第28話 秋冬 福岡市 その5

「おばあちゃん。私、どうしたら良い?」

 祖母はいつもの様に目を瞑っていて、何も答えてくれない。

 こんな時こそ話を聞いて欲しいのに。

 こんなこと分かっていたけど、話せば少しはマシになるかと思ってた。でも駄目だ。

 運が良かった。車に乗せられ、街中とは反対の寂れた山の方面へと連れて行かれそうになった。

 途中、怖くて怖くて、彼奴らの顔も見れなかった。でも偶然、国道で検問に引っ掛かった。何か事故でもあったのか、飲酒運転の検問なのか。兎に角、私は大声で叫び、それを聞き付けた警察官達に金髪どもは逮捕された。

 誘拐容疑なのだろう。それから今度はパトカーへと連れて行かれ、根掘り葉掘り聞かれた。自分でも不思議なことに、自分を誘拐しようとした彼奴らのことより、家のこと、父や母のことについて尋ねられる方が何倍も嫌だった。

 それから私はパトカーで送り届けられた。

 祖母に会いたいと言って病院まで送って貰った。

「ブルルル」携帯が震える。また父だ。

 本当にしつこい。

 ここに来てから、もう何度連絡があっただろう。

 彼は何にも理解していない。やればやるほど私の気持ちが、あの家から離れて行くことを。

 そっとしておいて欲しい。好きにさせて欲しい。

 勝手に生きて、勝手に死ぬから。

 ここではないどこかへ行きたい。

 ガチャリ——病室のドアが開いた。

「やっぱり、ここやった」種が立っていた。

「またお前か。今度は何の用?」

「親父が話したいって」

「話すこととかなかけん」ぶっきらぼうに苗が言った。

「あのさ——」

「何? 良い加減にして! 一人にして!」

「出来る訳なかろうもん! 警察からも父ちゃんに連絡があったと。 親父も俺も、すっげー心配しよったと。それを!」

 思い掛けず種が大声を出して、苗は凍りついた。

「一人になりたい? じゃあ、何でここに来たん? おばあちゃんに話に来たんと違うと? 周りの人間の気持ちも考えんと、好き勝手してから!」

 種のこんな興奮した姿見るのは初めてだ。

「あのさ、親父は嫌な奴やけど、心配しようとは一緒ぜ。やけん、話くらい聞いたらどう?」

 俺が聞いた限り、悪い話じゃないと思う。と種は自らの感想を付け加えた。

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