いつか絶対

 いい写真を選んで、ハサミを使って形を整え、のりで貼り付けて……三人でそんなことを繰り返しながら、アルバム作りを終えた。

 表紙には二年生の夏休みに行った海の見えるコテージで撮った集合写真と、温泉宿で撮った集合写真を貼り付けて、最後のページには三人の寄せ書きを書いた。

 そのアルバムは卒業式の日まで、ウチで保管することになった。


 アルバム作りを終えた時には日が暮れていて、時間もちょうど良かったので、俺たち三人は駅の近くにあるハンバーガー屋さんで夕飯を取ることとなった。


 俺と瑠愛が隣同士に座り、テーブルを挟んだ向かいには桜瀬が座っている。三人の目の前には大きめなハンバーガーとポテトが乗ったお皿がある。それをナイフとフォークを使って食べていく。ファストフードのハンバーガーとは違い、とてもボリューミーだ。


「こんなお店が駅の近くにあったなんてねー」


 桜瀬はチーズバーガーをナイフで丁寧に切って、それを口へと運んでいる。


「ん、美味しい」


 俺と瑠愛はアメリカンバーガーというものを食べていて、分厚いステーキのような肉とバーベキューソースが絶妙にマッチしていて美味しい。


「めっちゃ美味いな。今度逢坂も連れてくるか」


「それいいね。愛梨ちゃん絶対に喜ぶよ」


「逢坂は何しても喜んでくれるからなー」


「愛梨ちゃんって本当にいい子だよね。あのギャルな見た目からは想像出来ないくらいのいい子」


 俺と桜瀬で話している間にも、隣に座る瑠愛は一心不乱にハンバーガーを口の中へと詰め込んでいた。そんな彼女の口元に、バーベキューソースが付着しているのに気が付いた。


「瑠愛、口元にソースがついてるぞ」


 自分のおしぼりを手に取ると、瑠愛はこちらに顔を向けた。口元についているバーベキューソースを拭ってやると、瑠愛は「ありがと」とだけ口にしてから食事に戻った。


「アンタたちってほんとに仲良いわね……彼氏彼女じゃなくて父と娘みたいよ」


「まあ俺も瑠愛の世話をしてる感覚だから、娘が居たらこんな感じなんだろうなって思う」


「うん、きっと湊は瑠愛に接してるみたいに子供にも接するんだろうね」


「子供は出来たことないから分からないなあ」


 子供か……俺と瑠愛の間に子供が産まれたら、髪色や瞳の色は何色になるのだろう。瑠愛と同じ銀髪だったらいいな。そんなことを思いながら、グラスに入っているコーラを飲む。


「私、湊との子供欲しい。子供作りたい」


 おもちゃをねだるような呟きに、俺と桜瀬は飲み物を吹き出しそうになった。というか桜瀬は吹き出す寸前だったらしく、ケホケホとむせてしまっている。俺の頬もかーっと熱くなっていく。


「お、おま……他の客も居るから……」


「……? なんで他のお客さんが関係あるの?」


「……それは……」


 俺の口からは言えるはずもない。桜瀬に助けを求めようと視線を向けるも、彼女はバツが悪そうな顔をして視線を逸らした。


「あ、でも、どうやって子供が出来るか分からない」


 瑠愛がどんどんと性なる行為に辿り着こうとしている……。いや、高校生なんだからそういう知識があって当然なのだが、純新無垢な瑠愛には教えられないというか……そんな感じだ……。


「る、瑠愛。そんなに子供が欲しいの?」


「欲しいかいらないかで言えば、欲しい」


「へー、なんかちょっと意外かも」


「そう?」


 桜瀬が子作りの話から、子供の話に上手く切り替えてくれた。ホッと胸を撫で下ろしていると、瑠愛が俺の肩をちょんちょんとつついた。


「湊は子供欲しい?」


「あ、ああ。子供は好きだし欲しいかな」


「じゃあ、大学卒業して働き始めたら、子供作りたい」


 また子作りの話に向かって行きそうだ……。俺と桜瀬は視線を合わせて、真剣な表情で頷いた。俺の顔は相変わらず熱を帯びている。


「男の子と女の子だったら、どっちがいいの?」


 機転を利かせた桜瀬の問いに、瑠愛はフライドポテトを咀嚼しながら考え始めた。


「うーん、女の子かな」


「女の子なんだな。理由とかあるのか?」


「美愛が可愛いから、女の子がいいなって」


 美愛とは瑠愛の妹のことだ。確かに美愛ちゃんは可愛かったな。瑠愛との間に女の子の子供が出来たら、美愛ちゃんのような子になるのか……そんなの、毎日癒されっぱなしだろうな。


「確かに美愛ちゃんみたいな子だったら可愛いだろうな」


「美愛ちゃんって瑠愛の妹だっけ」


「そうそう。小学二年生らしい」


「えー、絶対可愛いじゃん。瑠愛と似てるの?」


「めっっっちゃ似てる。美愛ちゃんの写真撮ったから見てみるか?」


「えー! 見たい見たい! 見せて!」


「おっけー、ちょっと待ってろ」


 俺と桜瀬の連携技で、なんとか子作りの話から美愛ちゃんの話に逸らすことが出来た。

 ポケットからスマホを取り出して、美愛ちゃんとおままごとをしていたときの写真を桜瀬に見せる。


「えー! すっごく瑠愛にそっくりじゃない!」


 桜瀬が明るい笑顔でそう言うと、瑠愛は得意げな表情で「ども」と会釈をした。


「アタシも美愛ちゃんに会ってみたいなー。一緒におままごとしたい〜」


「今度実家に帰る時に、紬も一緒に行こ」


「え、いいの!?」


「うん。あと湊も」


「俺もか。了解だ」


「あと愛梨も一緒に」


 そんな自然な流れで、皆で瑠愛の実家に遊びに行くことが決まったようだ。

 日程などはまだ決まっていないが、その時が来たら絶対に楽しい一日になることだろう。


「いつか絶対な」


「そうね、いつか絶対」


 俺と桜瀬が笑いかけると、瑠愛も頬を緩めて頷いた。


「うん、いつか絶対」


 その声はどこか浮ついているようで、しっかりと芯が通っていた。

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