その44

R38基地(ホルモン・スモーク)上空 星川海軍“ロストル・ブラボー”編隊


“ロストル・ブラボー”のF-14Dは、ホルモン・スモークの100メートル上空でトラック・パターンを描いて飛行していた。

旋回して機首が東を向くたびに空の明るさが増しているのが分かる。間もなく日の出の時間だ。地上では、ヘッドライトを消して走る車が増えてきた。

“ロストル010”のRIO・石川少尉はあくびをしながら「腹減ったな、緒方、朝飯はまだか」と言いながらレーダー画面を表示するMDFの輝度を調整した。


“ロストル・ブラボー”編隊は、この日2回目の出撃だった。

1回目の出撃で、見失った“白バラ”編隊の捜索を打ち切った“ロストル・ブラボー”は<カール・ビンソン>に帰投すると、エアボスからミサイルと燃料を補給してすぐに発艦せよとの命令を受けた。“ロストル・ブラボー”の4人の搭乗員は、交代でトイレに行き、飛行隊事務室でバグジュースを飲んだだけで<カール・ビンソン>を飛び立った。途中、ハチノス・ステーションで空中給油を受けた“ロストル・ブラボー”編隊は、30分前からホルモン・スモーク上空でFORCAP(味方上空での戦闘空中哨戒)に当たっていた。


「そら、来た。ベアリング3-4-1、距離1235、上昇している。5機」“ロストル009”のRIO・中山大尉は、レーダーが探知した目標の敵味方識別をおこなった。「少なくとも味方じゃあねぇ」

「さっき見失ったSu-27じゃないか」渋谷大尉は、探知目標に正対する針路をとった。

「時間的に見て、さっきのやつらだろう。レーダー照射、向こうはレーダーを出してきた。MiG-31だ。Su-27とつるんでいたやつだな。おっと、目標分離、ミサイルが来るぞ。ヘディング0-0-7、BSHに降下、ミサイルをかわそう」中山大尉の指示に「オーケー」と応じた渋谷大尉は、“ロストル009”を急降下させた。その後を“ロストル010”が続く。

「ホッグも探知したみたいだ。MiGの下にも何かいる。たぶんSu-27だろう。たしか8機いたはずだな。13機か。少々、分が悪いな」中山大尉は緒方少尉と石川少尉が心配になった。




R38基地(ホルモン・スモーク)周辺空域 酒匂王国連邦海軍 “ドラゴンキング“編隊


出雲少佐は窮屈な紫電改二“竜神01”のコックピットで身体をモゾモゾと動かした。

ホルモン・スモーク上空で、低空FORCAPをはじめて1時間。<瑞鶴>に戻るまでは、あと1時間。

出雲少佐は<瑞鶴>に戻りたいわけではなかった。すでにホルモン・スモーク内部の攻撃に向かった艦上攻撃機・流星改二は3機も撃墜されている。それなのに自分はホルモン・スモーク上空でグルグルと回っているだけ。FORCAPが重要な任務だということは分かっている。それでも流星改二の危険を少しでも減らす方法はないものか? 出雲少佐はホルモン・スモーク上空でグルグルと回りながらそのことを考えていた。出雲少佐は、何もできない自分に焦りにもにた悔しさがこみ上げていた。

そんな出雲少佐の耳にトング・ノベンバー02からの指示が入った。

「ドラゴンキング ストア・マスター ヘディング2-3-0 BSHに降下しろ。ミサイルが来る。急げ。鈴川に達したら上流に向かって進め、上流から敵が来る。MiG-31が5機、そのほか鈴川に沿って複数機が南下中。交戦せよ」

すでに左降下旋回をはじめていた出雲少佐は「ラジャー。交戦する」と答えると、ホルモン・スモークに点在する民家の陰に向かっていった。




星川合衆国海軍 VAW-114 E-2D“トング・ノベンバー02”


「ロストル・ブラボーは東から、ドラゴンキングは南から攻撃させよう。チャコールバーナーは、対地装備を捨てさせて、ホルモン・スモーク上空で迎え撃つ」榎本中佐は、CICOに命じると、<瑞鶴>に警報を発した。

