その34
門沢橋駅東約600メートル 「第3ポイント」
香貫公国空軍 MiG-31M“青の6番”
長沢中佐から東に1キロほどにある第3ポイントにも、“トング46”が発するAPY-2のレーダー波が到達していた。
“青の6番”の後席に座るベテランWSO(兵装システム士官)・岸少佐は「右旋回、機首方位2―1―1。APY-2、シグナル強度中から高! 向こうに探知されるのは確実だ! 旋回終了後レーダーを入れる」と言いながらレーダーの操作を開始した。
「2―1―1、ポニョ」前席で操縦する小柳少佐は、工場の横に建てられた大きな自動車の看板を避けながら上昇旋回を始めた。
自動車の看板に描かれた若い女性の瞳よりも小さな“青の6番”は、その横をかすめるように飛んだ。
強い風が看板に当たって発生した乱気流にも、強力な2基のソロヴィヨーフ製エンジンは負けなかった。あっという間に付近の建物よりも高い高度に達した“青の6番”は、機首方位が211度に向くと、機体の先端に装備されたザスロンM・レーダーを作動させた。
岸少佐の目の前にあるレーダースクリーンに、ザスロンM・レーダーが探知した目標が点となって表示された。
岸少佐は、熟練した手つきでボタンを押し、ダイヤルを回して無数に表示された点の中から星川軍のAWCS“トング46”を探し出すと無線機の送信スイッチを入れた。これまでいっさいの無線を封止して隠れてきたが、レーダーを作動させた今となっては隠れる必要がない。
「カローリ、DF-38! カローリ、DF-38!」岸少佐は、無線で“トング46”の位置を待機する青鷹編隊と白バラ編隊に報告した。
この報告は、攻撃開始の合図でもあった。白バラ編隊長・瀬奈ふぶき中佐が発案した“魔女の食事”作戦は攻撃の段階に入った。
門沢橋駅東約1.1キロメートル
星川合衆国空軍 E-3G AWACS“トング46”
北東空域の警戒を担当する警戒管制官は眉をひそめた。
ディスプレイに表示された無数のシンボルの一つが点滅をはじめ、そのシンボルに“UNK”の文字が表示されたのである。
その警戒管制官の報告を受けた現場航空作戦統制官・後山准将は、先任武器管制官の後ろに立ってディスプレイを覗き込んだ。
“UNK”は、敵味方不明機を示す文字だった。IFF(敵味方識別装置)に応答がなく、目視などで確認がとれていない探知目標。後山准将をはじめ“トング46”のコントローラー(機上管制官)達は、誰一人としてその目標がMiG-31M“青の6番”だとは思わなかった。相模川の東に敵などいない。まっすぐ“トング46”に向かってくる速度を考えると、空中戦訓練の相手を求めて接近してくる我々のF-15がF-16だろう。積極的で闘志あふれる姿勢は評価できるが時と場所を間違えている。どこの航空団に所属するパイロットだかわからんが帰ったらギャフンと言わせてやる。口をきつく結んだ後山准将は鼻から強く息を吐き出した。
だからといって“トング46”に高速で接近する敵味方不明機をそのままにはできない。先任武器管制官は、無線による呼びかけと同時にブッチャーナイフ・フライトのF-15C 2機を目視で識別させるように担当空域の武器管制官に命じた。一連の命令を発して後山准将の方を振り向いた先任武器管制官の表情にも怒りが見えていた。
「お遊びに付き合っている暇はない。追っ払ったらブッチャーナイフを元の位置に戻せ」後山准将は先任武器管制官の座る椅子をポンと叩いた。
彼らはみな間違っていた。
突然コントローラー達のヘッド・セットに警報が鳴り響いた。同時にディスプレイに表示された“UNK”のシンボルが“MIG-31”に変わって赤色の点滅表示となった。
IFFに応答がないため、レーダーのモードをNCTR(非協力的目標識別)にしてレーダー波の解析を始めた矢先、“青の6番”が発したザスロンM・レーダー波をシステムが “MIG-31”と判断したのである。
「これは?」先任武器管制官は、ディスプレイの表示に目を疑った。
