私が地獄に堕ちるまで 著:望月俊太郎
憎まれっ子世に憚るんじゃなくて、世に憚ると憎まれっ子になってしまうの
さて、前座から。
本作のカテゴリーはなんとホラー。
感想を書くのはこれで三作目くらいだろうか。
web小説界隈では、非常に珍しいカテゴリーである。
まあ、ホラーが少ないわけではなくて、異世界ファンタジーが異常に多いだけ、というのはあるかもしれない。
しかし、カクヨムコンテスト――カクコンにてホラー枠がだいぶ冷遇されているのを見ても、web小説では逆境のカテゴリーのようだ。
まあ、そんなことはどうでもよい。メインストリームでないだけでホラーにはホラーの良さがある。
本題に入ろう。
本作はホラー。
しかし、ホラーといってもその要素が前面に押し出されているような作品ではない。
例えば『Hiya, Georgie』のセリフが有名な『IT』がホラーの中ではひと際目立った功績を挙げており、これこそがホラー、といった印象を受けるが、本作は少し毛色が違う。
序盤は全くホラー要素はなく『現代ドラマ』寄り。
恋愛を中心とした醜い感情模様を様々なキャラの視点から描くというもの。だが、それだけではホラーにならない。
今回利用されたギミックは幽霊などのオーソドックスなものではなく『君の名は』に代表される入れ替わり。
三角関係を構成する人物のうち、重複する性別側の入れ替わり。今回は男一人、女二人であったため女側の中身が入れ替わる、というわけだ。
こういう入れ替わりの際は、入れ替わりを願う人間が嫉妬に駆られている場合が多く、入れ替わりが成功した場合はその報いを受ける。
本作もそこはなぞっているようで、入れ替わりを願った『曽根島優子』が報いを受けたところで物語が終わる。
では、物語のある程度の全容を語ったところで、印象に残ったところを語って終わりにしよう。
まず、地の文が良い。
本作は一人称視点。よって地の文はすべてキャラクターの心情で構成されているわけだが、これが非常に読みやすい。
明確に文章化するわけではなく、思想や思考などを読ませることによって、キャラクターの特徴を読者に理解させていく。
最も印象深かったのが一話の地の文。
◇
SNSが発達してリモートワークが浸透して、どこででも働けて、世界のどこで何が起こったのかをつぶさに知れるようになったとか言われても、見るだけで触れもしないキャビアの味は、そのまま一生わからないままでしょ?
◇
非常に良い。
読みやすさを兼ね備えながら、普遍ではない表現を用いることで、主人公のキャラをイメージさせる。
語尾の「でしょ?」も良い。
これがあることで主人公の親しみやすさがあがった。
と、まあここまで文章や内容について語ってきたわけだが、おそらく本作の最大の売りは二週目の一話。
大きな伏線回収のようで読了感も良かった。
短編で読みやすく、起承転結もしっかりしている。
良い作品だった。
さて、こんなものだろうか。
それでは。
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817139555665410223
作者URL:https://kakuyomu.jp/users/hikage_furan
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