第48話 説明
すぐにシャルムが回復魔術をかけてくれ、炭化は免れたものの、靴がなくなってしまった。
シャルムのローブの一部を切り取らせてもらい、足に巻いて応急処置とする。
「ノト、大丈夫か?」
「なんとか」
リズが心配して声をかけてきた。それに笑顔で答える。
傷は綺麗に治ったが、一度頭に走った痛みはなかなか消えず、脳の一部が
「シャル、こうなりたくなきゃ逃げろ」
「嫌だ」
「ノト」
「無理ですね。走るエルマキアから飛び降りようとしたくらいですから」
「シャル、聞きわけろ」
「聞きわけていないのはリズだ。わかっているだろ? 逃げなきゃいけないのは、僕ではなくて、リズの方だ」
「それは……」
リズが言いよどむ。
そしてドラゴンが攻撃してきたのを見て、はっと前へ出た。
「シャルム、援護を」
俺も前へ走り、炎の球は魔法陣で防ぎ、二人でドラゴンの攻撃を
リズは脚の間を抜け、体を回転させる勢いで
背中側は大した攻撃をしていないので、鱗はほぼ無傷なのだ。脚の
ぶぅんと振られた尻尾を、体をひねったドラゴンの正面に回り込むことでかわす。
その様子を眼下に見ながら、俺は跳躍しながら短剣を放った。落下しながら、刺さっている剣と全ての短剣に雷撃。
でたらめに振られた前脚の攻撃は障壁で防ぎつつ、その勢いに乗って、やや離れた所に降り立った。
サイドからの攻撃を仕掛けようとトリガーを構えたとき、チリリといやな予感がした。
「下がってください!」
途端にドラゴンの頭上の魔法陣が光を強めた。ドラゴンの体からしゅうぅぅと白い煙が出てくる。
ドラゴンの足下にいたリズがシャルムの元へと走っていく。
光がさらに強まると、ドラゴンの傷がみるみるうちに回復し、その下から鱗が生えて来て、割れた古い鱗はボロボロとはがれていった。
「おい……なんだよあれ……」
「回復、したんでしょうね」
「回復!? なんじゃそりゃ。つぅか、なんで水の性質を持つドラゴンが炎を使ってるんだ? あの魔法陣はなんだ」
「……いまさらそれを聞くんですか?」
抜け目なくドラゴンを見張りながら、ちらりとリズを見る。
「むしろこの期に及んで説明しねぇノトがおかしい」
「僕も聞きたい」
「アルトの洞窟と同じですよ」
ドラゴンが炎塊を放ってきたので、それを
しかしすぐに二人は追いついてくる。
「魔法陣を使ってあのドラゴンを強化してるんです。違うのは、魔力源が――」
説明は、押し寄せる炎の波で中断された。
俺が風で迎え撃ち、シャルムが水をかけ、リズが魔石で障壁を張った。
ドラゴンの性質は水だと思って準備していたから、魔法陣も魔石も水系が少ない。
あふれた炎が髪を焼く。
露出の多いリズはもっと大変そうだった。シャルムの防御魔術に守られているとはいえ、赤くはれた所が少し水ぶくれになっている。
炎の波が収まり、視界が広がったそのとき、ドラゴンが突進してきたのが見えた。
俺とリズはそれぞれ左右に身を投げ出したが、背の低いシャルムは気づくのが一瞬遅れ、体当たりをまともに受けて空を舞った。
「シャルッ!」
魔術と魔法陣の障壁を合わせたようだが、踏ん張りがきかず、障壁ごと跳ね上げられてしまったようだ。
「リズはドラゴンを!」
駆け出そうとするリズを制止し、『推進』を起動してシャルムの下に走り込んで受け止めた。その間リズは、ドラゴンを細かく斬りつけながら注意を惹きつけていた。
シャルムは衝撃で意識を失っていて、くたりと力が抜けている。
そこに炎の球がやってきて、シャルムを抱えたまま跳ぶ。
「シャルム、しっかりしてください」
バシバシと頬を叩くも、目を覚まさない。
思い切って、ゴンッと脳天に拳骨を落としてみた。
「っつぅぅっっ!」
あ。起きた。
「大丈夫ですか?」
両手を頭に当てて目をつぶって
「痛がっている所悪いんですが、今はそれどころではないです。体が大丈夫なら、戦線復帰してもらえませんか」
言ったそばから再びドラゴンの炎での攻撃。
でかいのが五つ飛んでくる。
障壁はシャルムに任せ、俺はリズの加勢に入った。
足に斬りつけたり、振られた前脚を斬りつけるも、完全に鱗に弾かれてしまう。
なんとか『雷撃』をお見舞いするも、それほどダメージを負っているようには見えなかった。
「こんのぉぉっっ」
がぶりと噛みつかれそうになったリズが、横に
――と思われたが、ドラゴンはリズをばしりと前脚で叩き落とした。
「かはっ」
リズが地で大きくバウンドし、とさりと落ちる。
間を開けずに、ドラゴンの前脚が、リズの上半身を踏み潰した。
「リズ……!!」
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