第8話 外の世界と私
長らく自宅に引きこもっていた私だが、いよいよこのまま動かずに生活するのはどうなのかという思いから買い出しと諸用を済ませに行くことにした。
私は実家を出ており、自宅は賃貸のため保険の更新費用の支払い期限もすぐそこまで迫っていた。どちらにせよ外へは行かねばならなかった。
身支度を済ませて玄関のドアを開ける。
まず最初に感じたのは眩しさ。
私の部屋には明り取りの高窓があるのでカーテンを開けなくてもそれなりに部屋が明るい。
そのためカーテンを開けてわざわざ光を入れることは滅多にしないせいか、目が潰れるかと思った。
…バルスを唱えられたム〇カ大佐もこんな気持ちだったのかな。
心の中で少しだけこんなくだらない事を考える余裕があるのは、私が以前よりも少し回復したという証なのだろうか。
銀行に行って振込を済ませ、食料を買い込みにスーパーへ寄る。平日の昼時というのは主婦の奥様方とご老人の方々がまばらに来店していて、少し前まで働いていた時に買い物に来ていた時間帯の混雑具合よりもずっと余裕がある。
それでも私には、外を歩くという行為そのものが刺激が強すぎて疲弊してしまうのだが。
往来を行き交う車の列。
縫うように走る自転車やバイク。
お子様連れのお母さん。
元気に走り回る小さな子供。
電話をしながら歩いているサラリーマン。
どこかの工事現場で絶え間なく聞こえる音。
日常に当たり前のように存在する他者の営み全てが、私にはとても忙しなく見える。聞こえる。
やがてそれは私の周りを渦巻いて取り込んで、溺れさせるように感じるのだ。
そしてその中に適応できない私という存在は…きっと誰からも望まれていないのだろう。
誰もそんなことをしていないのに、後ろ指をさされて笑われているようにさえ感じる。
こうして外の世界との壁を感じては、もう前のように働けない事を何となく理解して悲観する。
きっと健常者の方から見たら、そんな事を思っているからいつまでも出来ないのだと指摘されるだろう。確かにそういう面もあると思う。しかしもう私の折れた心は元には戻らないのだ。
もうこの忙しない世の中に戻ってやっていくことはできない。それは紛れもない事実だ。
だからといって人生を諦める必要も無いはずだ。
きっと探せば、私の生きていける場所だって存在しているだろう。
まだ先のことを考えるのは怖い。
寝て起きて食べて息をするだけで一生懸命だ。
それでも…
「もう少し余裕が出来たら、正社員は無理だとしても…在宅でできる仕事でも探そうかな…」
少しでも、希望の方へ手を伸ばすことは許されるかな。
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