第三章:一歩、前へ《ハイトリーズン》

一歩、前へ①


 宿に戻って夕食を終えた輝たちは就寝前にこれからどうするかを話し合うことにした。


 話し合うことはそう多くない。都市を出ていくか出ていかないか。出ていくならいつにするか。



「車を捨てていくのは惜しいから、できればメンテナンスが終わるまではここに残っていたいとこだけど」


「レドアルコン家だっけ? あのいけ好かない男が黙っているわけないと思うのよね。指名手配されて追っ手がかかるのも時間の問題だろうし」



 外で生活するのにあの車は重宝する。あるとないとでは旅の安全性が全く異なる。


 だからと言って一ヶ月もの間、都市に留まるのは危険が伴う。アレグラが報復に動くであろうことはわかりきっている。


 啖呵を切ったとはいえ『オフィール』と敵対するメリットはこちらにない。出来れば避けたいというのが正直なところだ。


 そうなると問題は『オフィール』で一ヶ月を過ごすことができるかどうかということになる。


 身を潜めれば何とかなるだろうか。『アイゼン鉱脈』も含めれば『オフィール』の土地は広大だ。隠れる場所などいくらでもある。


 例えば坑道の中ならそうそう見つからないだろう。幸い、魔力素マナ結晶を換金したばかりなので資金に心配はない。都市の中にいる限り食料などの調達はそこまで難しくない。


 女の子であるアルフェリカにそのような生活を強いるのは心苦しいところだが。



「輝が一緒ならどこでもついて行くわ。あたしのことは気にしないで」



 そう言って輝の提案を二つ返事で承諾した。


 アルフェリカのこれは彼女が抱く罪悪感によるもの。あまり褒められたものではないが迅速に意思決定ができる点においてはありがたかった。


 しかし彼女の感情を利用しているようで、やはり気分の良いものではなかった。



「それじゃ、明日は朝一で市場に行こう。そこで食料を買い込んで裏区画に向かうぞ。適当な廃墟か坑道の中を転々とすれば一月くらいは時間を稼げるだろ。メンテが終わったのを見計らって『オフィール』を出るぞ」


「でも車って押収されるんじゃない?」


「あ、そうか……」



 車が輝たちのものであることは調べればわかる。一ヶ月も放って置かれるのは考えづらい。


 見落としていたことに輝は大きなため息をついた。だがやはり捨てがたいことも変わりない。



「……少し様子を見て、運よく押収されなかったら最初の案でいこう。押収されたらメンテは諦めて車を奪取してから全力で脱出する。まあ欲の捨て切れていない雑な方針だけどそういう感じで」


「大丈夫よ。輝とあたしなら都市から逃げるくらいどうってことないわ。いざとなれば――」



 〝断罪の女神〟の力を開放し【白銀の断罪弓刃】パルティラを顕現させて双剣の片方を輝に向ける。



「邪魔するもの全部あたしが斬り捨てる」


「頼もしいな」



 やや物騒な物言いに輝が少しばかり苦笑を浮かべると、つられてアルフェリカは嬉しそうに笑った。


 しかしその笑顔はすぐに張り詰めたものへと変わる。



「輝っ!」



 切迫した叫びと共にアルフェリカが飛びかかってきた。二人仲良く壁際まで転がると、つい今しがた輝が立っていた場所を光の柱が貫いた。強烈な熱波が抱き合う二人に襲いかかる。



「魔力砲撃!? けどこの威力は……」



 魔力砲撃は拡散しやすくあまり威力が出ない。同じ原理である【弱者の抵抗】ソード・オブ・ザ・ハートを輝が戦闘で用いることができるのは、単に使用する魔力量が並外れているからである。術式が誰にでも構築できるほど簡単という点を除いて、燃費の悪い魔力砲撃を攻撃に使うメリットはない。


