第11話 アルトの協会
全力疾走のかいあって、なんとか定期便に乗せることができた。
対応してくれた受付氏に礼を言い、一度カウンターから離れて協会内を見回す。
近隣で一番大きな街の協会だけあって、床は石造りだし、両側に並んでいるカウンターも石でできている。左右あわせて十人の受付が来訪者の対応に追われていた。
正面の壁には様々な情報が貼りだされており、人だかりができていた。どこの協会でもよく見かける光景だ。
けどなんか、夕方にしては人が多くないか?
近くに洞窟があるから、狩りや採集を目的にくる流れ者はもともと多い。特に今はヒカリアオゴケの開花前だ。つぼみが良質な魔力回復薬の材料として高値で売れるのだから、当然人は集まってくる。
でも普通は情報が更新される朝と昼に見に来るはずだ。この時間に人だかりができるのは珍しい。
それに、特別装備のいいのが何人か混ざっている。
あの魔術師の髪は明るい橙色だし、あの剣士のプレートはおそらくレル鋼だ。
うわ何あの大男の
ふと、接客を終えたばかりの受付嬢が、カウンターの向こうでひらひらと手を振っているのが見えた。
ピンクがかった茶色の髪を緩く巻いているあの女性は……。
「リンカさん。久しぶり」
「なぁにぃ、そのかっこ。今日はおつかいじゃないのぉ?」
舌っ足らずなしゃべり方は相変わらずだ。
「雇い主について来いって言われて。あっち、人集まってるけど、なんかあった?」
「洞窟でタタナドンが出ちゃってねぇ、立ち入り禁止になっちゃってるの」
「タタナドンって、
「そぉよ。尻尾の長いこいつ」
リンカさんはカウンターの上に絵を出して指さした。
「今は休眠期じゃなかったっけ?」
「のはずなんだけどぉ、誰かが起こしちゃったみたい」
「うわぁ……」
休眠期の
「でねぇ、この子たち、ヒカリアオゴケも食べちゃうでしょぉ。今は開花前だから、こう、どぉんってね」
リンカさんは両腕を大きく広げた。
寝起きのタタナドンが今のヒカリアオゴケを食べたら、そりゃあでかくなるだろうな。
「特級は入れるけどぉ、上級以下は取りあえず立ち入り禁止。で、今は審査官待ち」
「へぇ……」
もしかしなくても、シャルムがこの街にきた理由はこれだろう。
「今期も開花前に合わせて臨時市が立ってるけどぉ、いつもより賑わってるみたい。討伐が解禁されたらもっと大きくなると思うわぁ」
人が集まれば物と金が動く。
採集に来て足止めを食らっている流れ者。買い取りに来て同じく動けない商人。討伐依頼を狙って来た流れ者。そして彼らの需要を見込んでやって来た商人。
それだけいれば市場も大賑わいだろう。
掘り出しものがあるかもしれない。
明日顔を出す暇があるといいんだけど。
「他にニュースは?」
「南区の素材屋が
今度は地図を出してきて、とんとん、と指先で叩いた。
南区にある噴水広場の裏路地。
俺の行きつけ。
「前からちょぉっと怪しかったけどぉ、証拠が出ちゃったのよねぇ。それもねぇ、よりにもよって審査官の目の前で取引したっていうんだから、馬鹿よねぇ」
よりにもよって審査官の目の前で取引。
――調合はここで?
昼間のリズが思い浮かんだ。
「そ、その審査官ってさ――」
「おい、ノト」
「ひゃい!」
――髪は銀色だった?
「変な声を出すな。まだ終わらないのか?」
「しゃ、シャルム……! ええっと、もう少しですっ」
話を聞かれた!?
いや、聞かれて困るようなことは何も話していない。大丈夫。問題ない。
「あぁら、かわいい魔術師さん。きれぇな髪色してるのねぇ」
「……ノト、終わったら声をかけろ」
シャルムは奥の掲示板に向かって行った。
いつも通りに見える。今日会ったばかりで「いつも」も何もないけど。
「やだぁ、にらまれちゃった。雇い主のお嬢さん?」
「雇い主本人で、男」
「えぇ本当? なら優良物件じゃなぁい。紹介してくれないのぉ?」
「無理。リンカさんに紹介したら、俺がクビになる」
「やぁねぇ。仲良くなりたいだけで、子どもに手までは出さないわよぉ」
「どうだか」
失礼しちゃうわ、とリンカさんはぷんすか怒りながらも、俺の好きなステーキ店が評判になって予約が取れなくなっただとか、洞窟の代わりに森に入る人が増えてタキツバの牙が多く出回って値崩れしているだとか、宿が埋まってきているから宿泊するなら西区がいいとか、色々と教えてくれた。
「市場でうっかりヤバいの買っちゃったりしないようにね。素材屋みたいに捕まっちゃうわよぉ」
「……そうだね。気をつけるよ。色々とありがとう」
最後に冗談めかして言われた言葉が、ちょっと胸に痛かった。
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