それも一瞬のことだった。先任武器管制官は、すぐさま残り2機のブッチャーナイフ・フライトを“青の6番”に向かわせる指示を出すと、ROE(交戦規則)を確認して「ブッチャーナイフ・フライト、ウエポンズ・フリー(兵器使用自由)、ウエポンズ・フリー、バンディット ベアリング0―2―7、374ヤード、アルティチュード250」と自ら無線機を操作してブッチャーナイフ・フライトに命じた。
「なんてこった!」“トング46”の機長は、コントローラーの指示に従ってオートパイロットを切ると、スロットルを押し出し操縦桿を倒して回避行動にはいった。
門沢橋駅南西約2キロメートル
星川合衆国海軍 VAW-114(第114早期警戒飛行隊)E-2D“トング・ノベンバー02”
相模川河川敷のグランド上空で旋回待機中だった“トング・ノベンバー02”にもデータリンクをとおして状況がリアルタイムで入っていた。
「ロストル・ブラボー トング・ノベンバー02 ターン・ライト イミディエイタリー ヘディング0―7―5 アルティチュード1500 バスター」“トング・ノベンバー02”の副操縦席に座るCVW-15のDCAG(空母航空団副司令)代理・榎本中佐は、EMCON(電波管制)を破って無線を使った。
榎本中佐は、以後の管制を後席のコントローラーに任せると、慣れない手つきでMFD(多機能ディスプレイ)を操作して相模川東岸の地図を重ねて表示させた。
MFDの画面には、地図の上にデータリンクを介して得た味方、そして“青の6番”が表示されていた。
これほど正確に“トング46”を攻撃してきたということは、我々の行動は香貫軍に筒抜けだと考えていいだろう。そうであるならば、奴らの目的は何だ? それは……レンジャーを乗せた“チョップスティック・フライト”への攻撃だ! “トング46”への攻撃も1機だけではないだろう。MDFを睨む榎本中佐は香貫軍の意図をそう推測した。
ボスの不安が的中したようだな。敵ながら見事な奇襲だ。まさしくアートと呼ぶにふさわしい。だが、アートは香貫の専売特許ではない。こちらもアートと呼ばれるような対抗手段を打とう。このまま手をこまねいていては作戦全体がおじゃんになる。「よし! 俺たちも2500まで上昇しよう。レーダーは、いつでも出せるな?」榎本中佐は、WSO(武器システム士官)の返事を聞くと、クルーにこれからの作戦を説明し始めた。
長い直線翼と丸くて太い胴体、その上に大きな円盤型のレーダーを背負った外見からは想像できないが、2基の強力なT56エンジンを搭載したE-2Dは身軽だ。
操縦士の上昇操作に即座に反応した“トング・ノベンバー02”は、弓形に湾曲したプロペラから発せられる風切音を大きくしながら上昇を開始した。
門沢橋駅南東上空 交戦空域
香貫公国空軍 MiG-31M“青の6番”
「トゥリー・スェーミ」小柳少佐は、4発のR-37空対空ミサイルを発射すると、右に旋回して機首を北に向けた。
4発のミサイルは、岸少佐が設定した地点まで飛翔すると自らレーダー電波を発して自らの判断で目標に向かっていった。このため“青の6番”はすぐに旋回して避退行動に移れたのである。
ただ、このモードでのミサイル命中率はきわめて低くなる。
だが、これは計画どおりだった。“青の6番”の任務はAWACSの位置局限と、HAVCAP(AWACSなど高価値機体を敵から守るための戦闘空中哨戒)機をAWACSから引き離すことである。
“青の6番”に搭乗する二人は、長沢中佐の期待を裏切ることなく見事に任務を達成した。
香貫公国空軍 “青鷹”編隊 MiG-31M4機
上から見ると四角形の編隊を組んだ4機のMiG-31Mは、アフターバーナーを全開にして猛然と“トング46”に襲いかかった。
4機は同時にレーダーを作動させると“青の1番”WSO古川大尉が割り当てた目標に向けてR-37空対空ミサイルを発射していった。
古川大尉の前に座る長沢中佐も「トゥリー・スェーミ」とコールして最初の1発目を発射した。