ホルモン・スモーク内部で戦うレンジャーは、ほとんどが南側の部屋かスロープ付近にいる。廊下にいるレンジャーは少ない。仮に敵が廊下に入って攻撃してもほとんど被害はないだろう。問題は<瑞鶴>だ。ホルモン・スモークの東100メートルにいる<瑞鶴>が発見されたら。フライト・デッキには多くの艦載機が駐機している。機銃掃射を受けただけで甚大な被害をこうむる恐れがある。しかも、間もなく夜が明ける。当面は、敵を<瑞鶴>に近づけないよう航空機を誘導しよう。榎本中佐は、MDFを見ると、トング・ノベンバー02の任務を引き継ぐトング・ノベンバー03が<カール・ビンソン>を発艦してこちらに向かっているシンボルが表示されていた。トング・ノベンバー03とスワップするときは<瑞鶴>のことを忘れずに引き継がないといかんな。榎本中佐は、そう考えながら燃料計を見た。

燃料計は、あと30分ここに留まるだけしかないことを示していた。




R38基地(ホルモン・スモーク)周辺空域 


互いに正面から接近する“青鷹”、“白バラ”編隊と“ドラゴンキング編隊”。

Su-27SMのIRSTが小型の紫電改二を発見するのと、事前に敵の接近を知らされていた紫電改二がSu-27SMを目視したのは、ほぼ同時だった。

「邪魔よ!」瀬奈ふぶき中佐はそう言いながらR-73空対空ミサイルを発射した。


出雲少佐も、ほぼ同じタイミングでAIM-9X空対空ミサイルを発射した。

ミサイルを発射した出雲少佐は、大き目のエルロンロールをうって川沿いに生い茂る草の反対側に隠れながら敵に向かっていった。出雲少佐に続く“竜神02”も同じように隠れた。


IRSTで紫電改二のミサイルを探知した瀬奈中佐は、上昇して鈴川の護岸東側を越えてミサイルから隠れた。瀬奈中佐に続く12機も同じように護岸を越えようとした。

“青鷹”編隊と、“白バラ”編隊のミサイル警報が同時に鳴った。

東から攻撃をかける“ロストル・ブラボー”編隊2機のF-14Dが4発のAIM-120Dを放ったのである。

13機のSu-27SMとMiG-31Mから、一斉にレーダー妨害用のチャフがばら撒かれた。鈴川東岸にチャフの小さな雲ができた。

4発のAIM-120Dはチャフに騙されることはなかったが、2発は草にあたって爆発した。残り2発は、Su-27SMとMiG-31Mに1発ずつ当たって爆発した。2機の戦闘機は、鈴川沿いの砂利道に破片となって飛び散った。


「雲組と月組はミサイルを撃ってきた敵をお相手しなさい。空組と風組はR38基地を目指します」瀬奈中佐の指示で“白バラ”編隊は二手に分かれた。

「白バラ、R38への露払いをさせてもらうぞ」長沢中佐は“青鷹編隊”4機のMiG-31MによるR-37空対空ミサイル一斉射をおこなった。狙う目標は2機の流星改二。

腹に抱えたクラスター爆弾を投棄して身軽になった流星改二に向かって4発のミサイルが急速に接近した。1発をかわせばほかのミサイルに当たる状態にまで追い詰められた流星改二は、ホルモン・スモーク北側で仕留められた。


空組と風組のSu-27SMは、シールズの島崎大尉らが監視に使っていた木の横を通り過ぎた。ホルモン・スモークの廊下出入り口は目の前だった。

「30ミリを受けてごらん。私からのプレゼントよ」瀬奈中佐は、そう言いながら操縦桿の武器選択スイッチを機銃に切り替えた。

瀬奈中佐のヘルメットにミサイル警報が響いた。

「なに? 中から? 白バラ! 上昇」瀬奈中佐は操縦桿を引いてホルモン・スモークの屋根に出た。

ミサイルは、A-FACのF-14Dがホルモン・スモークの廊下から撃ったものだった。

「もう少しタイミングを遅らせていれば当たったのに」F-14DのRIOは悔しがった。

敵がホルモン・スモークの廊下に侵入すると考えたF-14DのRIOは、先に廊下に侵入して、ホルモン・スモーク内部から廊下に侵入してくる敵を攻撃しようと考えた。だが、最適のタイミングを計算したものの失敗だった。


