引っ越しです。

5歳になった。


相変わらずな生活が続いている。

変わった事と言えば2年前猫耳の子がどこかへ連れて行かれたことぐらいだ

折角のファンタジーな存在だったので僕は彼女を構いまくった。

最初は無視されていたけど徐々に返事もしてくれるようになってきた頃連れて行かれたのだ。

この世界に来て初めての友人(仮)、僕の唯一の心の支えが失われた瞬間だった。

どこに行ったかは何となく想像はつく、奴隷なのだ売られたのだろう。

だから母親に聞いてみた。


「ベリアは何処に行っちゃったの?」

「ベリア?・・・あぁあの獣人ね、あれは5歳になったから上の男達と同じ区画で働く事になるのよ」

「男達の区画?ベリアは女の子だよ?」

「ルイ、あれは獣よ。人じゃないわ、誰も買わないわよ。

それに亜人の女は直ぐに壊れるし労働力としても誰も欲しがらないわ」


理解したく無いが理解した。

ここら辺では人間至上主義がまかり通っていてそれ以外の種族は迫害対象なのだろう。

つまり僕の初めての友人(仮)はここの民達に迫害され、奴隷にされたのだろう。

そしてもう一つ初耳の単語が出てきた


「ふーん。

男達の区画ってのは?僕も5歳になったら連れてかれるの?」

「そうよ。

男の子は5歳になったら上の階に移って力仕事やいろんな作業をする事になるわ」




そして僕は今日で5歳だ。

恐らく今日、男達の区画へ連れて行かれるのだろう。


「おい、お前。

お前は今日から上で生活してもらう

来なさい。」


まぁ予想していた通りだ

いつも男が入ってきて女達が出て行く扉

僕は初めてここを潜った。そしてその先の階段を登って行く。

そして連れられた一つの部屋で僕は奴隷の洗礼を受けた。

背中への焼印だ

所有物で有る事を示すその印が僕に押された事により僕は完全な奴隷となったのだ。

次はこれから住む場所に連れて行かれるみたいだ

背中もまだジンジンする。

だがついて行かざるを得ない。


そうして僕は転生して5年、初めてこの地の外に出た。


「うっ眩しっ」

「黙って付いてくるように」

「すみません。」


初めて外に出たのだ少しぐらい許してくれても良いと思うが僕はこの人達の奴隷だ。逆らえない。

それは前世でも一緒だった。

クライアントが白と言えば烏も白いのだ。黒く見えた自分が謝らなくてはいけない。


少し歩き馬小屋の様な場所に連れてこられた。


「これからお前はここで過ごしてもらう」

「・・・」

「では後のことは同じ部屋のものに聞く様に」


そう言って男は去って行った。

何はともあれ引っ越しは完了だ。

地下から地上への引っ越し。奴隷である僕は荷物が何も無い為凄く早く終わった。

これから一緒に暮らすルームメイトはどんな人達なのだろうか?

やはり男の奴隷達の部屋だむさ苦しいんだろうか、

それに男だらけで鬱憤も溜まっているだろう。

アメリカの刑務所ではそう言ったことが多いと何かで見た気がする。僕は貞操を守れるだろうか?

そんな陰鬱な気持ちで僕は目の前の小屋の扉を開けた。


「・・・失礼しま~す。」

「あんっ?誰だお前?」

「今日からこちらで共に生活させて頂くルイと申します。」

「おー新入りか。

俺はバルト、10歳だ。分からんことあったら何でも俺に聞け!」

「はい。よろしくお願いします。」

「じゃあ今日の作業は・・・

フラウ!お前が教えてやれ!」

「分かりました。オレ、フラウ!9歳だ!よろしくな!」

「よろしくお願いします。」


どうやら引っ越し早々僕は働く事になる様だ。

でもそんな事は正直どうでもいい。

僕はこの部屋に来て1番に目を奪われたものについて尋ねた。


「あのぉ~あちらの方も紹介して頂けないでしょうか?」


そうこの部屋にはもう1人いるのだこちらに背を向け眠っているのか横になっている。

だがその頭には立派な耳とお尻には尻尾が生えている!

間違いなく友人(仮)のベリアだろう!

そう思い聞いてみたのだが、


「ん?あぁ、あれは人じゃねぇから気にする必要はねぇぞ

いつも糞の掃除ばっかしてるからクセェしあんま近づくなよ!」

「でも一応この部屋じゃあ先輩だし挨拶くらいはした方が・・・」


というか話したい!

久しぶりに話しかけてみたい!

もう2年も経っているのだ。向こうも覚えてないかもしれない。だが彼女は僕の心の支えなのだ。ファンタジーな世界に来た事を実感させてくれる唯一の存在。そんな存在と仲良くしたいのは当然じゃないか。


「先輩?ちげぇぞ?あいつは動物だ!人じゃねぇ。この家のペットみたいなもんだな!だから謙る必要もねぇぞ!

まぁ取り敢えず仕事だ!行ってこい!」

「・・・」


まぁ予測はしていた。

この地では獣人は差別されている事に

だが同じ底辺の奴隷だぞ?

なぜ人間はこんな底辺にまでいて陰湿なヒエラルキーを作るのだろうか?

僕から見たらベリアもバルトも同じ奴隷だ。

もちろん僕も底辺の奴隷だ。


「おい!聞いているのか?」

「すみません。聞いてませんでした。」


そんな事を考えていたためフラウの説明を聞いていなかったようだ


「はぁ、新入りしっかりしろよ?」

「はい。すみませんでした。」

「それで今日、新入りにしてもらう仕事は・・・

まぁこんな感じだな!

オレは別の仕事が有るから行くわ!

後で様子見に来るし分からんことあったらオレに聞け!」



疲れた。まじで死ぬ。5年間地下で引きこもりしていた5歳児にはキツすぎる仕事だった。

朝から晩までずっと水汲みだ井戸から屋敷の貯水槽まで水を運び続けるそのあと地下に繋がるところへ水を流し男寮の様なとこの貯水槽へ水を運ぶ。

しんどすぎる。

フラウが様子を見に戻ってきた時に聞いた話によると12歳未満の子供達は大人の邪魔にしかならないので別の場所で寝泊まりして主に雑用として水汲みやゴミ処理などをやるらしい。

そして12歳になったら住む場所も大人達と同じところに移り大人達の仕事を手伝い、15歳の成人で一人前と認められるらしい。


一人前の奴隷って何ですか?と尋ねなかったのは自分を褒めてあげたい。

冗談はさておき、あと7年この生活が続くのだ。

絶望が僕の心を染めて行く。

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