第31話 中継地
街の顔は時間によって大きく変わる。その様子は大体どこの街も一緒だ。
街になるほど発展するには、外から人が入ってくる必要がある。つまり、アルトのように、採集や討伐対象になる場所が近くにあって流れ者が多く集まるか、通商の
流れ者が多く集まれば商人も集まってくるし、通商の要は流れ者にとっても経由地や
そうすると、自然、朝は街を出ていく者で街門付近がごった返し、昼間は流れ者相手に商売をしている住人たちが呼び込みに精を出し、商人たちも互いに商談をまとめるために集まるから、中央広場付近が騒がしくなる。協会に出入りする者も多い。
夕方になると街に入ってくる者で再び街門付近がごった返す。
夜は最も人が多い時間帯で、遅くまで酒場が盛り上がる。
流れ者はその性質から刹那的に生きる者が多く、豪快に金を使って浴びるように酒を飲む。男も女も。その後は、まあ、そういう場所に移動して、明け方まで楽しみに
しかし今夜のこの街は、随分と雰囲気が違った。
月の高さからして、まだそれほど遅くない時間だ。なのに、人通りはあまりなく、酒場から笑い声や怒声が聞こえてこない。
手紙がシャルムに渡ったことが伝わっていて、すでに通達がなされたのだろう。みな息を
街から出られないのは上級剣士と上級魔術師だけだが、だからといって、いつも通りの活動をする気にはなれないだろう。
豪気な流れ者も、手持ちを節約したくなっているのかもしれない。
俺は比較的低い屋根の上を伝い走りながら、協会を目指していた。
まだこの街の名前もわかっていないが、協会は中央広場付近にあるのが常だし、街は中央広場から放射状に広がっているのが普通だ。
屋根の上から通りを確認し、間隔が狭くなっている方向へ進めば自然と到着する。
受付業務は終わっていたとしても、まだ掲示板は見られるはずだ。通達以外の情報があるかもしれない。
協会の前には人が集まっていた。
協会の脇に静かに降り立ち、そばに寄ってみる。
情報の更新を待っているというよりは、何が起こっているのかと互いに話し合っているようだ。
「なあ、なんかあったのか?」
何も知らないふりをして、住人らしき人物に尋ねた。
「知らないのか? 第一種警戒宣言だよ」
「第一種! 一体何があったっていうんだ?」
「ついにエドヴァンが攻めてきたのかもしれん」
「情報がないのか? なんで?」
「国民がパニックにならないようにじゃないか?」
「わからない方が混乱しそうだけどな」
「違いねぇ」
最近、隣国のエドヴァンとの国境付近がきな臭くなっていたから、まずはそこを疑っているらしい。
ドラゴンの話はまだ出ていないようだ。しかしそれも時間の問題だろう。
予定はずいぶん早まってしまったが、近いうちにドラゴン討伐が行われるという話は広まりはじめていたはずだ。
状況が変わったこともすぐに広まる。
中に入ると、掲示板の前にも人はたくさんいた。でも追加の情報は載っていなかった。
特級剣士と特級魔術師は協会に、それに類するものは役所へ届け出よとあっただけだ。
次に、隣に掲示されている地図を確認した。
スーリとは、また遠くまで来たもんだ。よく一日で来れたな。
途中宿泊のために街に寄ったとしてもあと三日、野宿を覚悟すれば二日で着く。思ったより近い。
今度は絶対に迷えないから、周辺の地図をしっかりと頭に叩き込む。
野宿するなら断然森の中だ。川の近くの適したポイントをいくつかピックアップした。
国全体の地理を覚えていられればいいのだけれど、どうしても覚えられない。森の形や川の位置は変わりやすいから、というのは苦しい言い訳でしかなく、単に苦手なのだった。
「えっ!? やだ、もしかして、ノト!?」
驚いた声につられて振り向くと、濃い緑色の髪をショートカットにした、細身の女性が立っていた。協会の制服を着ている。
「ヨウ!? うっそマジ!? 何年ぶり? 二年? 三年?」
「二年とちょっとかな」
「超
「ふっふっふっ」
ヨウが得意げに掲げた左手には、黒い石がはまった指輪が。
「結婚!? うわいつの間に。おめでとう!」
「私もいい歳だもん。実は息子もいるんだ」
「子どもまで! 今は旦那さんが面倒を?」
「それがね、隣町に配達に行ってたんだけど、アレのせいで帰って来れなくなっちゃったの。今は母が見てくれてる」
「旦那さん特級か。そりゃタイミング悪かったな」
「そのうち、街で待機しろって言われるか、流通の手助けをしろって言われるんだろうから、一度帰っては来れると思うんだけど。私もここに出ずっぱりになりそう」
それは個人的な憶測なのか、それとも協会の今後の方針なのか。
「……今、どんな状況かわかるか?」
こそっと聞いてみた。
「……ここじゃ話しにくいから、こっちに来てくれる?」
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