屋根をかわした空組と風組のSu-27SMは、態勢を立て直すためホルモン・スモーク南側の鈴川に出た。

鈴川は、ホルモン・スモークの横で大根川と合流し、流れを東に変えて板戸川とも合流する

「編隊を組みなおしなさい」瀬奈中佐がそう命じるその先に、鈴川を航行する数隻の大型艦を発見した。

それは、<瑞鶴>機動部隊だった。

「あれ空母じゃない」大きな獲物を発見した瀬奈中佐は笑顔を作った。

その時、またしても瀬奈中佐のヘルメットにミサイル警報が響いた。

「各組みごと散開。敵を迎え撃つわよ」瀬奈中佐は“白の1番”を急上昇させるとミサイルを探した。

あった。右後方から白い煙を噴出しながら接近するミサイルを発見した瀬奈中佐は「私を狙っているようね。見てらっしゃい」と言いながら操縦桿を右に倒して機体を背面飛行状態にすると、今度は操縦桿を目一杯引いた。“白の1番”の機動についていけなかったミサイルは、瀬奈中佐の巧みな回避運動であらぬ方向に飛んでいった。


その後に待っていたのは、まさに混戦だった。

7機のSu-27SM、4機のMiG-31M、5機のF-14D、そして2機の紫電改二、合計18機の戦闘機が鈴川の上空で組んず解れつ大混戦となった。

伊勢原の空に、放たれたミサイルが作り出すエンピツの太さほどの煙の筋が重なり合い、スズメバチほどの大きさの戦闘機が乱れ飛んだ。


最初、緒方少尉は必死に“ロストル009”の2番機位置につけていたが、“ロストル009”と自分たちの間をMiG-31Mが猛スピードで突っ切っていった。その後をチャコールバーナーのF-14Dが機関砲を発射しながら追っていった。編隊を維持するどころの話ではなくなった。旋回して、上昇して、降下して、目の前に敵が現れたら攻撃する。これは、なにも緒方少尉に限った話ではなく、18機の戦闘機すべてが同じ状況だった。


瀬奈中佐の前を横切ったF-14Dがミサイルを発射すると、発射されたミサイルは急角度で曲がり、別のF-14Dを追っていたSu-27SMに当たって爆発した。激しい機動をしながら一部始終を見ていた瀬奈中佐は「どうすればあんな撃ち方ができるの」と驚いた。これは、F-14D同士で結ばれたネットワークによって、ロックオンした情報が共有されているからである。このおかげで、ミサイル発射可能な別の1機が、あたかも自分がロックオンしたかのように撃つことができる。


イージス護衛艦「こんごう」を含む<瑞鶴>機動部隊は、北西側の上空で繰り広げられる空の激闘をただ見ているしかなかった。下手に撃てば味方にあたる。<瑞鶴>機動部隊は、下流に向けて全速で走り出した。


混戦の中から、1機のMiG-31Mが抜け出すと、<瑞鶴>に向かって飛んでいった。

「<瑞鶴>に敵が行くぞ! 左下だ!」石川少尉が叫んだ。

「ガチャ! 追うぞ!」は左急旋回でMiG-31Mの後を追った。

「残りは、ナイン(AIM-9X)が1発だけだ。急げ」

緒方少尉は高いGで目の前が暗くなるのもお構いなく旋回すると、スロットルを最前方に押し出してフル加速した。最高速度ではMiG-31Mに劣るものの、加速性能では格段に優れるF-14Dは、たちまちMiG-31Mに追いついた。

「フォックス2!」緒方少尉は、AIM-9X空対空ミサイルを発射した。ミサイルはMiG-31Mのテールパイプに吸い込まれるように突進し爆発した。

二人が撃墜を喜ぼうとした矢先、機体後部から衝撃が来た。

彼らを追ってきたSu-27SMの30ミリ機関砲が命中したのである。

緒方少尉と石川少尉のヘルメットに警報音が響いた。「左エンジン被弾! TIT上昇、左エンジンシャットダウン」緒方少尉は左エンジンを停止させた。

「また来るぞ、右」もうダメか! 石川少尉がそう思ったとき、再度攻撃してくるSu-27SMから小さな火と煙が出た。その上を1機の紫電改二が通り過ぎた。出雲少佐の“竜神01”だった。