 それをわざわざ使うということは、少なくとも輝並みの魔力を有しているということ。


 そんな存在は転生体くらいしか考えられない。



「一際強い罪の匂いがする……一、二、三……全部で五つ。たぶん転生体が五人」


「見なくてもわかるのか?」


「よっぽど匂いが強いときはね。直接見たら吐いちゃうかも」


「食後なんだから頑張って我慢しろよ」


「発散すれば問題ないわ!」



 アルフェリカは天井に空いた穴から外に飛び出した。輝も機械鎌を手にその後を追う。


 転生体が五人。アルフェリカがいるとはいえ、さすがに分が悪い。


 屋根には二人の少年が立っていた。首にはあの首輪がある。神名の刻印がほぼ全身に広がっていた。転生体としての末期だ。しかもおそらく敵性神。この戦闘中に覚醒する恐れもある。


 そうなったらまずい。


 少し離れた建物の屋根に一人、下の道に二人。同じく首輪と刻印に覆われた少年少女がいた。


 爆発音を聞きつけたのか周辺の住民たちも集まり始めていた。


 夜とはいえ屋内にはたくさんの人間がいるはずだ。こんなところで神の力を持つ者同士が戦えば大きな被害が出ることは避けられない。



「アルフェリカ!」


「難しいけどやってみる!」



 それだけで輝の意図を理解し、力を解放して一瞬にして転生体の一人に肉薄。



「ひぃっ!?」



 襲撃者とは思えない情けない悲鳴を上げて少年は後退る。戦闘において、ましてや転生体同士の戦いにおいてそれは致命的すぎる。


 懐に入り込んだアルフェリカは【白銀の断罪弓刃】パルティラを裏返し、峰で顎を撃ち抜いた。



「え?」



 予想に反する手応えのなさにアルフェリカは思わず呆けてしまう。しかしそれもコンマに満たない刹那の時。


 振り抜いた腕の勢いをそのままに、双剣から弓に切り替え反転すると鏃のない非殺傷性の矢を反対側と離れた屋根に立っていた二人の転生体に放った。非殺傷とはいえ速度は普通の弓矢とは比較にならない。


 正確に顎を撃ち抜かれて脳を揺らされた二人は、そのままバランスを崩して屋根から転落した。地面に叩きつけられれば打ち所によっては大怪我だが転生体なので大丈夫だろう。



法則制御ルール・ディファイン――骨格補強・脚力強化ペイン・オブ・ザ・ブラッド



 アルフェリカに任せっぱなしにするわけにいかない。【英雄の証明】ペイン・オブ・ザ・ブラッドで【強化】した脚力で下にいる転生体の少年に向かって跳躍。



「く、くるなあ!」



 襲撃者とは思えない叫びと共に放たれたのは不可視の弾丸。おそらく空気を圧縮したものだろう。


 風を操る力ともなればかなり強い力を持った神の転生体だと推測できるが、狙いも定めずがむしゃらに放つだけのため、ほとんどが射線から逸れている。直撃しそうな弾丸も【対魔障壁】アンチマジックシールド一枚で防げる程度の威力。



