その47

R38基地(ホルモン・スモーク)北側の木


SH-60R“レッド・スティンガー27”は、上沼大尉を卸すと“チョップスティック・アルファ・フライト・リーダー”の乗員を乗せてホルモン・スモークに向けて飛び立った。木に残されたのは、上沼大尉を含めて3人となった。

「さあ、へりが折り返しに戻ってくるまでここを護りましょう」上沼大尉は“バグ・バスター”弾を装填したM4A1カービン銃を構えた。

「なにも君が来ることなかったのに」上沼大尉からもらったM4A1カービン銃を持った徳永中佐が言った。

「うちの堅物にもそう言われましたよ」

「堅物?」

「ええ、ブラボー中隊長の下田大尉です。でも、たたき上げのベテランはすごいですよ。大隊長が倒れてからは下田大尉が指揮していたんです。彼のおかげで勝てたんです」

「君らは無事に屋根に降りられたのか?」徳永中佐は、そのことが気がかりだった。

「あなたのおかげで我々は全員屋根に降りられました。ありがとうございます」上沼大尉は、それからの経緯を徳永中佐に話した。

「そうか、決定的なときに間に合ってよかった」

「徳永中佐も奇跡的ですね」

「そうなんだ。君たちを降下させたあと、機首が上がりはじめてな。操縦桿を押しても元に戻らないんだ。どんどんスピードが落ちて失速した。機首がガクンと落ちた瞬間、この枝にからまったんだ」九死に一生を得た話をしていても“マスク”徳永中佐の表情は変わらなかった。

「ヘリが来ましたよ」残っていたもう一人のクルーが叫んだ。

「徳永中佐、戻りましょう」上沼大尉は言った。

“レッド・スティンガー27”は速度を落とし着陸態勢に入っていた。




R38基地(ホルモン・スモーク)2階


“レッド・スティンガー27”を降りた上沼大尉らは、隣に駐機しているC-130Jに向かった。

向かう途中、上沼大尉は高井大佐がいるのを発見した。

「先に行ってください」上沼大尉は徳永中佐に言うと、高井大佐のもとに走っていった。

「高井大佐、我々は撤収します。これが最後の輸送機です」

「上沼大尉、何と感謝してよいのか、我々の傷者、よろしくお願いします」高井大佐は頭を下げた。

「だいじょうぶです。敵であろうとなかろうと、きちんと治療しますよ。私の国はそういう国だと信じています」

「私も、あなたのような国に生まれたかった」高井大佐は小声でつぶやいた。

エンジンをかけ始めたC-130Jの轟音で、高井大佐の言葉は上沼大尉に聞こえなかった。

「なんですって?」上沼大尉は聞きなおした。

「いえ、何でもありません」

「あなた方には迎えが来るのですか?」

「はい。時期は決まっていませんが本国から迎えが来ます」

「高井大佐、それでは」

「はい。よろしくお願いします」二人は握手するとそれぞれの方向に分かれた。


C-130Jの後部ランプでは、一人の兵士が手を振っていた。アルファ中隊最先任下士官“トップ”大谷先任曹長である。

上沼大尉はC-130Jの後部ランプに達すると、エンジン音に負けない大声で言った。「トップ、まだいたのか」

「まだいたのかじゃないですよ。鉄砲玉みたいに行ったきりで。先に帰投した第2小隊、武器小隊を除いてアルファ中隊全員揃いました。中隊のドンケツは中隊長殿! です!」

「そう怒らないでくれ。俺が鉄砲玉できるのもトップがいてくれるからなんだ」上沼大尉はそう言うと、もう一度スロープの付近を見渡した。そこには、こちらに向かって手を振っている高井大佐ら生き残った香貫の兵士がいた。

上沼大尉も手振った。

後部ランプは、ゆっくりと閉まり、彼らは見えなくなった。


上沼大尉を乗せた星川軍最後の輸送機は、午前中のやさしい日の光を受けてホルモン・スモークを飛び立った。

ブルー・ドラゴン作戦が終わった。

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