赤と黒のペンダント
あっという間に冬休みに入り、今日はクリスマスイブ。
大学受験に向けて日々勉強をしていたので、時間が過ぎるのが早く感じる。
でも今日は息抜きだ。今年のクリスマスイブは瑠愛と一緒に、有名なイルミネーションを見に来た。
電車に乗って四十分程で、目的地である大きな公園に到着した。その公園には様々なイルミネーションがあり、多くのカップルでごった返していた。こんなリア充で埋め尽くされた空間、昔の俺なら耐えきれなかっただろう。でも今は違う。俺にだって可愛い彼女が居るのだ。
「綺麗……」
瑠愛は俺の腕に絡みつくようにして、腕を組んでいる。
空は暗いが、イルミネーションの光で瑠愛の顔がよく見える。
「これ、作るのにどれくらい時間かかったんだろうな」
周りを見渡せば、どこを見てもイルミネーションが広がっている。キャラクターの形をしたもの、サンタやトナカイの形をしたもの、壁のようになっているものなどなど。数え切れないくらいのイルミネーションがあった。
「三日くらい?」
「絶対に三日ではないと思うぞ」
「そう」
なぜか残念そうな顔をする瑠愛。そんな彼女の横顔は、赤や青のイルミネーションが反射してとても綺麗だ。
「湊、あっち見てみたい」
瑠愛が指さしたのは、イルミネーションで出来た光のトンネルだった。
「おお、いいね。行ってみようか」
方向転換をしてトンネルに向かい、光のトンネルに足を踏み入れる。
「確かにこれは綺麗だな」
「でしょ」
「瑠愛が作ったわけではないだろ」
「うん、そうかもしれない」
最近の瑠愛はこうやって、ふざけることも増えてきた。
「なあ瑠愛」
「ん、どうしたの?」
「今、楽しいか?」
前までなら、「分からない」などの言葉が帰って来ていただろう。でも最近の瑠愛は笑ったり悲しんだり出来るので、もしかしたら回答が変わってくるんじゃないかと思ったのだ。
瑠愛は少しだけ考えたように俯いてから、俺の顔を覗き込んだ。
「心がフワフワするの。これは、楽しい?」
心がフワフワする、か。そう言われてみて、今の自分も心がフワフワとしていることに気が付いた。
「俺も心がフワフワしてるから、きっとそれが楽しいってことなんじゃないか?」
きっと……いや、間違いなくそうだ。今の瑠愛は、絶対に楽しいと思ってくれているはず。それを思って言うと、瑠愛は驚いたような表情を作ってから、頬を緩めて胸に手を当てた。
「これが楽しい……」
『楽しい』という感情を噛み締めるように呟いた瑠愛は、俺の顔を見て不慣れな笑みを作った。
「湊と一緒に居るの、すごく楽しい」
イルミネーションに照らされたその笑みは、間違いなくこの公園で一番綺麗なものだっただろう。
☆
一通りイルミネーションを見終わり、俺たちは駅前のアンティークな雑貨屋さんに立ち寄った。理由はもちろん、瑠愛にクリスマスプレゼントを買うためだ。
雑貨屋さんの店内は広く、クリスマスイブだからなのか、ここにも多くのカップルの姿がある。
「瑠愛、どんな物が欲しい?」
「うーん、湊が居てくれれば何もいらない」
めちゃくちゃ嬉しいことを言ってくれるじゃないか。まさかこんなセリフを現実で、しかも自分に向けて言われるとは思ってもいなかったので、とてもくすぐったい気持ちになった。
「俺はずっと瑠愛のそばに居るから安心してくれ。その上で何か欲しいものはあるか?」
「んー、探してみる」
「おう、探してみてくれ」
瑠愛はこくりと頷くと、俺の腕を引っ張りながら店内を散策し始めた。
棚にはびっしりと雑貨などが置いてあって、それをひとつひとつ手に持って確認することが出来る。なんて良いお店なのだろうか。
「これ、なに?」
今まで無言で雑貨を見ていた瑠愛が、手に持っている物を俺へと見せた。彼女の手に握られているのは、赤色のハートのペンダントだった。
「ペンダントだな」
「ネックレスとどう違うの?」
