療養生活

第5話 病者の心理と労働

大層なタイトルを付けてしまったが私という、いちうつ病患者がかつて働きながら何を考えていたかという話である。

そもそもうつ病と言えど、個人によって感じ方や考え方、ひいては症状もそれぞれ違うので…

これが正しいやら間違っているやらは存在しません。たかが素人の意見だと一蹴して頂いても構いません。(但し絶対に私に伝わらないようにだけはお願い致します。悪口は影で言いましょうという事です。)


そして今現在、うつ病を患っている人に対して…

そんなものは甘えだ、気持ちの問題だ。だからそれはお前のせいだ。気合いさえあれば。と思っている方、言っている方はこの文章で是非考えを改めて頂きたい。そのひと言がどれほど私たちに悪影響を及ぼすか…いかに蛇足であるか、ほんの少しでもお分かりいただけるように書こうと思います。




まず基本的に、私は悪いことがあろうが無かろうが毎日漠然と辛い、死にたい、消えたいと思っています。これは私個人の性格的な面が大きいと思うのですが、うつ病患者の中にはきっと似たような感覚をお持ちの方は多いかと思われます。

例えるなら…点滴です。

普通の方は特に何も点滴をしていない状態だとします。ところがうつ病患者は24時間常にネガティブ思考になる薬液を点滴されているようなものです。

その気持ちは時間が経つにつれて大きくなったり小さくなったり、波があります。

今日は比較的元気だったからと言って、明日も元気でいられる保証はありません。朝起きて様子を見るまでは自分自身にさえ分からないのです。

常にそのような状態なので、ちょっとした弾みでバランスは容易に崩れ…不調を引き起こします。

そんな状態でも毎日、仕事や学業を一生懸命こなそうと人一倍努力します。真面目で几帳面で完璧主義者が多いのです。

襲い来る無気力感、鈍る思考。

周囲に敏感になりすぎて気になる視線や声。

大丈夫かな、おかしくないよね?募る不安。

不安から来る目眩、吐き気、離人感。

全力を尽くしても…いつも心配ばかりしている。

頑張らなければ…それしか取り柄がないのだから。


―きちんとしなければ。

―ちゃんとした人だと思われたい。


その気持ちも頑張りもいつしか空回りして、

いくら走っても追いつけない理想に嘲笑われる。

しっかりしたいのに、体が追いつかない。

気持ちに体がついていかなくなると、思うように成果があげられなくなる。そうするとやる気も根気も萎れていってしまうのです。


自分の限界を越えようとすることは素晴らしい。

しかし精神病になってしまう方の多くが、無理をしすぎてしまうのです。

自分の限界を見誤って、体や心の警告を無視してまで頑張り続けてしまう。

本人がもうダメだと感じた頃には既にボロボロで

取り返しのつかない事態になってしまう。

そんな彼ら彼女らに 根性無しなんて言えますか?


完璧な人間なんていません。

成果をあげるまでに時間がかかる人。

誰かと議論することで答えを見つける人。

何度も繰り返す事で研磨されていく人。

その人は、頑張りすぎてしまう人だっただけです。

ちょっと休もう、と言ってくれる人が必要だっただけです。

自己管理ができるに越した事は無いのは承知の上。

これから見つけたらいいでは無いですか?

自分の限界を知る。傾向を知る。これができるようになるだけでも随分違うように思えます。

出来ない自分を認めること。許すこと。

それは自己肯定感の低い私たちにとって簡単なことではありません。

少しでも普通から逸れるたび、少しでも何かができないと分かるたび、嫌悪感が湧き上がります。

そんな彼ら彼女らに 頑張れと声をかけるのは果たして正しいのでしょうか?


忘れないでください。

息をしているだけで素晴らしいんです。

理解できなくてもいい。納得できなくてもいい。

そこに攻撃する理由を持たないで欲しい。

ただ静かに見守って。そっとして。

それだけで伝わる思いやりもあります。


敢えて…私が感じた答えをここに書くことはしません。これらの問いを自分自身で解いてみてください。そこにはきっと新しい自分が顔を覗かせていると思います。

健康な方にも病んでいる方にも、部分的にでも何か染み込んでいくものがあれば嬉しいです。

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