世界の終わり、それは福音 著:間川 レイ
世界の終わりに、死にたがりの少女は思う。
さて、いつもの前座から。
本作は終末世界が舞台。
創作界隈では結構目にする舞台設定で、様々な作家さんが多種多様のやり方で世界を滅亡させてるのを見ると、世界って脆いなぁ、なんて思うこともある。
いや、流石に思わない。
ただ、終末世界というのはいろいろな側面があるとは思っていて、例えば先に述べたような『どうやって滅ぼすか』が斬新な作品だったり、『滅び方は正直どうでもよくて、滅びることによる人間の心情』が大事な作品だったりと、その利用方法には無限の可能性がある。
では、本作はどうなの? と気になることだろう。
本作は後者、つまり『滅び方は正直どうでもよくて、滅びることによって見えてくる人間の醜さ』などが主題。
「ありきたり」と言えば失礼にあたるだろうが、いわゆる定番ネタである『流星』が本作では用いられている。
つまりメインは主人公の感情遷移。
少なくとも私はそう解釈した。
さて、前座もここまでにして本題に入ろう。
本作には救いがない。
主人公が一般的な感性を持っていれば、そうなるはずだった。
しかし、本作の主人公は普通ではない。
終末を望んでおり、死こそが救済だなんていう少し、いや、かなり一般から外れた価値観を持ち合わせている。
それこそタイトルも主人公の思想を表している『世界の終わり、それは福音』。
一般人だとこうはならない。終末とは出来るだけ避けるべき事態。
本作でも、主人公以外の一般人は『終末が避けられない』となれば、自暴自棄になる。暴動が発生する。
一般的な作品であれば、ここまで非情な現実だけを描写することはないだろう。
主人公にとっては救いである本作のエンド。
彼女にとってはハッピーエンドであることは間違いがない。
けれど、読者にとってはかなり苦しいエンド。
一般的な読者は、彼女と同じ感性を持ち合わせていない。終末を救いだとは思っていない。
だから、主人公にとってはハッピーエンドであっても、読者は『本作はネガティブだ』といった感想を残す傾向にあるだろう。
けれど、それでいいのだ。
本作は読者に寄り添わないからこそいい。
最後に手のひらを返して一般的なハッピーエンドにしない。主人公に心変わりは起きない。
作品として一貫性が見えて、個人的に好印象だった。
さて、そろそろ総括に入ろう。
構成は良かった。
よくこの少ない文字数の中で、四部構成を完成させた、と感心するばかり。
家族構成、自殺、終末開始、終末。
短編で、なかなかここまで詰め込む作品は少ない。
けれど、きちんと料理されていた。
詰め込みすぎで胃もたれを起こすこともなく、逆に説明不足で意味が分からなくなることもない。
内容にも一貫性があった。
どこかで急展開を迎えて、訳が分からなくなることもない。
全体的に完成度の高い作品であった。
こんなものだろうか。
それでは。
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