カラオケなクリスマス

 昨日のクリスマスイブは楽しかった。なのに今日もクリスマスを楽しめるというのか。

 彼女が居ない時の俺はクリスマスイブもクリスマスもいらないと思っていたのに、今年の俺はその二つの日を作った人に感謝をしていた。


 今日の予定は、屋上登校をしている四人でクリスマスパーティーをする予定だ。

 どこでクリスマスパーティーをするのか。俺の家でも誰かの家でもない。逢坂の案で、カラオケ店でクリスマスパーティーをすることに決まったのだ。


 駅前で待ち合わせをしてから、皆で好きなカットケーキを買いに行き、それからカラオケ店に向かった。

 皆考えることは同じなのか部屋は全てが満室だったが、あらかじめ予約をしていた桜瀬のおかげで部屋に入ることが出来た。


 部屋の中は四人でも広いくらいで、皆は到着するなりソファーに腰を下ろした。俺と瑠愛が隣に座り、テーブルを挟んで向かいには桜瀬と逢坂が座っている。


「えー、テステス、カラオケだからマイクも使えるんですね」


 ピンク色のマイクを持った逢坂の声が、スピーカーから聞こえてくる。


「お、いいね愛梨ちゃん。そのままパーティー開始の音頭を頼むよ」


 桜瀬がニコニコと笑いながら、隣に座る逢坂にそんな無茶ぶりをした。さすがの逢坂もそれは嫌なのではと思ったが……。


「え、まじすか。わたしなんかがそんな重要な役を?」


「もちろん。嫌ならパスしてもいいけどね」


「やりますやります! わたしが始まりの音頭を取らせて頂きます」


 どうやらノリノリなようだ。確かに逢坂はこういうのが好きそうだなと、彼女の髪や化粧を見て思った。

 逢坂は「あー、あー」とマイクの音量を確認したあと、「んんっ」と咳払いをしてから始めた。


「えーと、今日はわたしの案でカラオケでのクリスマスパーティーを開くことになりました。みんなで食べて飲んで歌って楽しい時間を過ごしましょう! 飲み物はまだ注文してませんが、持ってるフリをして乾杯します! それでは、メリークリスマス!」


 飲み物を持ってるフリをしながら、逢坂は手を天井に向かって掲げた。それを真似るように、二年生組も「メリークリスマス」と言って何も持っていない手を突き上げて乾杯をした。


 ☆


 それぞれに飲み物を注文したあと、四人でプレゼント交換をした。


 それぞれのプレゼントはあみだくじで決めた。俺は逢坂から四色のボールペン。瑠愛は桜瀬から手作りのスノードーム。桜瀬は俺から懐中時計。逢坂は瑠愛から水色の髪飾りと、上手くプレゼントがバラけて行き渡った。


「ねえ、せっかくカラオケに来たんだし何か歌おうよ」


 テーブルを挟んで向かい合わせに座る桜瀬が、俺の顔を見ながらそんな提案をした。


「歌かー、何か歌えるのあるかなー」


 カラオケなんて中学生以来初めてのことなので、歌える曲が分からない。


「いいですねー。先輩達が歌ってるところ見てみたいです」


 フライドポテトをつまんでいる逢坂からも期待の目を向けられる。こうなると歌えないなんて言える雰囲気ではない。


「分かった。なにか歌うか」


「お、ノリいいね。一人で歌うの恥ずかしいから一緒に歌おうよ」


「いいぞ。桜瀬の知ってる曲教えてくれ」


「えっと、アタシの知ってる今日はねぇ……」


 テーブルに置いたデンモクを二人で眺めながら、一緒に歌う曲を考える。俺が知っていて桜瀬が知らなかったり、逆に桜瀬が知っていて俺が知らなかったりする曲ばかりで、二曲しか二人が歌えそうな曲はなかった。その二曲から歌えそうな方を選んだ。


「ふー、緊張するー」


 スピーカーから前奏が流れ出すと、桜瀬が胸に手を当てながら照れたように笑った。


「先輩! 立って歌いましょ! そっちの方が声出ますって!」


 逢坂に言われて、俺と桜瀬はその場で立ち上がった。瑠愛は俺と桜瀬の顔を、興味津々な目付きで見ている。

 こんなに緊張しながら歌えきれるだろうかと思っていたが、いざ曲が始まるとすんなり歌えてしまった。桜瀬と声を合わせて歌うのは照れくさかったが、たまにはこういうのもいいかと開き直った。瑠愛と逢坂に見守られながら、無事に曲が終わった。それと同時に、瑠愛と逢坂から拍手が送られる。


「ふぅ……緊張したー」


 桜瀬は汗を拭うようなジェスチャーをすると、すっきりしたような顔を浮かべた。


「でも歌えるもんだな」


「湊ところどころ歌詞間違ってたけどね」


「バレてたか」


「そりゃあ一緒に歌ってるんだもん」


 桜瀬は「あはは」と笑うと、そのままソファーに腰を下ろした。俺も彼女を追うようにして座り、一息つく。


「歌える空気になったんで今度はわたしが歌いますかね〜。瑠愛先輩、一緒に歌いません?」


 逢坂がキラキラとした目で尋ねると、瑠愛は首を横に振った。


「私、知ってる曲ないから歌えない」


「え、音楽聴かないんですか?」


「うん、全然聴かない」


 驚いた目をした逢坂は、そのままこちらを向いた。一緒に同棲している俺に真偽を求めているのだろう。


「そう言えば瑠愛が音楽聴いてるところは見ないな。音楽番組とかやってても、すぐにバラエティーとかニュースに変えちゃうから」


 家に居る時の瑠愛を思い浮かべながら言うと、逢坂だけでなく桜瀬も驚いたような顔を作っていた。


「それじゃあわたしがソロで歌ってみせます! こう見えて色々と音楽知ってるのでリクエストがあれば是非!」


 デンモクを手に取った逢坂は、桜瀬からリクエストされた曲を入れる。

 彼女の歌声はとても可愛らしく、聴いて心地の良いものだった。

 それからは食べ物を食べたり、歌を歌ったりなどして、今年のクリスマスパーティーは終わりを告げた。


 カラオケでのクリスマスパーティーというのは新鮮だったが、個室なのでリラックスした時間を過ごすことが出来た。この案を出してくれた逢坂には感謝しかない。明日からは切り替えて、受験勉強を進めることにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る