忘れゆく君と幸せいっぱいのお芋カレーを作ろう 著:雪子

 人は忘れてしまう生き物だから、ささやかな「きっかけ」をばらまこう。



 『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト』参加作品。

 

 というわけでいつものように前座を。

 今作は上にも書いた通り、料理系youtuberの企画に応募されている作品。youtuber、だよね? 

 肩書が多くちょっと不安になるが、もっともフォロワーが多いのはyoutuberっぽいのでおそらく料理系youtuberとのコラボ企画だろう。

 私は、こういったテーマが限られるタイプの企画には基本的に応募しない(応募できない)ので、尊敬しかない。

 

 さて、本題に入ろう。

 当たり前だが本作には『料理』の要素が入ってくる。しかし、それだけでは作品が成立しない。こういった企画では『確定事項』に何をプラスするか、というのが重要。

 無限の選択肢がある中、本作では遠距離恋愛がプラスαを担っている。

 

 このチョイスは素晴らしいと思う。

 企画の例として『異世界系食事』が挙げられている中、舞台として現代を選ぶ。

 一見、無謀にも思えるが、短編という制約がついている以上、舞台を異世界に設定するのは難しい。

 語るべき場所の取捨選択をする必要が出てくるからだ。 


 もちろん舞台を現代に設定したところで、説明義務は発生する。しかし、異世界と違って、ほとんど迷う必要はない。

 年齢、立場などの現状を語るだけで基本的に許されるうえ、大学生などの身分も馴染みがあるため、それを明らかにするだけで、おおよその状況が想像できる。

 これは大きなアドバンテージ。


 本作の個人的な山場は、


 ◇ 


「…無理だよ、そんなこと」

「え…?」


 彼女が、何を言っているのか俺にはよくわからなかった。


 ◇


 らへんだと思う。

 私はこのシーンが差し込まれた時、てっきり別れ話が始まると思っていた。

 しかし、本作は私の予想を裏切り、ここから本題である『料理』へと繋がっていく。

 ここら辺はうまいなと思った。

 

 狙ってかどうかは分からないが、上に抜粋したような場面が来れば、基本的に『別れ話』へとつながるのが定石だ。

 いや、定石は言いすぎか。

 そういった傾向がある、と言い直すことにしよう。


 とにかく、恋愛の短編ではどちらかが不穏な雰囲気を出した時、そのまま突っ走る傾向にある。(と私は思っている)。

 ひとえに、もう一度展開を振り回すというのが文字数の関係上厳しい、というのがありそうだな、と私は睨んでいるのだが、本作はこれを解決している。

 

 文字数を使わず、さらには展開に劇的な動きも入れず、ハッピーエンドへと方向修正することに成功。

 これはなかなか出来ることではない。

 大前提、物語というのは基本的には『ハッピーエンド』の方が受けがいい。ハッピーエンドにするに越したことはないのだ。

 

 良い作品であったと思う。

 こんなものだろうか。

 それでは。



 作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16816700427199587898

 作者URL:https://kakuyomu.jp/users/1407

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