「悪いけど少し大人しくしていてくれ」



 危なげなく眼前に着地した輝は鳩尾に手を添えて【弱者の抵抗】ソード・オブ・ザ・ハートを放つ。ゼロ距離なので低威力に抑えたにも関わらず少年は痛みにのたうちまわった。


 あまりにも低い戦闘能力に輝は唖然とする他ない。



「輝、こっちは終わったわ」



 残りの一人はアルフェリカが対処してくれたらしい。転生体の少女が気絶した状態で運ばれてきた。



「なんだか拍子抜けしちゃった。犠牲を出さずに転生体五人を無力化なんて無理だと思ってたんだけど」


「俺も無茶を言ったとは思ってたよ」



 だが結果はこの通り。アルフェリカが四人の転生体を無力化し、輝も消耗なく転生体を一人抑え込んだ。



「はあ、はあ、はあ……」



 ようやく痛みが引いてきたのか転生体の少年は荒く息をしながら蹲っている。



「アルフェリカ、残りの三人も連れてきてくれ。これくらいなら俺一人でも対処できる」


「でももし何かあったらあたしを呼んでね」


「わかったよ」



 気絶させた残りの三人を回収しに行ったアルフェリカを見送り、輝は足元で蹲る少年の前にしゃがみ込んだ。


 輝と目が合うと少年は逃げようと手足をばたつかせた。腰が抜けているらしく立ち上がることすらままならない。



「ゆ、許してくれ! 俺はただ、命令されただけなんだ!」



 予想はしていた。予想はしていたのだが、刺客らしからぬ取り乱しように自分の推測が誤っているのではないかとさえ思えた。故に問わずにいられなかった。



「命令って誰の?」


「ア、アレグラ様だ!」


「…………本当に?」


「ほ、本当だ! アレグラ様に命令されて、それでしかたなく……ゆ、許してくれっ、ま、まだ死にたくないっ……」



 嘘をついている様子はないが、如何せん信じられない。アレグラが報復に打って出ることはわかりきっていたことだが襲撃がお粗末すぎる。



「そいつの言ってることに嘘はないみたいよ」



 三人の少年少女を抱えて戻ってきたアルフェリカがそんなことを言った。



「早かったな。三人の様子は?」


「命に別状ないわ。屋根から落っこちたときにちょっと怪我したみたいだけどね。転生体だから血とかはもう止まってるわよ。しばらくしたら目を覚ますでしょ」


「そうか」



 犠牲者なし。その結果に輝は胸を撫で下ろしつつ再確認する。



「こいつの話に嘘はないっていうのは本当か?」


「あたしの力は知ってるでしょ?」



 嘘を見抜けるアルフェリカは言外に肯定する。


 仲間全員が無力化された少年は頭を抱えてガタガタと震え始めた。



「あ、ああ、失敗した……失敗した……ダメだ、殺される……殺されちまうよっ!?」


「殺すつもりなら最初からやってる」


「ち、違う……そうじゃない……」



 様子がおかしい少年の肩を掴み、輝は詳しい話を聞き出そうとした。



「それはどういう意味だ?」


「アレグラ様に言われたんだ。あんたたちを殺せば自由にしてやる。ただし出来なければ首輪を起動させるって……失敗したなんて知られたら俺たち全員殺されちまうよっ」



 アルフェリカを見遣ると首を横に振った。嘘はない。



「お前たちはアレグラに脅されて俺たちを襲っただけってことか?」


「あ、当たり前だ! 誰が好き好んで人殺しなんかやりたがるかよ! で、でも死にたくなかったから、生き延びるためにはしかたなかったんだ! この首輪がある限り、俺たちに自由なんてないんだよ!」



 心を抉るような悲痛な少年の叫び。それはこの都市で虐げられる者たちの慟哭である。


 急速に自分の中が冷えていくのを感じた。裏区画を見たときに感じたものと同じ冷たい怒り。


 生きたいと願う者を踏み躙り、道具として扱う残忍さ。仮に輝たちがこの少年たちを屠ったところで第二第三の刺客を放つだけだろう。


 強者が君臨し弱者を食らう。


 敗者は勝者に全てを奪われる。


 権利も、願いも、尊厳も、何もかもを搾取され続ける。


 それが――この都市のルール。



法則制御ルール・ディファイン――術式解析・構成破戒クロニクル・オブ・ザ・アカシャ



 押し寄せる情報の津波。都合三京の術式情報。個人では無限と相違ない数の情報を、意味もわからず、理解も出来ず、認識すらせず、機械的に読み取り形を成す。


 それだけで彼らの首輪はただの鉄の塊に変わった。



「輝っ」



 激痛に膝をつく輝を心配して駆け寄ってきたアルフェリカに身体を預けながら、事態を飲み込めずに呆気にとられている少年に尋ねた。



「これで言いなりにならずに済むか? これで生きていけるか?」


「え、あ……」


「教えてくれ。お前たちの自由を奪っているのはその首輪だけなのか? 首輪さえなければ自由になれるのか?」



 蒼眼が問う。


 理不尽に自由を奪っていたモノ。象徴である首輪さえなくなれば解放されるのか? 前を見ることができるのか? 進むことができるのか? 絶望は消えるのか? 慟哭は止まるのか?


