第47話 合流
ドラゴンと戦う憲兵たちのもとへ向かっているリズを追いかける。
「シャルム、そんなにしがみつかないで下さい。ちゃんとリズの所に行きますから」
「リズが、リズが……!」
「まだ何も起こってませんから。それより援護を」
「そう、だな」
シャルムはローブの
「いえ、そんな大がかりな回復魔術じゃなくてですね、それだと唱え終わる前に着いちゃいますし、備えるのは大事ですけどね、魔石もあるわけですし、どっちかっていうと、障壁とか、遠距離攻撃とかの方がいいと思いますよ」
「……」
シャルムは一瞬黙ってから別の呪文を唱え始めた。大きな障壁を作り出すつもりらしい。
リズがドラゴンの所にたどり着いた。
後ろ向きになっているシャルムには黙っておく。
腕の光環はあと一本。
だがそれはもはや意味をなさない。
見捨てる勇気がなくて追いかけては来たものの、ここから先のプランは何もないのだ。倒すにしろ逃げるにしろ、成功する算段がつけられない。
でも。
俺は、ここでは死ねない。
いざとなれば二人を――。
ドラゴンはもう目の前だ。
ドラゴンは、俺たちから見て左にいるリズたちに気をとられて下を向いていて、こちらには気がついていない。
せっかくの不意打ちのチャンス、無駄にしてたまるか。
「しっかりつかまっていて下さいねっ」
シャルムを左腕だけで抱え直し、右手でトリガーを弾いた。
『跳躍』『跳躍』
「!!!」
悲鳴を押し殺し、シャルムが首にがっしりとしがみついてくる。
ちょ、息、息がっ!
つかまっていろって言ったのは俺だけど……!
しかしシャルムも必死なのだろう。
声を上げてしまえば唱えた魔術が台無しになる。
最高到達点で体を水平に。
シャルムから片手を離して破砕器を持ち、二回ずつ弾く。
ドラゴンを飛び越えながら、下に見える長い首に向かって、水の塊が四つ飛んでいった。
シャルムを抱え直し、勢いに任せてドラゴンの向こう側に到達したところで、くるりと宙で一回転して着地した。
向き直るより早く、くたりと力を抜きかけたシャルムの体が緊張し、魔術が放たれた。
ドラゴンから吹き付けられた炎がその障壁に沿って広がり、まるで炎でできた壁のようになった。
チッと聞こえてきた舌打ちは、リズのために唱えていたのに、っていう不満からなんだろう。すいませんね、俺のために。
シャルムを下ろして背にかばい、剣を両手に構える。
が、ドラゴンはリズたちの方を向いたままで、こちらへの攻撃は
攻撃が来ないと見るや、シャルムが背後から飛び出した。
仕方なく俺も後を追ってリズの横に並んだ。
憲兵たちの実力次第なところではあるが、リズ一人でしのぎ切れるほどヤワな敵ではない。
「なんで来たんだ! お前に託したんだぞ!? シャルまで連れて来やがって」
「俺は逃げたかったんですけど、シャルムが飛び出してしまったもので。パースへの伝言は頼んできました」
俺の言いたいことが伝わったとして、状況が変わるわけでもないけれど、むしろ絶望に染まるだけだと思うのだけれど、炎対策くらいはできるだろう。
「今からでも遅くねぇから逃げろ」
「嫌だ。リズが逃げないなら僕も逃げない」
「……というわけなんですよ」
ドラゴンの爪がリズを襲う。
リズはそれを体を沈めてかわし、頭上を通り抜けた前脚を立ち上がる勢いで切りつけた。そこに憲兵たちの追い打ちが続く。
ブシュッと血が噴き出す。
鱗ははがれつつあり、傷をつけやすくなっていた。
しかし表面を薄く切る程度でしかなく、致命傷には程遠い。
ガアアァッ
上空に無数の炎の槍が出現した。
『障壁』『障壁』
頭上に張った『障壁』以外の部分に炎の雨が落ちていく。炎はその場でボォと一度大きく燃え盛ってから消えた。
下からの熱風で肌を焼かれ、先程からずっと炎にさらされ続けた
「ぐぅわぁぁ!」
「くぅっ!」
剣を持った憲兵の掲げた魔石の障壁が壊れ、そばにいた魔術師が二人にかけていた障壁もあっけなく霧散し、憲兵たちは全身に炎を受けていた。ごろごろと転がり、やがて動かなくなる。
あっと言う間に炭になった指先がボロリと崩れた。
リズとシャルムが魔石を投げ、シャルムが回復魔術を唱えるも、すでにこときれているのは明白だった。
「こんの野郎ぉぉっっ」
リズがカァッと顔を赤くして、がむしゃらにドラゴンに突っ込んでいった。
右前脚の攻撃を急停止でかわし、左前脚の攻撃は
残った鱗にぶつかってギリギリと音が鳴り、勢いが殺されてしまって、やはり皮膚までしか刃が通らない。
後ろに飛び
上がった後ろ脚に魔術師が攻撃し、俺の剣にシャルムが特大の雷をお見舞いした。
ドラゴンはたたらを踏んで二歩後ろに下がった。後傾した体を尻尾で支えて持ち直す。
その間にリズは間合いの外に出た。
「危ない!」
剣を構えなおしたところに火柱が上がった。
リズはサイドステップでそれを避けた。
しかし続いて火柱が上がる。
それはリズだけではなく、俺達全員を狙ったもので、俺は一番動けないシャルムを抱えて勘に従って逃げた。
「っつぅっ!」
逃げ遅れた左足が炎の直撃を食らった。
脳天まで痛みが走り抜け、目の前がちかちかした。
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