「ありがとよ」石川少尉が手を振ろうとしたとき、“竜神01”がガクンと傾いた。“竜神01”の後を追ってきたSu-27SMが放った30ミリ機関砲弾が、胴体と右主翼に当たったのである。

<瑞鶴>を護るため、MiG-31Mに向かった“ロストル010”を追うSu-27SMを見つけた出雲少佐は、背後を敵に取られることを覚悟の上で“ロストル010”を救いに来たのである。結果として“竜神01”はSu-27SMに撃たれた。


出雲少佐は、被弾して傾いた機体を立て直そうと操縦桿を動かしたが反応がない。徐々に右に傾きを増す機体を水平に戻せない。さらに、機体が大きく振動を始めた。

万事休す。

回復不能なスピンに陥る前に脱出するしかなさそうだ。だが、<瑞鶴>を護ってくれたF-14を救えてよかった。よし、脱出!

出雲少佐は、射出座席に付けられた黒と黄に塗られたハンドルを両手で目一杯引っ張った。

“竜神01”のキャノピーが中を舞った。それとほぼ同時に、出雲少佐が座る射出座席のロケット・モーターが点火して、出雲少佐は射出座席もろとも空中に投げ出された。

役目を終えた射出座席が出雲少佐から切り離されるとパラシュートが開いた。

出雲少佐は、<伊400>が輸送した物資で設置されたハラミ・ステーションの東南東約3メートルの地に降り立った。


「ダメだ! 右エンジンのTITも上昇してる。油圧もない。ボートまでもたない」緒方少尉は、エンジン計器を見ながら言った。

「オレ達も“マーチンベーカー・クラブ”(射出座席による脱出経験者)に入ろうぜ」こんな時でも石川少尉は楽天的だった。

「ホルモン・スモークまでならもつと思う。ホルモン・スモークに向ける。そこで脱出しよう」緒方少尉は操縦桿を傾けた。

「ホルモン・スモークには、まだ敵がいるぞ。さっき脱出した紫電改の近くで脱出しよう。礼も言いたいしな。ほい、ヘディング0-8-7、紫電改に乗ってた奴のパラシュート上空で、風上に旋回しろ。そのタイミングで脱出すれば、あいつの近くに降りられるはずだ」

「ガチャ」緒方少尉は操縦桿を右に傾けた。


「白バラ、基地の廊下を通ったが、敵は廊下にいない。繰り返す。敵は廊下にいない。我々にできることはなさそうだ。燃料も心配だ。帰投しよう」“青の1番”を操縦する長沢中佐は、混戦の中心が<瑞鶴>の上空に移動した隙にホルモン・スモークの廊下に侵入した。

南側の部屋内部はよく確認できなかったが、少なくとも廊下に敵の姿はほとんどなかった。地上戦は南側の部屋に移ったのだろう。まずい。だが、我々にできることは何もない。それにMiG-31で機銃を撃ち合うなんてもうできない。帰る潮時だ。長沢中佐はそう判断した。

「そういうことなら長居は無用ね。敵を振り切って帰りましょう」そろそろ燃料が心配になっていた瀬奈中佐も長沢中佐に同意した。

“青鷹”編隊と“白バラ”編隊は、混戦のさなか機首が西を向いたタイミングで混戦を離脱していった。すでにミサイルを撃ちつくした“ロストル009”と“チャコールバーナー”編隊、そして“竜神07”は、深追いをせずホルモン・スモーク上空に移動してそこに留まった。