長沢中佐は、2発目の発射準備をしながら目の隅で1発目の飛翔を確認していた。
通常、R-37ミサイルはロケット・モーターが点火されると発射母機の前方に飛び出して急上昇していくのだが、1発目のミサイルは逆に急降下していった。
「くそっ! 不良ミサイルだ!」長沢中佐は、そう毒づきながら2発目を発射した。
2発目は正常に急上昇しながら東の空へ、“トング46”の方向に飛んでいった。
続く3発目、4発目も正常に飛んでいった。
他の3機が放ったミサイルには異常がなく、合計15発が“トング46”と“ブッチャーナイフ・フライト”のF-15を目指していった。
星川合衆国海軍 VAW-114 E-2D“トング・ノベンバー02”
榎本中佐がMFDを睨んでいると、突然4機のMiG-31を示すシンボルが現れ、そこからミサイルと見られるシンボルが分離した。
こいつら本気で“トング46”をつぶしにかかっている。まずは我々の目と頭脳であるAWACSを排除して、その後ゆっくりとレンジャーを乗せた“チョップスティック・フライト”を料理する算段なのだろう。
“トング46”は、ミサイル探知と同時にレーダーを切り急降下しているため、どれだけのミサイルが飛んでいるかはわからない。“トング46”にどれだけの被害が出るか心配だが、いずれにせよ“トング46”は当分使い物にならない。
榎本中佐はそう考えると、すでに東に向かわせている2機のF-14D“ロストル・ブラボー”を増速させるようCICO(先任管制士官)に命じ、自らは<カール・ビンソン>の射出カタパルト上で即時待機中のF/A-18C 2機の発艦と、空中給油機の準備をCSG3司令部先任幕僚(副司令)岡部准将に要請した。
「こいつらの目的は、あくまでも“チョップスティック・フライト”だ。お前の考えを承認する。お前が現場航空作戦統制官を引き継げ。ブルー・ドラゴンの了解は得ている」
「ラジャー」岡部准将の命令をニヤリとしながら答えた榎本中佐は、MFDから眼をはなさずに言った「おい、CIC(管制区画)、レーダー・アクティブと同時にリモートアタックだ! 準備はいいか?」
「OK!」命令一下レーダー電波を出せるよう指をボタンの上に置いたWSO(武器システム士官)はすぐさま答えた。リモートアタックに成功すれば半欠けの撃墜マークを自分らの機体に描ける。これまで戦闘機の奴らにしか描けなかった撃墜マークを半欠けとはいえホッグ(E-2D)に描けるんだぞ。ざまあみろ! WSOはやる気満々だった。
星川合衆国空軍 E-3G AWACS“トング46”
“青鷹”編隊 MiG-31M4機が発射した15発のR-37ミサイルは、強い北西風に押されて急速に“トング46”に迫った。
“トング46”に狙いを定めたR-37ミサイルは合計11発。その内、長沢中佐が発射したミサイルが“トング46”の目前に到達した。
強い風に押されたミサイルの速度があまりにも早いため“トング46”の回避行動は間に合わない。それでも最初のミサイルはチャフに惑わされて後方に過ぎ去った。
続く2発目は強い北西風によって軌道修正が間に合わず“トング46”の横を通り越していった。
3発目は左に急旋回する“トング46”の胴体中央部、回転するレーダーを支える支柱の右側で爆発した。
爆発の衝撃で右側の支柱が折れ、レーダーは右側に傾いた。
「おっと!」機長は、大きな円盤型のレーダーが右側に傾いたため、左に傾けていた機体が水平に戻ろうとする力に対抗してさらに操縦桿を左に回した。ベテラン機長の操作は素早く適切だった。ただ、“トング46”を狙ったミサイルは、あと8発あった。
左側のレーダー支柱付近に4発目のミサイルが命中した。今度は左側の支柱が折れグラスファイバー製のレーダー覆いを割った。この結果レーダーは水平に戻り、割れたレーダーは大きな空気抵抗をもたらした。
機内ではチャフの発射音に驚くコントローラーもいたが、ほとんどの乗員はベルトをきつく締めて機体の揺れに対処していた。唯一座席に座っていなかった後山准将は、揺れる機体で転ばないよう壁やコンソールで身体を支えながら自分の席に戻ろうとしていた。