 少年は目を伏せる。唇を噛む。首輪から解放されてなお払えぬ絶望に打ち震える。



「無理だ……だって俺たちは転生体だぜ? 見てくれよ。もう大部分を神名に侵食されちまってる。あいつの声が聞こえるんだ。身体を渡せ、お前など消えろ、人間は滅びろって、ずっとずっと言ってんだ。どっちにしろ俺も、こいつらも……長くない。神に食われるか、人間に殺されるか……それくらいの違いしかないんだ」



 少年は啜り泣く。



「転生体の俺たちが……生きていけるわけねぇよ」


「なら、生きるのを諦めるのか?」



 本人が望むのならそれも仕方のないことだろう。死が救いになることも確かにある。



「嫌だ……死にたくねぇ……生きてぇ、生きてぇよ……」



 その願いを聞いて、輝は目指している道が間違っていないことを確信した。


 そうだ。これが本音だ。これこそが人間の欲求だ。この世に生を受けた以上、ただ朽ち果てていくことを望む者がどこにいる。


 ほとんどの者は諦めているだけだ。希望を失い、絶望し、心を殺して、何も考えず、無気力でいることで己を保っているだけだ。


 転生体は化け物ではない。ましてや道具でもない。


 心を持った人間なのだ。


 悪意を持つ人間がその欲求を阻むというのなら。


 敵意を持つ神々がその未来を奪うというのなら。


 〝神殺し〟ブラックゴッドがすべきことは決まっている。



「輝様!」



 昨日今日で聞き慣れたイリスの声。しかしそれは張り詰めており、同時に弱々しい。彼女の存在にいち早く気がついた野次馬のざわめきが嫌な予感を増幅させた。



「イリスっ!?」



 傷だらけだった。額から血を流し、純白の甲冑はヒビ割れて赤い斑点が付着している。甲冑の下のインナーは力任せに引き裂かれており、そこから覗く肌には無数の打撲痕や切り傷があった。騎士の象徴である剣すら失われている。


 フラフラとした足取りは彼女がすでに満身創痍であることを物語っていた。


 思わず輝が走り寄ると、糸が切れたのかイリスは前のめりに倒れ込んだ。彼女が地面に叩きつけられぬことがないよう両腕で抱き止める。



「イリス、何があった!?」


「『王室警備隊』が博士の家にやって来て……博士とレイちゃんが連れてかれました……」



 イリスからティアノラの家で起こったことの仔細を聞いた。


 話を聞いて輝は激しい後悔の念に襲われた。ティアノラたちが連れて行かれたことも、イリスがこんなに傷だらけになったのも、自分があの場でアレグラに手を出したからだ。


 狙われるのが自分だけだと思っていた。距離を取れば彼女たちに危険が及ぶことはないと思い込んでいた。


 甘かった。考えが足りていなかった。王政というモノを正しく理解していなかった。


 理不尽が横行するこの場所で、王家が君臨するこの都市で、罪状などいくらでも捏造ねつぞうできる。


 奴らが黒と言えばたとえ白だろうと黒になる。


 自分たちと関わった時点で、彼女たちが標的となる可能性は充分にあったのだ。


 それがこの結果だ。



「輝様……私、何もできなかった……博士も、レイちゃんも守ることができなくて……見捨てて逃げて……騎士なのに、二人を守るどころか……二人に、守られて……逃げるのが、精一杯で……」



 イリスは声を詰まらせて咽び泣いていた。震える指で輝のシャツを握り締めて、悔しさに打ち拉がれていた。



「おーおー、こんなところにいやがったか。随分と頑張って逃げたもんだなあ?」



 粗野な男の声。誰かが戦慄きながら『王室警備隊』と口にする。


 過多に装飾の施された甲冑を身につけた男二人がこちらへと近づいてくるのが見えた。



「おら、道を開けろ平民共っ。そこの女は『王室警備隊』に刃を向けた重罪人だ。邪魔立てしたり庇うようなヤツは同罪だぞ!」



 胴間声を響かせながら剣を振り回す騎士に、集まっていた人間たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。残ったのは輝たち三人と転生体の少年少女たちだけ。


