誘われるとすぐに首を縦に振ってしまう。
そうしてすぐに後悔する。後悔しているから、無意識下でもそれなりにしか動いてないのだ。
人間というものは不思議なもので、時に相手がはっきりと口にしない事でも敏感に読み取ってしまう。
私はいつしか自分の本音が言えない子供になっていたし、友達であったはずの彼ら彼女らも私の事が嫌いになって言った。当たり前だ、嫌なら嫌と面と向かって言えばいい。きっと嫌々付き合ってあげているという姿勢は馬鹿にされたと思われたのだろう。
何がきっかけか、もうきっと誰も分かりはしないが私はいつからか都合のいい人という扱いを受け始めた。
嫌な事、面倒な事は私に押し付け自分は楽をする。
いざ私が困ったことになれば知らぬふり。
そういった事が起こる度に深く絶望してきた。
優しい人になるのが正解じゃなかったのか?
私は私なりに親愛の心で接していた、誰とも。
例え嫌いな相手だとしても傷付けることは一切してこなかった。それは人として間違っていると信じていたから。
そんな嫌な事だらけの毎日でも何とかやり過ごし、徐々に大人に近付いていった。
しかし、程度はあれど私はどこへ行っても同じような扱いを受けた。どの学校でも、社会に出ても。
私は決して人を傷付けたりしないのに。
なのに他人は私に向かっていとも簡単に悪意を私に向け、その手で容赦なく刺してくる。
嫌いな人でも、あの人も事情があるのだろうと飲み込んできた。その優しさに誰が何を報いてくれただろう?
痛くても悲しくても辛くても誰も気にしない。
それどころか…笑っている。
その時私は理解した。
ああ…先生。あなたは間違っています。
優しい人になったって、何も得なんてしない。
人の痛みがわかったって、何の役にも立たない。
それどころか分かるだけに利用される。
この世では…優しい人になるだけ損だ。
そう思った時にはもう遅かった。
私は今更、嫌な人になる事なんて出来なかった。
いくら表面だけ取り繕ったって何度も同じことになる。
仲良くなれば、親しくなればなるほどに情を感じて尽くしてしまう。
そうして気付いた時には…別のモノに変わり果て、私に刃を向ける。
挙句の果てには、よく話したことも無いような人も私が嫌いだということもよくある。
きっと私はこのまま死ぬまで、刺される側。
それでも私は、誰が悪いのか考えても…
――誰の名も浮かばないのだ。
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