第2話 東雲

東雲凛という少女がいた。記録によれば、彼女の両親は国家科学局に所属する研究者であるというのが表向きのデータではあるが実際は私達のように諜報局員のようだ。


姿を見たことは無いが、おそらくここ以外の拠点にいるのだろう。


そして、二人の間には2人の娘がいる。東雲凛と東雲桜と名付けられた二人はそれぞれが同じ高校に通っている。おそらく、二人は両親が諜報員であることを知らないようだ。その証拠に、二人の担任は彼女らが自身の両親が科学者であることを誇りに思っていると伝えられていると証言しているし、二人の調査書にも両親の職業が科学者であると記されていた。


「さて、何か私に言うことがあるのでは?」


地下深く、大深度地下施設である諜報局の捜査本部の取調室に私はいる。目の前の夫婦はそれぞれが科学者であると主張しているが、同業者であるのは確定だ。こちらの知っている事実を伝えていないだけで二人は必死隠そうとしている。もしかしたら、ここが諜報局であることも気がついていないのかもしれない。


「何をしたというの... 私達はただの科学者なのよ」


二人がこうして取調室にいるのは、ある疑惑が浮かび上がったからだ。疑惑というのは、この国...いや都市か? に置いて構築されているシステムを破壊させようと計画していたからだ。 ライフラインでもあるシステムに何かしらの危害を加えようとしたのは、諜報局の指示では存在せず 上層部は二人が独断で、もしくは他の機関からの指示による攻撃ではないかと疑ったのだ。


その計画は、現段階では実行されていないが予備的なものとして小規模なシステムエラーを起こした形跡があった。

「さすが同業者だな。この様子じゃ拷問しても言う気は無いんだろ?」

「証拠が無いだろ。俺らは何も悪いことはしてない」

「これを見ても?」

疑惑の根拠とも言える一枚の画像。そこには、一人の少女が手術用のベッドに拘束され電脳システムを外されている光景だった。

「なんでこれが...」

その少女は、東雲凛であり二人の娘の内の一人だった。

「我々は、電脳システムを外すような指示は出してない。電脳システムの強化を目的とする薬品の開発を指示したはずだ。ましては、少女は君の大切なものなのではないか?」

すると面食らったような顔をして、男はうなだれた。女の方は、男に耳打ちをする。

「もう、だめよ。 私達の事はバレているみたいだし...」

「わかったよ。 君が言うとおりだ 私達は、この国の諜報局にスパイで入ったスパイ...二重スパイだったんだ。でも、凛たちは本当に何も知らないんだ」


そう言う男に、私が更に質問をしようとすると、取り調べ室のドアが静かに開き上司である男が静かな声で言う。それは、二人ではなく私に対してだった。


「捜査は打ち切りだ。二人は保護室へ隔離して、君は避難域へと行きなさい」

「何が起こったのですか?」


問いかけに答えは無く、ただ「急げ」だけ言われると男は立ち去った。振り返り二人を見ると青ざめた顔しつつ何やらブツブツと囁いていた。

「(原因不明)が動作してしまった。もう、私達では停められない...」

先程までとは違い、諦めたように素直になった二人を収容すると上司に言われたとおりに避難域へと向かった。


「おう、お前も避難域へ行けって言われたのか?」

道中で同期に会った。


「そうだよ。何が起こったのか知ってるか?」

「さぁな。ただ、ネットニュースには世界が崩壊だとか終末・終焉だとか書き込まれてばかりで サーバーがバグったのかと思ったよ」


端末を取り出してネットニュースを開くと、彼が言ったようなことばかり書かれていた。まるで、ドラマやアニメを切り抜いたように逃げ惑う人々の様子が動画や画像で公開されていた。

「気味が悪いな。地震でもあったのか?」

「知るか。こんな大深度地下にいれば地上のことなんてわからない」


避難域へつくと、数十人が集まっていた。諜報員から諜報局の事務までがまんべんなく集まると、局長がメガホンを片手に話し始めた。一斉に視線が局長に向かうと、咳払いをして話し始めた。

「(原因不明)で地上は現在壊滅的な状況だ。住民が姿を消したんだ。正確には、自分の家や職場に一斉に入ったきり動きが無い。防犯カメラの映像を調べたところ、電脳ネットワークに接続された後に自殺したり廃人になっているようだ」

すると、一人が手を上げて質問をする。

「ここは、安全なのですか?」

「安全だとは思う。基本的に電脳ネットワークはこの施設内においては無効化されている。例外はあれど、問題はないだろう。ただ、原因がわからないのだから気休めだ」


先が見えないどころか手元すら不明瞭な状況で私達はただ立っていた。情報手段といえば、古びたビデオテックス用の端子だけだが...?


「もしかしたら使えるか?」


隣りにいた同期に尋ねる。ビデオテックス用の端末って倉庫にあったよな と。

「あぁあるな。 だが、サービスは終了してなかったか」

「ネットワークとしてはな。諜報局内のサーバーで構成されたサービスなら行けるかもしれない」

そうか...と彼は言った。倉庫に行き埃を被った端末とモニタを持ってくると、局長の補佐で居た副局長が懐かしそうにしていた。

「局内のネットか。確かにまだあるな」

そうなのかと尋ねる同期に、副局長はあると答える。

「テキストベースのデータのみだが、プログラムによって収集された情報が集約されているのだよ」

鈍い音と共に画面には“ようこそ”と表示される。


ー0.LOCAL NET

<Offline mode>


0と入力すると画面にはIDとパスワードを入れろと表示される。

「副局長これって」

「代わりなさい」

カタカタと打ち込むとブラックアウトした画面が赤くなり、白い文字で描写される。


(非常事態 コード90)


副局長は驚いた様子で局長の元へ向かった。

「大変だ 終末コードだ」

「何です それ」

同期の質問にかぶり気味で答える。

「本当にやばいって事だよ。世界が終焉を迎えるほどにね」

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