 逃げる素振りを見せなかった輝たちを騎士の男は訝しげに見下ろした。



「おい、聞こえなかったのか。その女を庇うんならお前らも連行するぞ」



 騎士は切っ先を輝に向けるが、向けられた輝は無表情にその騎士を見つめた。


 その態度が気に入らなかったのか額に青筋が浮かび上がる。だがアルフェリカを目に留めた途端、男は口の端を卑しく吊り上げた。



「いいや、その女を庇ってんだから連行は決定だな。そっちの嬢ちゃんはかなりの上玉だな。こっちは二人だしちょうどいいぜ。おい、オレは銀髪の嬢ちゃんの相手するから、お前は『鋼の戦乙女』アイゼンリッターの小娘な」


「ちょっ、それはずりぃって。俺だってそっちの姉ちゃんがいいぜ」


「オレが終わったらな」



 けたけたと笑う二人の騎士へアルフェリカは明らかな嫌悪を露わにした。



「お前ら、イリスにもそういうことをしようとしたのか?」



 彼女のインナーは剣ではなく力で強引に引き裂かれている。それは騎士同士の戦いによる防御創ではないことは明白だ。



「あん? 都市の治安を乱したヤツをしょっぴくのが『王室警備隊』であるオレたち騎士の役目なんだよ。悪いことをしたら罰を受けるのは当たり前だろ? オレたちはな、罰を与えて償わせてやってんだよ」


「そうか」



 凌辱を罰と宣うか。


 こいつらにはイリスのような誇りも信念も感じられない。欲望のまま力を振りかざす賊と何ら変わりがない。本能赴くままに行動する獣と同じ。自分たちが追っている者が目の前にいるというのに、考えていることは目の前の獲物を蹂躙することばかり。


 そんな輩が騎士を名乗るなど思い上がりも甚だしい。


 こんな奴らを人間として認めない。


 こいつらは――魔獣だ。


 故に――



「――あ……?」



 輝たちに剣を向ける魔獣の首が斜めにズレる。そのまま首が地面に転がり落ち、傷口から噴水のように鮮血が噴き上がった。頭部を失った胴体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


 輝の手には機械鎌が握られていた。刃はたったいま絶命した魔獣の血で濡れており、切っ先からはポタポタと紅い水滴が滴り落ちている。



「アルフェリカ」



 何が起こったのか分からず唖然と死体を見つめている魔獣共。


 それらを狩るべく黒神輝は〝断罪の女神〟に命じた。



「殺せ」



 底冷えする絶対零度の命令。銀線が閃き、斬首が執行された。


 骸が一つ、出来上がる。



「輝……さま……?」



 一切の躊躇なく命を刈り取った二人を、信じられないという顔でイリスは見上げた。彼女にとって輝たちは人間を手にかけるような人物ではなかったのだろう。


 怒りはとうに通り越し、心は冷え切っている。しかし身体を流れる血潮は煮え滾り、その熱さに内側から焼き尽くされそうだ。



「イリス、レイたちはどこに連れて行かれた?」


「え? ……お、おそらく、『王室警備隊』の留置所か、もしくは王城だと思います……」


「留置所の場所は?」


「さ、最上層の、王城を守る外壁の正門付近です」


「わかった。ありがとう」



 礼を告げてイリスを壁際に座らせると輝は王城の方角を見上げた。



「まさか乗り込む気なのですか!?」



 答えるまでもない。



「無茶です! 王城の付近は『王室警備隊』の他に、奴隷の転生体たちも配備されています。たった二人では捕らえられてしまうだけです! いいえ、殺されてしまいます!」


「それがどうした」



 覚悟も決意も必要ない。理想郷で犯した愚を再び犯すだけのこと。


 もはや『オフィール』を敵に回すことに躊躇いなどない。


 高嗤うのは魑魅魍魎。人の形をした化け物どもが跋扈する世界では、涙を流す者が後を絶たない。苦痛と絶望を植え付けられて、夢も希望も誇りも尊厳も、何もかもを奪われ続ける。



「奪われたモノを取り返しにいく。それだけだ」

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