第27話 秋冬 ボウエンアイランド その3
『——私と一緒だから覚え易いでしょ。え? ああ彼? うん。そうだ、明日、一緒にベリー詰みに行こう。大丈夫、お父様は駄目だって言うけど。私ね、やっぱりお付き合いしようと思うの。彼とっても良い人だし。貴女にも会って欲しい。きっと——』
何度目だろう。この夢を見るのは。
枕元に置いた水差しからグラスに水を注ぎ、ブレンダは一気に飲み干した。やはり自分の頭がおかしいのだろうか? 最早、日課と化した自問自答を繰り返した。
でも、あの小屋は確かにあった。周りの風景も、樫の木も、あの夢のままに、あそこにあった。掘っても何も出なかったけれど。
——有り得ない。
そんなこと、普通に考えて起こる訳がない。
あれがただの夢だとしたら、私は。
私は何を本物だと思えば良いのだろう。
いつも見るビジョンも、時々、聞こえてくる会話も、毎晩どこかを彷徨っていることも、全てが本物の私の記憶なのではないのか。
ブランケットを裸体に巻きつけながら、ブレンダはベッドの下の床に脱ぎ捨てられた衣服を見詰めた。
心の中に疑問が渦巻く。彼女自身、当に気付いていながら、今まで、触れることを避けて来たこと。それは、彼女の存在そのものの是非を問うに等しいことだった。
——本当に私はブレンダなのか?
その名前は鮮明に覚えている。
しかしビジョンを通じて私の目に映った女性は、どう見ても自分自身だった。自分で自分の姿を見ることなど、鏡を通してでしか出来るはずもない。
ということは……。あれがもし、自分の内に眠る記憶の一部だとすれば、あの女性は私ではない他の誰かということになる。
では、ここに居る私は。一体誰なのだ?
頭の中で僅かな記憶と様々な考察が畝り、混ざり合う。
ブレンダは廊下に出て居間まで歩いて行くと、サイドボードの中に仕舞ってあったワインを取り出し、ぞんざいにグラスに注いだ。
飲まなきゃ。眠れない。
私が何をしたというのだ。
これはまるで、
——呪いだ。
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