第十一章 愛してる
ひと狩りいこうぜ
冬休みに入った。今日は十二月二十三日。明日はクリスマスイブでもあり、推川ちゃんに一泊二日の温泉旅行へと連れて行ってもらう日である。
明日の準備を終えて一息つくと、窓の外に映る空は暗くなってしまっていた。足りない物などはお店に買いに行ったので、時間の経過が早く感じる。
やることをやってスッキリとした気分で、今はお腹が空くまで瑠愛と『モンスターハント』というゲームをして時間を潰すこととなった。
モンスターハントというゲームは、大きなモンスターを狩猟するゲームであり、二人で協力することも可能なのだ。このゲームは暇つぶしとして、よく瑠愛と一緒にプレイしている。
「きたきた、こいつがレオレオスか」
テレビ画面に入りきらない大きさの翼が生えたドラゴンが現れ、大きな咆哮を上げている。
「強そう」
瑠愛は画面に釘付けになりながら、レオレオスの元へと突っ込んで行った。
ちなみに俺が操作しているキャラクターの武器は大剣で、瑠愛は双剣を使用している。
「あ、瑠愛、あんまり突っ込んでくと──」
そこまで言ったところで、瑠愛の操作しているキャラクターはレオレオスの大きな尻尾になぎ払われて吹っ飛んで行った。
「もうちょっと早く言って欲しかった」
「すまん。尻尾が危ないこと言い忘れてた」
「次から気を付ける」
瑠愛はそう言いながら回復薬を使用して、失った体力を回復した。
同棲を始めたばかりの頃は全くと言っていいほどゲームをやったことがなかった瑠愛だが、俺の影響でゲームのスキルがどんどんと付いていったのだ。今では俺の持っているゲームソフトならば、何だって「上手い」と思わせるプレイが出来るようになっていた。
「こいつは頭が弱点だからな」
「分かった。行ってくる」
レオレオスの足を大剣で攻撃していると、瑠愛は頭へと回り込んだ。
「口から火も吹くから気を付けてな」
「うん」
瑠愛はこくりと頷くと、レオレオスが火を吹くタイミングを見計らって、ジャンプをして頭への攻撃を始めた。そのタイミングがバッチリで、瑠愛の操作しているキャラクターはダメージを受けることなく、レオレオスの頭に絶え間なく攻撃を放っている。
「うっま」
思わずそんな声が漏れてしまう程だ。
「そう?」
「普通そんな簡単に頭を狙えないんだけどな」
「双剣だからかもしれない」
「あー、それはあるかも」
双剣は他の武器に比べて動きが素早いという利点がある。その代わりに攻撃力が低いので、沢山攻撃を打ち込まなければいけない。
瑠愛は双剣の利点を存分に発揮しつつ、レオレオスの頭を叩いている。
これは余裕に勝てるかもしれない、そう思った時のことだ。レオレオスの周囲に落雷が発生し、俺と瑠愛の操作するキャラクターは大きなダメージを受けながら吹き飛ばされた。
「なにこれ」
納得いかないといった声色の瑠愛は、恨めしそうな目で画面を見ている。
「あー、レオレオスの体力が半分を切った証拠だよ。ここからは落雷も使ってくるから気を付けてな」
「分かった」
瑠愛はそう言うとレオレオスから距離を取ってから、コントローラーを机の上に置いてしまった。
「ちょ、瑠愛さん?」
いきなり瑠愛のキャラクターが動かなくなったらことを心配して瑠愛を見ると、彼女はゲームを放置してみかんを食べ始めた。
「ちょっとみかん食べて休憩する」
「ま、待て待て。戦闘中にそれはやばくないか。え、このまま俺一人で戦えと?」
「うん、湊なら出来る」
「こっからさらにパワーアップするんですよ? 俺一人で何が出来るって言うんですか」
「みかん食べ終わるまでの我慢」
「……はい」
ゲームの最中にどうしてもみかんが食べたくなってしまったのだろう。それならば仕方がない。女の子一人が戦線から抜け出したくらいで騒ぎ立てる程、俺のモンスターハントのプレイングスキルは廃れていない。
少々危ない場面はあったが、一人になっても順調に敵の体力を削っていると、レオレオスは大きな口を開いた。その口が向いている方向には、瑠愛の放置しているキャラクターが居た。
「あ、瑠愛、危ないかも」
「ん、なにが──」
みかんを食べることに集中していた瑠愛が、顔を上げたちょうどその時。レオレオスの口からは青白い炎が吐き出されて、放置されている瑠愛のキャラクターに直撃した。
瑠愛のキャラクターは即死して、スタート地点へと運ばれてしまった。
「絶対に許さない」
みかんを食べ終えた瑠愛は、頬を膨らませながらレオレオスの元へと駆け出した。普段は片方の頬を膨らませるのだが、今回は両方の頬を膨らませている。これにはさすがの瑠愛でもご立腹のようだ。
レオレオスの元に辿り着いた瑠愛は、今までの倍以上のスピードでレオレオスを攻撃し始めた。それはもう世界大会でも見ているかのようなプレイングに、一緒に戦っている俺も「おぉ」と唸るようなものを見せつけられた。
その甲斐もあって、レオレオスは呆気ない程すぐに倒された。
「ズルをするからこうなる」
瑠愛はテレビ画面に向かってムキになった声を放つと、機嫌が治ったのかいつもの無表情に戻った。瑠愛が怒る機会なんてそうそう見ないので、珍しい物を見た気分だ。
「ふぅ……目が疲れた。そろそろ飯にしないか?」
「うん、する」
「何が食べたい?」
「うーん、ドラゴンのお肉」
「確かに美味そうだけど、現実にあるもの限定で頼む」
「じゃあ他のお肉」
「豚とか牛とかか?」
「うん、あと鳥も」
色々な肉が食べたいのか……そう考えて真っ先に思い付いたのは。
「焼肉でも行くか?」
色々な肉が食えるところと言えば焼肉だろう。
それを言うと瑠愛は目を輝かせ、コクコクと頷いた。
「焼肉、行きたい」
瑠愛と一緒に焼肉なんてあんまり行ったことがなかったので、ちょうどいいだろう。
「よし、じゃあ焼肉食べに行くか。そうと決まれば早く行こうぜ」
「うん、いっぱい食べる」
焼肉に食いついて来た瑠愛は、目をキラキラと輝かせている。そんな彼女の頭を撫でてから立ち上がり、二人で外へ出るための準備を始めた。
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