R38基地(ホルモン・スモーク)2階南側の部屋


屋根の上から降下した上沼大尉らアルファ中隊の一部は、南側の鉄板に集合していた。

だが、北側の鉄板から香貫軍の激しい銃撃にあい身動きが取れない。それでも味方が撃たれないのは、北側の鉄板と南側の鉄板の中間にもう一枚の鉄板があるおかげだった。

「トップ、みんな無事に降下できたか?」上沼大尉は、降下した隊員の状況を確認して戻ってきた“トップ”・大谷先任曹長に尋ねた。

「降下中に撃たれた者が2名、着地に失敗して足を骨折したドジが1名。みんな命に別状ありません。あと、パラシュートで脱出した海軍のパイロットも2名保護しました」

パラシュート降下中にもっと被害が出るだろうと考えていた上沼大尉はホッとした。やはり真上の目標を狙うのは難しいんだろう。次はこっちが攻撃だ。9回裏の逆転満塁ホームランといこう。上沼大尉は武器小隊長を呼んだ。

「北側の鉄板にいる敵に60ミリをくらわせろ。敵がたまらず逃げ出したら、そこにカールグスタフをお見舞いするんだ」

「フーア」武器小隊長は迫撃砲のもとに這っていった。

1分後、最初の迫撃砲弾が北側の鉄板上空で炸裂した。

迫撃砲からの攻撃を避けようと移動をはじめた青木中佐らの香貫軍に向けて、カールグスタフ無反動砲が発射された。


スロープから南側の部屋に侵入した敵の左翼を攻撃するはずだった青木中佐は、北側の鉄板付近で釘付けになった。敵を挟み撃ちするはずだったが、逆にこちらが挟み撃ちにあった。

それに南からの迫撃砲による攻撃は、ボディーブローのように効いてくる。

ただ、我々の後方に屋根から降下してきた敵は1個小隊程度だ。たいした数ではない。1個小隊で南側の敵をけん制して、残りの2個小隊でスロープの敵を攻撃しよう。青木中佐はそう考えると、小隊長たちを呼んだ。


スロープの敵に正面攻撃をかける藤井中佐らの中隊も、激しい銃撃を受けていた。

スロープ手前の掩体壕まであと50センチ。もう少し掩体壕に近づいたら青木中佐と連携をとって同時に突撃しよう。迫撃砲の支援があればもっと早く掩体壕に近づけたはずなのに。くそっ! 藤井中佐がそこまで考えたとき、敵の銃撃方向が変わった。

夜明けを告げる薄明かりが窓から差し込む中を数名の兵士がこちらに向かって走ってくる。敵の銃撃は、その兵士らに向かっていた。

「伏せろ! 伏せろ! ばかもん!」藤井中佐は怒鳴った。

司令官が敵の砲撃による損害の補充を送り込んだのか? そう考える藤井中佐の横に、走ってきた兵士の一人が滑り込んできた。「藤井君の言うとおり、私は大馬鹿者だな」

「司令官! あなたのいる場所ではありませんよ! ここは!」藤井中佐は首を振った。

「そう言うな。あそこに残っていてもすることがない。君たちと一緒に戦わせてくれ」

「わかりました。お考えがあってのことだと思いますが、せめて我々の後ろについてください。これだけは突撃隊指揮官としての命令ですよ。司令官」

「ダー」堀内少将が応えた。


なかなかスロープに近づけない香貫軍は苦戦していたが、ジリジリと接近してくる香貫軍を止められない星川軍もまた苦戦していた。

上沼大尉らが屋根から降下したことで、左翼からの攻撃が減ったこのチャンスに正面からの攻撃を阻止しなければ核弾頭の奪取はできない。焦りを感じはじめていた下田大尉のヘッド・セットに上沼大尉の声が響いた。

「ブラボー6、アルファ6、このままじゃ埒が明かん。一つずつ潰していこう。こっちにはまだ60ミリとグスタフがある。これでブラボー左翼の敵を追い立てて移動を開始する。時間もない。10分後には攻撃を開始したいが、いけるか?」

「ラジャー、ブラボー6。君の案に賛成だ。準備が出来次第連絡する。10分もかからん」下田大尉はアルファ中隊を左翼の攻撃に割り当て、残りで正面の敵をけん制することにした。左翼が手薄だが、そこは上沼大尉に任せるしかないな。そこまで考えた下田大尉はそれぞれの指揮官を呼んだ。

だが、香貫軍は下田大尉らの準備を待ってくれなかった。

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