何度目かのクイズ大会
食料を買うためにスーパーへ寄りながら、車に揺られること二時間程で目的地である柊の親戚の別荘に到着した。
山の中というだけあって、辺りには草木が生い茂っている。
「ここが瑠愛の親戚の人が使ってる別荘……」
驚きで口をポカンと開いている桜瀬だが、その反応をするのも無理はない。
俺たちを見下ろすようにして立っている家は、二階建ての立派な木造のコテージだった。
「柊の親戚は何をやってる人なんだ……」
「分からない」
「分からないのか」
「うん」
柊は普段通りの無表情を浮かべていて、銀髪が冷たい風になびいても邪魔そうな素振りは一切見せない。
「ほえー! こんなところでクリスマスパーティー出来るんだ〜! わたしもオシャレ民の仲間入りだ〜!」
山にも反響するような声を上げて、ひな先輩は誰よりも先にコテージへと走って行った。
ひな先輩を追うようにして俺たちもコテージへと向かっていると、ガレージに車を停めた推川ちゃんも歩いてやってきた。
「すごいわね……柊ちゃんの親戚さん……」
桜瀬と同じように口をポカンと開いている推川ちゃんに、柊は「どうも」とぺこりとお辞儀をした。
「よっしゃー! わたしが一番乗りだぁぁぁ!」
その間にもひな先輩は柊から受け取った鍵を使ってドアを開き、コテージの中へと入って行った。
「ひな先輩、元気だね」
隣を歩いていた桜瀬は穏やかな表情を浮かべながら、俺の顔を覗き込んだ。不意に顔を覗き込まれたことでドキリとさせられながらも、「そうだな」と平静を装って言葉を返した。
これからこのコテージでどんな二泊三日を過ごすことになるのかと妄想を広げながら、俺たちもひな先輩に遅れて木の匂いが香るコテージへと足を踏み入れた。
☆
コテージの中をぐるりと見て回った。二階にあるいくつかの部屋から自分の寝室となる部屋を決めて、そこへ持ってきた荷物を置いてから、五人は一階にあるリビングに集合した。
「部屋も無事に決まったし、ようやく一段落ついたね」
フカフカのカーペットに座っている桜瀬はそう言いながら、膝を枕にして寝転がっている柊の頭を撫でている。
「一段落もついたしお腹空いちゃった〜」
時計の針は十三時を指しているので、自然とお腹が空く時間だ。
緑色のソファーに腰掛けている推川ちゃんがお腹をさすりながら言うと、カーペットに座っていたひな先輩が手を上げながら立ち上がった。
「わたしもお腹空いた! ということで学生諸君はお昼ご飯を作りに行きます! 推川ちゃんは長時間運転で疲れただろうから休んでて!」
「えー、嬉しいありがとー」
昼食が出来るまで休めることが分かった推川ちゃんは、ソファーの上に体を倒して横になった。
唐突にお昼ご飯を作ることを知らされた一年生組は、皆キョトンとした顔でひな先輩を見ている。
「ひな先輩、お昼ご飯は何を作るんですか?」
顔の横で手を挙げながら尋ねると、ひな先輩はニヤリとした笑みを浮かべた。
「湊くんいい質問だね! こんな山奥に来たからにはアレしかない──ということで何だと思いますか! はい湊くん!」
ひな先輩お得意のクイズだ。
山奥に来て食べたいものを頭に思い浮かべるが、候補が多いため選ぶのにも苦労する。それでもその中から選んだのは──。
「外に出て山の空気を吸いながらラーメンとか」
「それも魅力的だけどラーメンを持ってきてません! 外に出るのは当たってるから五十点だね!」
たしかにスーパーでラーメンを買った覚えなんて無かった。しかしひな先輩のクイズで、初めて五十点を貰えたので良しとしておこう。
「それじゃあ次は推川ちゃん! 何だと思う!」
教師の自分は指名されないと思っていたのか、油断していた推川ちゃんは「私?」と声をひっくり返した。
「えー、なんだろう。鹿のお肉とか」
「鹿のお肉も買ってません! 食べたことないから食べてみたいけども!」
「美味しいよー。機会があったら食べてみな」
「絶対食べる! でもわたしの考えてたお昼ご飯じゃないから外れね」
おかしそうに笑った推川ちゃんは、「残念」と肩をすくめた。
「じゃあ次は瑠愛ちゃん!」
ひな先輩から指名された柊は、桜瀬の膝の上で首を傾けた。
「スイカ?」
「うん、季節が真逆だね! お昼ご飯としてもどこか物足りないし不正解!」
「かき氷」
「解答権はひとり一回までです! もちろん不正解! というか瑠愛ちゃんの気分は完全に夏なんだね」
ひな先輩は柊がコクリと頷いたのを見てから、桜瀬へと指をさした。
「それじゃあ最後は紬ちゃん、何だと思う!」
「アタシ正解分かってますよ。バーベキューですよね?」
「すごい! 何で分かったの!?」
「だってさっき、ひな先輩が二階でバーベキューのコンロを見つけてはしゃいでるところ目撃しましたから」
「恥ずかしいところを見られてた……けど紬ちゃん大正解! ということでお昼ご飯はバーベキューです」
自然に囲まれてバーベキューか……考えただけでもヨダレが出てきそうだ。するとひな先輩は振り向いて、俺の顔を見た。
「湊くんは二階にあるバーベキューコンロを外に運んでくれる?」
「分かりました」
男は一人しか居ないので、力仕事があれば俺に回ってくるのは当然である。
ひな先輩は笑顔で「ありがとう!」と言うと、今度は桜瀬と柊の方を向いた。
「女子チームは料理ね! バーベキューだから切って焼くだけだけど」
「了解です!」「はい」
桜瀬と柊が返事をすると、ひな先輩は満面の笑みを作って拳を天井に向けて突き上げた。
「よーし! それでは皆の衆、作業に取り掛かれー!」
ひな先輩の掛け声をきっかけに、学生組は割り振られた作業に取り掛かった。
ソファーに寝転がっている推川ちゃんは生徒たちを目で追いながら、「青春ねぇ」と感慨深そうな声を漏らしていた。
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