ラーメン屋の一角にて

お題:どこかのラーメン 必須要素:血痕 制限時間:30分

(2013.6)

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「結婚?」

「ちがう、血痕。血の痕の方」

ラーメン屋でいきなり結婚とかいうからとうとうこいつも結婚するのか―と思った自分の発想は間違ってないと思う。普通、常識的に考えて、だ。まず血痕なんて浮かばないだろう。

箸を止めて隣に座っている男を見る。のんきに餃子なんかつつきやがって。

「で、血痕?がどうしたって?」

はふはふと美味しそうに餃子をほおばる我が旧友は俺の言葉なんかあまり聞こえて無いらしい。自分から話を振っておいてと恨めしそうな顔をしていると、最後の餃子を名残惜しそうに食べた後投げやりにこいつは言った。

「探偵稼業も楽じゃないのさ、とある裏世界のコンサルタントが消えたってことで調査してたら血痕みつけちゃったよあちゃーって話」

「いきなりそういう話かよ、昼飯時にいうことじゃねぇよ」

「聞いてきたのはそっちじゃん」

そうだけど納得がいかない。

中途半端に食べていた塩ラーメンが恨めしそうに此方を見ているような気がする。豚骨メインで取ったらしいスープが絡む太くて縮れた麺は、本当においしいのよ、もっとたべないの?と。頭の中で血痕という言葉が浮かんでは消えるが、目の前のこのラーメンはそれすら掻き消せそうだ。

チャーシューも分厚く、またキクラゲもたっぷり入っているラーメン。他人はどうか知らないが、俺はこのラーメンが好きだった。だからこそ、至福の時を過ごせると思ったのに、俺は人選を間違えてしまった。

「それにしても、偶然街かどで会って、昼ごはんでも、っていう話になるとは思わなかったよ」

「こっちのセリフだそれは」

「あ、すいませーん、餃子もう一つ」

「お前餃子好きだなおい」

「で、血痕の話なんだけど、血の量的には現場じゃないっぽかったんだよねぇ」

「元の話に戻るのかよ……で?現場じゃないってのは?」

こう続きが気になってしまう自分も恨めしい。

「現場じゃないって言うか、別件なんじゃないか?疑惑が出て来てさー」

「コンサルタントとやらは何してたんだ、やくざの抗争にでも巻き込まれたか?」

ビンゴ、と指を指してくる。無駄に芝居がかった仕草も決まってしまうからイケメンは嫌いだ。

そこで餃子が運ばれてきた。焼きたてで良い塩梅に焼き色がついている。

「あ、一個あげるよー、食べれ」

「おう、もらうわ」

餃子も美味い。うめぇうめぇと食べていたら店主がニラと卵で作った餃子をサービスだと出してくれたこともあった、あれもうまかった。小皿に醤油と酢を足し、付けて口に運ぶ。もちもちした皮の中にじゅわっとした種が絶品だった。みると横では醤油ラーメンをかきこんでいた。醤油もうまいがやはり俺はここは塩が一番美味いと思う。スープが美味くて全て飲んでしまうほど美味いのだ。

「コンサルタントとやらはまだ生きてるんじゃないかなー、なんやかや世渡り上手だったから、血痕は別件で。他の傷害事件とかじゃないかなーとか思ってるんだけど」

「傷害事件とか、仕事中じゃないとききたかねぇなぁ」

顔をしかめるとけらけらと笑われた。

「そうだねー、巡査ー」

「そうだなー、探偵よう」

具を全て食べ終わり、残ったスープを飲もうと器を持ち上げる。舌の上、喉をとおって、少し醒めてしまったがまだ暖かいスープが胃に注がれる。

隣に座る探偵ものんびりと食べ終わり、ぷはーっと水をうまそうに飲みほしたところだった。


「食べおわったし、そろそろ行くか」

「ん、ここ美味しいねぇ」

「だろ。すいませーん、お勘定おねがいします」


店を出たところでぽんぽんと腹をさする。真似して旧友も同じしぐさをしたから小突いてやった。


「まぁ、またどこかでラーメン食べようぜ」

「昔からラーメン好きだよねぇ」

「お前も餃子好きだからいいだろ」

「然り然り」


二人して笑いながら、昼下がりの街を歩いて行った。

そういえばこいつも結婚するのかなぁ、とふっと頭をよぎったが、この変人探偵について行ける女性はいるのかなと旧友に不安抱いたのでそれを言うと、いつもの笑いが返ってくるだけだった。

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