第3話 実験動物

1匹のマウスが紅い眼で私を見る。その目には、純粋で何も知らない事を示すようにしていた。


私は、このマウスが数時間後には被検体としての運命を過ごすというのに、マウスが呑気なのものだと思ってしまうのだった。


そして、思う。


私も、本当は知らないだけで何かしらの実験の被験体になるのでは無いかと。自分だけが、実験をする側だけでは無いのではないかと。

「東雲さん... あなたが今までに経験した中で一番衝撃的だったことはなんですか?」


記者会見。私がマイクの前で立ち質問を受けている。


新技術、電脳ネットワーク対応の電脳が実用化され販売が開始される事に際して行われた記者会見で開発者の一人として参加する私は、記者の質問に答える。


「シームレスに繋がれた電脳ネットワークにおいて、私は孤独でした。一匹の猫が、廃都市に居るかのように。繋がりが孤独を造るなんて皮肉だと思いましたね...」


キョトンとした記者に私は付け足して言う。


「電脳ネットワーク上での出来事ですが、一番衝撃的でしたので」

造った微笑みに記者たちの反応は薄かったが、同席していた科学者たちは失笑していたが口々に言う。

「記者さんも電脳ネットワークに繋がれば、わかりますよ。衝撃的だった出来事になると思いますよ」


***

静かな闇。光だけが意味を持たずに光り、地面を照らす。


物語のプロローグのように、場面が切り替わり世界が始動する。


鼓動をするように、呼吸をするように 目を覚ます私に冷たい雨が降り注ぐ。


「私は... 猫?」


四足歩行を強要された猫は、私を演じる。この世界が人もおらずに終焉的世界となった理由を私は思い出せないでいる。


仲間の猫はけだるげな声で言う。


「この世界は”実験”そのものなんだ。最悪を想定した世界。そして、僕らは最悪の中にいるコマであり、観測者であり、主人公...かつ インシデントそのものなんだ」


冷たい雨が涙と混ざる。白い華奢な手は猫と人がノイズのように入り乱れている。


「私はなぜ、ここにいるの?」


───目的。 それは、この世界の概念を理解するためのきっかけなのか。

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