その時だった。不発だった5発目に続く6発目が“トング46”の上方5センチのところで爆発した。
爆発の衝撃によってちぎれかかっていたレーダーが、機体と分離して垂直尾翼と右側水平尾翼をもぎ取りながら後方に落ちていった。
“トング46”は急激なフラットスピンにおちいり、ただ一人座席に固定されていない後山准将は、天井まで投げ飛ばされると跳ね返ってコンソールに激しく落とされた。首の骨が折れた後山准将は、死の恐怖を感じる前に戦死した。
だが、後山准将は幸運だったかもしれない。座席に座るコントローラーは、墜落による死の恐怖と激しいGに耐えなければならなかったからである。
それは、“トング46”が道路の固いアスファルトに激突するまで続いた。彼らにとって永遠とも思える長い時間だった。
星川の空軍力を象徴するAWACSが史上初めて撃墜された。
香貫公国空軍 “衝撃”編隊、“白バラ”編隊
長沢中佐が指揮する“青鷹”編隊が攻撃を開始した第2ポイント(海老名南ジャンクション)から圏央道を1キロほど南下した第4ポイントでは、MiG-31M 4機からなる“衝撃”編隊が行動を開始した。
彼らの任務は、レンジャーを乗せた“チョップスティック・フライト”のC-130輸送機11機を探し出して攻撃すること。AWACSとは違い自らレーダー波を出さずに飛行するC-130を広大な空から探し出すには、MiG-31Mの機首に装備されたザスロン・レーダーの長距離捜索能力が必要だった。
さらに効率よく捜索を行うため、4機のMiG-31Mは500メートル間隔で横一列の隊形をとる。MiG-31Mの搭乗員にとって、このような戦術は頻繁に訓練している手馴れたものだが、横の間隔が広いため編隊を作るには時間がかかる。
編隊の中央に位置する編隊長・谷少佐は、編隊の両端に移動するMiG-31Mが早く占位できるようにゆっくりと上昇していった。
“白バラ”隊の編隊長・瀬奈ふぶき中佐は、谷少佐のMiG-31Mを見下ろす位置で乗機Su-27SM“白の1番”を安定させると、残燃料と現在位置を確認してこの空域に留まれる時間を計算した。井崎コロニーで燃料補給ができるとはいえ作戦の成否を決める最大の要因は、どれだけ長くこの空域に留まれるかにかかっている。さあ、ラインダンスは終わり。次は大階段よ! 瀬奈中佐にとって成功したAWACSへの攻撃は過去のものとなっていた。
星川合衆国海軍 VAW-114 E-2D“トング・ノベンバー02”
「いまだ! 明かりを灯せ!」榎本中佐はレーダー電波を発射するよう命じた。
“トング・ノベンバー02”が背中に背負った円盤型のAN/APY-9レーダーから強力なレーダー電波が放射された。
新たな目標がコンソールに映り出された。
レーダーが3回転したころには新たに探知した目標が香貫のものであり、移動方向から“チョップスティック・フライト”を目標にしていることも推測できた。
大ボスのお出ましだ。横一列になった4機が目標を捜索する役割を持っているのだろう。MiG-31お得意の戦法だ。まず、こいつらを叩いて目潰しをくらわせれば時間が稼げる。「先頭にいる4機横隊にリモートアタックだ! プラン・アルファ・ダッシュ・2!」
「ラジャー、プラン・アルファ・ダッシュ・2!」榎本中佐と同じ考えのCICOはそう答えると、巧みにMiG-31を分類して攻撃シーケンスを開始した。
香貫公国空軍 “衝撃”編隊、“白バラ”編隊
「これなに? どこから来たの?」瀬奈ふぶき中佐は目を疑った。
すばらしい飛行性能とは裏腹に、古めかしいアナログ計器に埋め尽くされたコックピット。その計器版の右下にあるRWR(レーダー警戒受信)表示器に一筋の光が輝き、同時にヘルメットのイヤホンから警告音が鳴った。
レーダーに照射されているのはわかるけど、レーダー種別が不明ってなに? 星川の新兵器?
