アルバム作り
貸切状態の海を満喫したあと、五人はヘトヘトになりながらコテージへと戻った。
順番ずつシャワーを浴びてリビングでダラダラとしていると、縁側の窓から見える空は赤く染まっていた。
「わぁ、海がすごく綺麗ですよ!」
縁側の窓から外を眺めていた逢坂は、リビングでダラダラとする俺たちに笑顔を向けた。シャワーを浴びたので、逢坂はすっぴんである。
「え、見たい見たーい」
一番に反応したのは桜瀬で、ソファーから腰を上げると早足で逢坂の元へと向かった。
「すご! これは綺麗だ……」
「ですよね! めっちゃテンション上がりますよね!」
「だね! ちょっと縁側に出て写真撮ろうよ」
「いいですね!」
はしゃいでいる二人を見て、俺と瑠愛、それに推川ちゃんも縁側に集まっていく。
逢坂が縁側の窓を開いて外に出ると、赤い夕日に照らされる海があった。昼間まで青かった海がオレンジ色に輝く光景は、非現実感がある。
「えー、私も写真撮りたーい」
推川ちゃんもスマホを片手に外へ出て、逢坂と一緒に夕日と海が両方映る場所を探し始めた。
二人に桜瀬も混じるんじゃないかと思っていると、彼女は夕日とは全く違う場所をスマホで撮影し始めた。
「何撮ってるんだ?」
「んー? 夕日を撮ってる愛梨ちゃんと推川ちゃんを撮ってるの」
「何でまたそんなことを」
「ついさっき思い付いたんだけど。旅行の写真をアルバムにしたいなーって思って」
桜瀬はそう言いながらこちらに顔を向けると、困ったように眉尻を下げて照れ笑いをした。
「おぉ……お前にしてはすごくいい案だな……」
「お前にしてはって何よ」
「いや、それは冗談としても普通にすごくいい案だと思う」
「そう? そう言ってくれると嬉しいねー」
桜瀬はそう言いながらこちらにスマホのレンズを向けて、カシャリと写真を撮った。俺の横には瑠愛も居るので、彼女とのツーショットになったことだろう。
「お、いいねー。お似合いカップル」
桜瀬はニヤニヤとしながら、スマホの画面をこちらへと見せた。そこには夕日に照らされてやや赤みを帯びた俺と瑠愛が、カメラ目線で映っていた。
「いい写真」
写真を見た瑠愛はポツリと呟くと、自分のスマホを取り出して、こちらにレンズを向けてカシャリと写真を撮った。
「よく撮れたかも」
瑠愛が撮った写真を見ると、俺が驚いた顔を浮かべる後ろで桜瀬が笑顔を浮かべていた。それだけを見ると普通の写真だが、夕日がいい感じになって哀愁を感じさせる。
「いい写真……なのか?」
「いい写真でしょ。湊っぽさが出てるよ」
「そう言う桜瀬も桜瀬らしさが出てるぞ」
やっぱり桜瀬は笑っている顔がよく似合う。
ん……? 驚いているところが俺っぽいってどういうことだ……?
「二人とも良さが出てる」
そう瑠愛が呟いたのを聞いて、俺と桜瀬は顔を合わせて笑みを見せ合った。
「ねえねえ、湊も瑠愛も一緒にアルバム作り手伝ってよ」
「おう、全然いいぞ」
「うん、私もやる」
俺と瑠愛が自分のスマホを手にすると、桜瀬は「やったね」と言って笑った。
「いいねー、アルバム作り。私も参加しちゃおうかなー」
唐突に聞こえてきた推川ちゃんの声に、三人が同時に振り向く。するとそこには、外に出ていた推川ちゃんがこちらにスマホのレンズを向けていた。
落ち着いてピースをする桜瀬と瑠愛に挟まれ、俺も遅れてピースをしようとしたが遅かった。何もポーズをしないままシャッターが切られてしまった。
「ふーん、我ながらいい写真ね」
推川ちゃんはそう言って笑うと、今度は海を撮影し終えた逢坂を撮り始めた。
「おお、夕日じゃなくてわたしですか」
「アルバムを作るんだってー。あとすっぴんの愛梨ちゃんはレアだから撮っておこうと思った」
「ああー! 化粧してないの忘れてた……ちょっと今はタンマで」
「えー、残念」
逃げるようにして戻って来た逢坂は、桜瀬の隣に腰を下ろした。
「アルバム作るんですか?」
「うん、アタシが一年生の時に行った旅行ではあんまり写真残せなかったなーって後悔したから、今回はいっぱい写真撮ろうと思ったんだよね。それにどうせ写真撮るなら、アルバムとか作ってもいいかなって思ってね」
「めちゃくちゃいいアイディアですね! わたしも手伝います!」
「愛梨ちゃんも手伝ってくれるんだ。いっぱい写真撮ろうね」
「はい! ガンガン撮っていきます!」
これで五人全員がアルバム作りに参加するようだ。となるとアルバムに入りきらない写真も出てきそうだが、それもご愛嬌だろう。
「はいはーい、みんな撮るよー」
四人一列で縁側に座っていると、推川ちゃんがこちらにスマホのレンズを向けた。
「えー、推川ちゃんは混ざらないのー?」
「混ざりましょうよー」
生徒の写真を撮ろうとしている推川ちゃんに、桜瀬と逢坂が手招きをした。
「だって撮る人居なくなっちゃうじゃない」
「タイマー機能があるよ!」
間髪を入れずに答えた桜瀬に、推川ちゃんは困った笑顔を作りながら辺りを見回すと、近くにあった石のテーブルの脚にスマホを立て掛けた。
「これでいいか……十秒でタイマー設定するからねー」
推川ちゃんはそう呟いてスマホを操作すると、俺たちが座る縁側まで小走りでやって来て、一番端で膝を着いて座った。
「ポ、ポーズはどうするんですか!?」
逢坂が思い付いたように言うが、残り五秒もないだろう。
「適当に! なんか適当にポーズして!」
慌てた口調で桜瀬が言うと、皆それぞれのポーズをした。どんなポーズをしようかと考えていると、瑠愛は俺の腕を取った。
そこでシャッターは切られた。
皆で撮った写真を見てみると、瑠愛と腕を組んでいる俺は驚いた顔をしていて、逢坂に抱き着かれた桜瀬は笑顔を浮かべていて、推川ちゃんは両手でピースをしていた。
最高の写真だ。この写真だけは何があっても大切にしていこう。そう思えるような記念写真になった。
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