「……分からん」
「分からないんだ」
「多分、あんまり違いはないと思う」
「そう」
瑠愛はそれ以上は何も聞くことはなく、手に持っていたペンダントを首に掛けた。赤色のハートのペンダントトップが鎖骨辺りにあり、彼女の銀髪と相まって美しい。
「どう?」
「めっちゃ似合うな。赤色のハートが主張しすぎてなくていい」
「そう。じゃあ私はこれにする。一目惚れした」
瑠愛はそう言ってから、首に掛けていたペンダントを取った。
「ペンダントでいいのか? 瑠愛、あんまり装飾品とかしないよな?」
「うん。でも気に入ったから」
「そうか。それならいいんだけどな」
「それで、湊にはこれを買ってあげる」
瑠愛は棚から同じデザインをしたペンダントを取った。しかしこのペンダントトップは、赤色ではなく黒色のハートだ。
「え、瑠愛が買ってくれるのか?」
「うん、お揃いのペンダント。色は違うけど」
お揃い……なんて良い響きの言葉なのだろう……。
瑠愛が赤色で俺が黒色。うん、すごくいい。
「でも高いんじゃないか?」
「どっちも五千円くらい」
やっぱり値段はそれなりにするよな。働いていればどうってことない金額だろうが、俺たちはバイトもしていない高校生だ。五千円という値段がどれだけ高価なのか……しかし一年に一度しかないクリスマス。覚悟を決めるしかない。
「五千円もするけど……瑠愛はいいのか?」
「うん、あんまりお金使うところないし。湊がいいなら、これがいい」
瑠愛が物に執着を見せるのは珍しい。これは買ってやらなければ。
「じゃあお互いにプレゼントし合うか。お揃いのペンダントだな」
そう言ってみせると、瑠愛は食い気味に「うん」と頷いた。
☆
雑貨屋さんから出て、帰りの電車に乗るために駅へと向かう。街灯に照らされた歩道は、二人が横に並んでもまだスペースがある。
俺の腕を掴む瑠愛の首には、赤色のハートをしたペンダントが掛かっている。一方の俺も、黒色のハートをしたペンダントを首に掛けている。
「ペンダント、よく似合ってるぞ」
彼女を見下ろしながら言うと、彼女はこくりと頷いた。
「湊も似合ってる」
「おう、ありがとうな」
今まで装飾品なんて全く買ったこともなかったので、彼女とお揃いのペンダントを付けているのがちょっとだけ照れくさい。
電車内では瑠愛の銀髪はすごく目立つので、きっと乗客も俺たちのネックレスに気付くことだろう。
「なんかいいな、お揃いって」
「うん、お揃い嬉しい」
瑠愛が喜んでいる姿を見られて、俺もすごく嬉しい。
あとはこのまま帰るだけ。そう思うと急に、なんだか寂しい気持ちになり……。
「なあ瑠愛」
「どうしたの?」
「キスしよう」
人通りの少ない歩道だが、決して誰もいないわけじゃない。こんなところでキスなんて、やっぱり恥ずかしいよなと思ったのだが……。
「うん、する」
瑠愛は何の躊躇いもなく首を縦に振ってくれた。
「いいのか?」
「どうして?」
「周りに人が居るから」
「そんなの、気にしない」
そうだな。周りの人達なんて気にしないのが瑠愛だ。
その場で俺が足を止めると、腕を組んでいるので瑠愛も足を止めた。
「じゃあ、するぞ」
「うん」
外でキスなんてあまりしないので緊張しながらも、恐る恐ると瑠愛の唇にキスをする。弾力のある唇は、間違いなく瑠愛のものだ。
顔を離すと照れくさくなり、思わず笑みがこぼれた。それを見た瑠愛も、頬を緩めて柔らかく笑った。
「湊、大好き」
「ああ、俺も大好きだ」
お互いに分かりきったことを言い合う。それがとても幸せで、俺は思わず吹き出した。
急に笑い出した俺を見て瑠愛はキョトンとした顔を浮かべたが、何を思ったのか頭を撫でてくれた。
彼女から頭を撫でられるのは初めてだったが、決して悪い気分はしなかった。
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