意外と仲良しなんだよね
太陽の光が部屋に差し込み、自然と目が覚める。目の前には、見慣れない木の天井が広がっていた。
そこでようやく、屋上登校をしている皆と旅行に来ていたことを思い出す。
久しぶりに布団を敷いて寝た。体を起こすと、朝の寒さが身を撫でる。
「うわ、さむっ……」
もう一度寝てしまいたい気持ちになりながらも、布団を抜け出して立ち上がる。カーテンを開くと、思わず目を閉じたくなるような日差しとともに、すっかり痩せてしまった木々が生い茂っていた。
「ふあ……」
大きな欠伸を浮かべながら、部屋から出ようと扉を開ける。すると扉を開けた先に、人影があることに気が付いた。
「うお、びっくりした〜」
そう声を上げたのは、赤い縁のメガネを掛けた桜瀬だった。彼女は普段からコンタクトをつけていたらしく、視力がどちらも0.5を切っているのだと昨日初めて知った。
まだコンタクトを入れていない彼女だが、髪型はしっかりとサイドテールをしている。
「おはよう」
そう声を掛けると、桜瀬はにこっと微笑んだ。
「おはよ」
お互いに朝の挨拶を交わす。普段から言っている「おはよう」だが、今日はちょっとだけ特別な気分だ。
そんな不思議な気分に浸っていると、桜瀬は小首を傾げた。
「今起きたの?」
「あー、うん。さっき起きたばっかり」
「だよね、すごく眠そうだもん」
眼鏡を掛けたことで普段よりも大きく映る桜瀬の瞳は、濁りのない茶色だった。その瞳を細めて、愛嬌のよい笑顔を向けられる。
彼女からの笑顔をきっかけに、俺と桜瀬は並んで廊下を歩き始める。
「眠いというよりは寒い方が強いかな。桜瀬も今起きたのか?」
「三十分くらい前に起きて、ずっとゴロゴロしてた」
「あー、朝はゴロゴロしてから起きないとキツいよな」
「そうそう、寒かったりすると特に」
「だからたまに出席の時間ギリギリに登校してくるのか?」
「それもあるかな。でも大半は電車に乗り遅れた時に遅れるかも」
「そっか、桜瀬は電車通学だもんな」
テンポの良い会話をしながら二人並んで廊下を進み、階段を下りていく。すると一階からは、テレビの音が聞こえて来た。
「誰か起きてるね」
「予想は推川ちゃんで」
「じゃあアタシはひな先輩に一票〜」
二人で予想を立てながら、リビングのドアを開く。中からはモワッと暖房の熱気が漏れてきた。
「お、ようやく起きたわね。おはよう、二人とも」
リビングに入ると、ソファーに座ってテレビを観ている推川ちゃんがこちらに笑顔を向けていた。
リビングには推川ちゃん以外に人の姿が見当たらない。
「俺の当たりだな」
「えー、推川ちゃんかー」
暖房の熱が逃げないようにとドアを閉めて、俺と桜瀬はフカフカのカーペットの上に腰を下ろした。
「推川ちゃんかーってどういうことよ」
「なんでもありませーん」
マグカップを片手に持っている推川ちゃんは、イタズラ顔を浮かべている桜瀬を見てクスリと微笑んだ。
「全くもう。朝から楽しそうなんだから。二人ともコーヒーかココアどっちがいい? 作ってあげるわよ」
推川ちゃんはそう言いながら、ソファーから腰を上げた。
「俺はコーヒーで。牛乳も入れて」
「アタシはココアがいいなー」
別々の注文になってしまったが、推川ちゃんは嫌な顔ひとつせず「はいよー」と返事をしながらキッチンへと向かっていた。かと思えば、ひょこっと顔を出した。
「あ、そろそろひなちゃんと柊ちゃんも起こして来てくれる? そろそろお昼ご飯も作らないといけないから」
推川ちゃんの言葉に俺と桜瀬は「え」と声を漏らしながら、同じタイミングで時計を確認した。時計は十時半であることを表していた。
「うわ、もうそんな時間だったのか」
「九時くらいだと思ってたんだけど」
俺も桜瀬も起きた時間を確認していなかったらしい。時計から視線を外して、桜瀬と向き合う。
「手分けして起こしに行こうか」
「そうだな。そっちの方がいいかもしれない」
「じゃあアタシがひな先輩起こしに行くね」
「珍しいな。桜瀬のことだから柊のこと起こしに行くかと思ったんだけど」
いつもベッタリとくっついては親友だと言っているので、てっきり桜瀬は柊のことを起こしに行くのかと思っていた。しかし桜瀬は苦笑いを浮かべながら、どこか言いづらそうに口を開いた。
「だってひな先輩、寝てるとたまに脱いじゃうじゃん」
桜瀬にそう言われて、ひな先輩が下着で寝ていた日のことを思い出す。
「あー、そういえばそうだったな」
「でしょ? だからアタシがひな先輩を起こしに行った方がいいかなーって思ったんだけど」
「分かった。じゃあ俺は柊のことを起こしに行くわ」
「おーけー。それじゃあ起こしに行こうか」
桜瀬は立ち上がって伸びをすると、まだカーペットに座っている俺へと手を差し出した。
「ほら、さっさと行くよー」
急かすような言い方をされて、差し出された彼女の手を掴む。ほんのりと冷たい彼女の手は柔らかく、女子の手だった。
「はいはい」
桜瀬の手を頼りにして立ち上がると、キッチンから「頑張ってねー」と推川ちゃんの声が聞こえて来た。二人揃って「はーい」と返事をしてから、キンと冷えている二階へと向った。
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