息抜きも大切
勉強漬けの日々が続いた。それもこれも、志望校である鳳桜大学に入るためである。
そんな日々を送っている内に、気が付くとゴールデンウィークに入っていた。
今年のゴールデンウィークは勉強漬けか……と思っていたのだが、今日だけは息抜きの日だ。
屋上登校をしている四人は電車を乗り継いで、有名な遊園地にやって来た。
遊園地の中はゴールデンウィークだからか混雑していて、様々な客層の人達が確認出来る。
「わー、この遊園地久しぶりに来たー」
入場ゲートを抜けて、桜瀬は腕を空に向けて伸びをしながら言った。
「この遊園地来たことあるのか」
「うん、幼稚園生くらいの時に親に連れて来て貰ったの」
「そうだったんだな。逢坂はどうだ?」
瑠愛と一緒に俺たちの後ろを歩いていた逢坂に尋ねると、彼女は首を横に振った。
「わたしは初めてですね〜。ここら辺はあんまり来たことがないので」
「じゃあ来たことがあるのは桜瀬だけか。瑠愛は来たことないって言ってたもんな」
瑠愛がコクコクと頷いたのを見て、桜瀬が「えー」と声を上げた。
「結構有名な遊園地だと思ってたんだけどなー。でも今日でみんな来たことになったからね、仲間だよ」
桜瀬は嬉しそうに笑うと、手に持っていたパンフレットを広げて立ち止まった。桜瀬に釣られるようにして、三人も足を止める。
「最初は何に乗ろうね。乗りたいのある人ー?」
その桜瀬の問いに、逢坂がビシッと手を挙げた。
「じゃあ愛梨ちゃん」
「ここは景気よくジェットコースターとかどうですかね!」
「一発目にジェットコースターか……いいね! ということでジェットコースターに行こーう!」
桜瀬が空に拳を突き上げると、逢坂も「おー!」と拳を突き上げて続いた。
パンフレットを持っている桜瀬が皆を誘導するようにして、逢坂と一緒に歩き出した。彼女たちを追うようにして、俺と瑠愛は並んで足を動かし始める。
「瑠愛ってジェットコースターとか大丈夫なのか?」
ジェットコースターに乗っているところが想像出来ずに尋ねてみると、瑠愛はふるふると首を横に振った。
「乗ったことない」
「え、一回もか?」
「うん、一回も」
「……大丈夫なのか?」
「多分?」
キョトンとした顔でこちらを見る瑠愛を見て、どことなく不安を感じ始めたのだった。
☆
安全バーが降りてきて、体をガッチリと固定した。
一番前の席に座っているので、視界は晴れている。
隣には真顔の瑠愛が座っていて、後ろからは桜瀬と逢坂の笑い声が聞こえてくる。
「瑠愛、大丈夫そうか?」
「うん、特に問題はなし」
「緊張みたいなのもないか?」
「うーん、ちょっとだけドキドキしてる」
「……おぉ……」
ちょっとやそっとのことでは感情を動かさない瑠愛がドキドキとしているなんて……しかもジェットコースターで……。
「湊は緊張してる?」
「ああ、久しぶりだからそれなりに緊張してるな」
「それなら、手握っててあげる」
犬にお手を促すように、瑠愛は手の平をこちらに差し出した。
彼女と手を繋いでジェットコースターか……最高すぎやしないだろうか。
「是非ともお願いします」
もちろん断る理由なんて一つもなく、瑠愛の手を握った。いつもは腕を組むことが多いので、こうやってしっかりと手を繋ぐのは久々かもしれない。
「あ、紬先輩! 湊瑠愛カップルがイチャイチャしてます!」
「ほんとだねー。アタシたちに見せつけてるのかなー?」
後ろから冷やかすような声が聞こえて来たので、手をヒラヒラと振っておいた。
「わ、その余裕な感じムカつくー。愛梨ちゃん、アタシたちも手繋いで対抗しよう」
「そうですね! アタシたちもリア充なんだぞー!」
「そうだそうだー! アタシたちの仲を見せつけてやろー!」
「おー!」
後ろからは仲良さげな声が聞こえて来た。その瞬間に「ビーッ」という音が鳴り響くと、乗っているライドが空に向かって上り始めた。
「ふぅ……緊張するな……」
「そうだね」
ガタガタと音を立てながら坂を上っていく。幼い頃はジェットコースターでこんなに緊張していただろうか……。
そんなことを考えている間にもライドは頂上に到達して、お腹にふわっとした感覚が襲うと、そこから一気に急降下する。瑠愛と握っている手に力が入る。そこからはうねうねとしたり、一回転したりとしたあと、気が付いた時にはゴールに到着していた。
「ふぅ……終わった……」
瑠愛はボサボサになった髪を直そうとせずに、余韻に浸っているような声を漏らした。
「結構ハードだったなあ」
「そう?」
「瑠愛は全然大丈夫だったか?」
「うん、もう一回乗りたい」
「えっ……」
無表情の瑠愛はちょこんと首を傾げた。
「もう一回一緒に乗ろ?」
そんな可愛く言われたら一緒に乗ってやりたいが、俺にはこのジェットコースターはちょっとだけハードかもしれない。一回転するところなんか、思い出しただけでも玉がヒュンとなる。
「いやぁ……俺はちょっとぉ……」
やんわりと断ろうとしたのだが、繋いでいる手をギュッと握られた。
「乗ろ?」
「……はい……乗ります」
やっぱり俺には瑠愛からのお願いを断ることなんて出来ない。これだけお願いされたら尚更だ。瑠愛の綺麗な瞳に見つめられて、俺は首を縦に振ってしまった。
こうして俺はもう一度ジェットコースターに乗ることになり、桜瀬と逢坂もノリノリで着いてきてくれた。結局三回もジェットコースターに乗り、次のアトラクションに移る頃には、俺だけがヘトヘトになっていた。
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