ほんとうの顔 著:赤蜻蛉
私たちは、素顔を見られることに慣れていない。
さて、恒例の前座から。
本作は特殊ウイルスが流行し、常にマスクをつけなければ亡くなった世界、というのが舞台。
おそらく某コロナウイルスがモチーフなのだろう。昨今の学校では素顔を知らない人間に恋をする、なんてこともあるくらいだ。
この作品の状況もそこまでおかしな話ではない。
コロナのお陰で、本作は非常に親身になって読むことが出来るようになっているというわけだ。
これがコロナ前であれば短編では文字数が足りなかっただろう。
かなりのデメリットを抱えたウイルスではあるが、ちょくちょくメリットが浮かび上がる。本作はそのメリットを凄まじく享受した作品なわけだ。
と、前座をしたところで本題に入ろう。
1,405文字というガチ短編であるため、内容自体はさほど難しくない。
描写も特段難しいモノや、抽象的なモノは使われていないため、読んでいてどこかで詰まることもない。
通常の恋愛系として押さえておけばよいところは大体抑えてある印象を受けた。
また、マスクがただの道具に成り下がってなかったのも良い。
おそらくは最後の文を書きたいがためにマスクをチョイスしたのだと思うが、きちんと一本筋が通った作品へと進化していた。
空行の使い方も良かった。
目立たせたい箇所がきちんと目立っていて、それによって作品に深みが増している。読んでいて、没入できるようになっていた。
ただ、もちろん空行というのは若干飛び道具感のある技法で、中にはこれを嫌う人間もいる。
だが、私にはそういった意識はない。
むしろ、存分使ってほしい、と思っているくらいだ。
これからもぜひ空行を交えた表現を使い続けてほしい。
さて、総括に入ろう。
全体的に良い作品であった。
インパクトのある一文から入り、その後必要なだけの世界観説明。
印象的な文章の前に『――』を入れることで、読者の見逃しを防ぐ。また、そもそも目立たせる。
もちろん文章量的な意味で若干の消化不良感はあるが、それもまあ仕方ない。
むしろ1,405という極端に少ない文字数の中、良くここまでまとめたと、褒めるべきだろう。
一つだけ気になったのはジャンルだろうか。
私の感覚だと本作は『現代ファンタジー』ではなかった。
感覚としては『現代ドラマ』『SF』。
まあ、ジャンルに明確な区分けがあるわけでもないし、結局のところ何でもいい。
私は、こう感じたよ、というだけ。
こんなものだろうか。
それでは。
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