明るい監禁生活

お題:情熱的な監禁 必須要素:ランボルギーニ 制限時間:30分

(2013.4)

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「ごめん、ちょっとコンビニ行ってくるね」

 男はそういうと携帯と財布を手にとり、床で必死にもがいている私を笑いながら出て行った。

 口にはさるぐつわ、後ろに回されて縄で固定された手と、両足首を縛る同じような縄、そして裸の私である。文句を言いたくても言えないのは非常に悔しかった。くそっ、ランボルギーニなんかどうでもいいだろうあの野郎、と悪態をつく。ランボルギーニってなんだよ、意気揚々と縛りながらランボルギーニの魅力について語るお前に私は全く魅力を感じないしそんなにランボルギーニとやらが好きなら一般的な容姿の平均的日本人女性を拉致監禁なんかしないでランボルギーニとやらを買って縛ればいいだろうに!

 数日前に最低限生活だけしていますというようなこの部屋に連れてこられてから、監禁生活がはじまった。さわやかなイケメンだと思った?残念!女の子を縛って楽しむようなそんな変態でした!悲観的にならず自棄になっている自分もどうかと思うけど、あまりに非現実的すぎて悲観的にもなれやしないのだった。あのイケメンはご飯はくれるしちゃんとベッドで寝ることもさせてくれる。常にどこかを縛られている状態ではあるけど。

 ずっと君が好きだったんだ、とかイケメンにぬかされて舞い上がらない一般的平均的な日本人女性がいないだろうか。いやいないだろう。少なくとも私は舞い上がってしまった。少しだけ、何かを期待してしまっていた。そしてデートのお誘いを受けて、その前日から枕に顔をうずめながら明日のデートどうしようとずっとごろごろ転がっていた私の気持ちを少しはわかっていただければと思う。自分が考える限り一番気合いが入った格好をして、メイクもして、毛の処理だって前日に隙がなかった。あの男はデート中は紳士だった。ランボルギーニが好きなこと。映画が好きなこと。使う駅が一緒なのか会社帰りによくみかけて気になっていたこと。ニンジンが嫌いなこと。それから、それから。

 デート中は確かに紳士だった。デートの後、部屋に来ないかと言われて行ってしまった自分を殴りたくなった。話をしていて、すごく、楽しかったのがいけない。こんな人と一緒にいれる時間がこれからもあるならそれは、本当に幸せなんじゃないかと一瞬思ってしまったのがいけない。部屋についてから、少しSっけの有る人だなとか思うようなそういうことをしたと思ったら記憶が飛んで、気付けば私は亀甲縛りだ。しかもあいつはその上から触るようなこともせずにニコニコ眺めているだけだった。これはなんなんですかと言ったところ、だってきれいじゃない、と意味のわからない回答をされるだけ。

 良い言い方をすれば確かに彼は情熱的な人だ。私の体が目当てだったのね!とヒステリックに言ったところ、それは違う、好きだから縛ったんだと真摯な目をして私に語りかける。デートしたところ本当に惚れてしまったんだ、その君があまりに縛ると綺麗だし僕にまっすぐな目を向けてくるからいけない、と。まっすぐな目とはなんぞや、そりゃあ早くこの拘束をとけとまっすぐな目で怒りに燃えながらいうのは当然だろう。

 さて、そういう風にして、私は数日の間情熱的な監禁生活を送っている。そして今日もランボルギーニ好きの変態が、帰ってきたらまた文句をいってやろうと考えている。あの変態の憎い所は、私が好きだと言ったお店のケーキだとかをお土産に買ってきたり、私の好きなものを夕食に作ろうとしたり、私を優しく抱きしめたりするところだ。さるぐつわがある時とない時がある。さるぐつわがない時に、お腹が減ったぞこの変態と出迎えた時はすがすがしい笑顔をされてしまった。彼は私が好きらしいが私は彼が好きなのだろうか?いや、それはない。ないはずだ。

 そんなことをぐだぐだと考えているうちに、あいつが帰ってきた。

 「ただいま、コーヒーゼリーはなかったから、プリン買ってきたよ」

 コーヒーゼリーが好きだと知っての狼藉か。プリンはそれ以上に私が好きなものだった。

 さるぐつわを取られた私が真っ先に言った言葉は、あえて触れまい。

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