第5話 料理上手

自分は対人スキルが低いこともあり、モテか非モテかと問われると、残念ながら非モテの側であった。

しかし30歳過ぎてやや遅くなったとはいえ結婚はできたし、その相手、つまり妻が料理上手であったことは、これで人生勝ち組と思えるほどポイント高い出来事であった。


妻は今でも休日は何時間も台所に立っていろいろ作ってるし、食事の度に出てくる品数も多い。冷蔵庫の中には作り置きの常備菜が常に数種類入っている。

ご飯のおかずはもちろんのこと、クッキーやケーキなどのお菓子類も普通に作れる。

昨日はバスクチーズケーキを作り、自分はすごくおいしく感じたのだが、妻としてはまだまだ不満が残る出来らしい。


ついでに言うと、息子が中学に入って弁当が必要になるまで、妻は冷凍食品というものを買ったことがなかったらしい。

毎朝早くから弁当を作るのは大変なので試しに冷凍食品を買って入れていたのだが、妻の料理で舌が肥えている息子には受け入れられなかったそうで、結局朝6時から弁当を作っている。


結婚するまで妻の手料理を全く食べたことがなく、さして期待もしていなかったので、失礼な表現ではあるがかなりの掘り出し物だった。


ただ思い返すと、結婚前にあれっと思うことはいくつかあった。

まず最初のデートの別れ際に渡されたのは、ぶっとい太巻きだった。

デパ地下で買ったずっしりと重い一品で、なぜこんなお土産を!? と驚いた。


またいっしょに車中泊の旅をしたときは、モーニングを食べようと立ち寄った喫茶店で妻が注文したのは「生姜焼き定食」だった。

朝7時過ぎからそんなに重いものを!?とこれまた驚いた。


そして外食の際には自分が注文したものを少しだけ食べて、「後は食べて」と私に渡してくることがしょっちゅうあった。そして自分は別のものを注文する。

それは後になって、期待外れの味だった料理の処分を私に任せていることが明らかとなった。


ようは、妻はおいしいものを食べることが大好きなのである。

そしておいしいものを食べたいがために、料理も上手になった、そういうことである。


そしておいしいものを作っては食べ、作っては食べしているうちに、立派な相撲取り体型になった。

後ろから見た妻の下半身を、私は「北の湖」と表現している。


料理する相撲取りだから「ちゃんこ番」の方が正しい表現かもしれない。

しかしそれでは本人のプライドに触るし、あまりに不憫なので、家の中で一番偉い人という敬意も込めて、大横綱の「北の湖」と称している。


料理がおいしい奥さんがいて、自分は人生勝ち組!

そう、勝ち組なのだ。

自分にそう言い聞かせながら、スレンダー美女のグラビアを眺めたりするのである。

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