楽しい時こそ気をつけて
バドミントンのチーム分けをするためにグッパーをして、俺と逢坂チーム、柊と桜瀬チームに分かれた。まずはこの二チームで対決をして、勝った方が経験者である推川ちゃんに勝負を挑める。そこで推川ちゃんに勝てば、コンビニで全員にお菓子を買ってもらえるというわけだ。
推川ちゃん以外の四人はラケットを手にして、周りに人が居ないことを確認してから芝生へと出る。
ルールをおさらいすると、ラケットでシャトルを打ち合い、先に五回地面に落としたチームが負け。つまり五点を先取した方が勝ちというルールだ。もちろんネットなんて用意していないので、そこら辺はなんとなくでプレイする。
バドミントンをやったことがなかった柊は、推川ちゃんと一緒にシャトルを打ち合って、どうにか感覚を掴むことが出来たようだ。
「ふっふっふ、湊先輩、後ろは任せてください」
「ああ、後ろは任せたぞ」
二人で話し合った結果、俺が前衛で逢坂が後衛になった。
「瑠愛、アタシの後ろは任せたよ」
「うん、任せて」
対戦相手のチームは、桜瀬が前衛で柊が後衛を務めるようだ。ちなみにシャトルは桜瀬が持っているので、相手からの攻撃になる。
「それじゃあみんな、準備はいい?」
審判である推川ちゃんはレジャーシートに座りながら、俺たち四人の顔を見回した。生徒四人が頷いたのを確認してから、推川ちゃんは「ラブオール、プレー」とそれっぽい試合開始の合図を出した。
「いきまーす」
桜瀬はそう口にしてから、シャトルを頭上に放り投げてラケットで打った。シャトルが俺の近くに来たので、柊の方へと打ち返してあげる。柊はゆらゆらとした足取りながら、力いっぱいにラケットを振るった。すると一瞬でラケットは俺の横を通りすぎ、見落としてしまう。
「逢坂!」
「任せてください!」
身を屈めながらもシャトルを打ち返した逢坂。それに反応出来ずに、桜瀬はシャトルを取り逃してしまう。シャトルが地面へと落下すると、俺たちに一点が入った。
「ああああああ! もう悔しい! 次は絶対に決めるから」
そう口にしながらも楽しそうな表情をしている桜瀬は、シャトルを拾って俺へと手渡した。
そんなことを何度か繰り返している内に、気付いた時にはどちらも四点を取っていて、互角の争いを繰り広げていた。
「紬、私が前衛やりたい」
お互いに残り一点を先取した方が勝利というところで、柊がそんな提案をした。
「分かった。じゃあアタシが後衛に回るね」
どうやら相手チームは前衛と後衛を入れ替えるらしい。
「逢坂、俺たちはどうする?」
「後衛にも慣れてきたし、勝ちにいきたいんでこのままでいいんじゃないですかね」
「そうだな、このままでいこう」
話し合いの結果、俺たちはこのまま続けていくことにした。
そしてまたプレイ開始。俺のサーブから始まり、桜瀬にシャトルが渡る。桜瀬は俺の手前に落ちるように加減をするが、なんとかシャトルを拾う。ギリギリで拾ったシャトルは柊に簡単に打ち返されてしまい、何とも微妙な位置にシャトルが飛んでいく。俺の頭上を飛んでいくシャトルを打ち返そうと後ろ歩きをしていると、背中に何かが当たって足がもつれた。
「おわ!」「ちょ、先輩!」
二人の声が重なると、足がもつれた勢いそのまま地面へと倒れてしまう。
「いってえ……」
うつ伏せで地面に倒れたはずなのに、顔には枕のような柔らかさをしたものが押し付けられている。顔に当てられているものは絶妙に柔らかく、弾力があって気持ちがいい。このままずっとこれを枕にして寝ていたいと思っていると……。
「あの……先輩……重いんですけど……」
すると頭上から逢坂の声が聞こえてきた。その声の近さにハッとして目を開くと、柔らかいものの招待が分かってしまう。
「おっ……ぱい……」
それが分かった瞬間、俺は慌てて頭を上げた。そこには芝生の上で仰向けに倒れている逢坂の姿があり、俺の頭が置いてあった場所には大きめな胸が二つの山を作っていた。
──逢坂、こんなに胸が大きかったのか……。
「ご、ごごごごめん……! 本当にごめん!」
俺の下敷きになって倒れていた逢坂は顔を真っ赤にさせて、じっとこちらを見ている。
「先輩、そろそろどいて欲しいのですが……」
俺が逢坂に覆い被さるような構図であることに気が付き、さすがにまずいと急いで立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。
「本当にごめん! わざとじゃないんだ」
「わ、分かってるので大丈夫です。わたしも前を確認してなかったからいけないので」
「怪我とかはないか?」
「ないと思います……あ、ありがとうございます」
顔を真っ赤にさせた逢坂は俺の手を取って立ち上がり、服に付いた芝を手で払った。
何とか一件落着かと思って対戦相手である桜瀬と柊の方に視線をやると、二人ともジトッとした目をこちらへと向けていた。
「な、なんでしょうか……」
心当たりはある。しかしそれを言葉には出来ず、彼女たちからの刺さるような視線を体で受け止めるしかない。
「湊って本当にそういうところあるよね」
「ラッキースケベ」
桜瀬と柊から言いたいように言われ、それらから逃れようと推川ちゃんの方を見ると、彼女は「あははー」と苦笑いを浮かべた。
「まあ今のは不慮の事故だったけど、点数は紬ちゃん柊ちゃんチームに入ったからね。紬ちゃん柊ちゃんチームの勝ちだよ」
変な決着のつき方になってしまったが、俺と逢坂はもう一歩のところで柊と桜瀬ペアに敗退してしまったようだ。
その後は何とか楽しい空気を取り戻したが、経験者の推川ちゃん相手には柊と桜瀬ペアでも手も足も出せていなかった。俺と逢坂ペアも頭を下げて推川ちゃんと対決したが、やはり足元にも及ばなかった。
「君たちもまだまだだね〜。でも帰りにお菓子は買ってあげるから安心しな〜」
その推川ちゃんの締めの一言で、ボロ負けして不貞腐れていた桜瀬と逢坂は一瞬で機嫌を治した。
ちょっとした事故があったバドミントンだったが、何だかんだで良い思い出となった──と思う。
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