香貫軍は、配備されて間もないE-2Dの新型レーダーAN/APY-9に関する情報を持っていなかった。このため、RWR表示器のライブラリに登録されていない周波数であることから“不明”と表示されたのである。
瀬奈ふぶき中佐と同じ状況だった“衝撃”編隊と“白バラ”編隊の搭乗員は混乱した。
とはいえ、RWR表示器を見る限り、捜索レーダーらしく攻撃前に照射される射撃管制レーダーとはちがう。直ちに回避行動にうつる必要はないけれど、ゆっくりはできない! 混乱した中でも両編隊長、瀬奈ふぶき中佐と谷少佐はそう判断した。
ただ、瀬奈ふぶき中佐らはE-2Dのリモートアタックを知らなかった。
E-2Dは、F-14D“ブロック3A”から発射された長距離空対空ミサイルAIM-54C++の中間誘導ができる。もちろんこれまでもデータリンク情報をもとにミサイルの中間誘導はできていたのだが、動きの素早い戦闘機に対しては情報の更新が間に合わず実用的な命中率を期待できなかった。だが、E-2Dに搭載されたシステムは、これを実用レベルまで引き上げた。
E-2DがF-14Dを最適なミサイル発射地点に誘導し、最適な時期にミサイル発射を指示、ミサイル自身が搭載するレーダーが目標を捕捉できる最適位置までミサイルを誘導する。この間、F-14Dはミサイル誘導に必要な射撃管制レーダーを使うことがないので敵は攻撃されていることを認識しづらい。
リモートアタックでのF-14Dは、ただのミサイル発射台にすぎないので、ミサイル発射後は次の攻撃に備えて別の場所に移動する。
コンピュータと通信技術を駆使し、様々なセンサーと様々な武器を融合させた星川軍の新しい戦い方の一つがリモートアタックだった。
星川合衆国空軍 F-15C“ブッチャーナイフ・フライト”
「サノバビッチ!」“ブッチャーナイフ・フライト”編隊長・浜田少佐は、そう言葉を吐き出すと、すでに最前方のスロットルをさらに前方に押した。
“トング46”の指示とはいえ完全に香貫の罠にかかったあげく“トング46”を失った。怒れる浜田少佐は、怒りのはけ口を左手に握るスロットルに求めたが、最前方にあるスロットルはこれ以上動かない。浜田少佐の怒りの対象は香貫軍に対してではなく、このような事態を許した自分自身に対してであった。
浜田少佐は、これまで追っていた“青の6番”ではなく、“トング46”を撃墜した“青鷹”編隊の4機を追うよう列機に命ずると、編隊が崩れるのもかまわず7Gの急旋回で機首を北西に向けた。
機首が北西に向くと、浜田少佐はMDFに表示されるレーダー画面を凝視して酸素マスクの中で怒鳴った。「トング46を撃ったMiGはどこだ! ハリー! ハリー! ハリー!」
焦る浜田少佐がレーダーを操作していると、“ブッチャーナイフ・フライト”を呼び出す声がヘルメットに響いた。
「ブッチャーナイフ・フライト、ブッチャーナイフ・フライト! トング・ノベンバー02! ターン ポート ハード アズ ポッシブル ヘディング 2-3-4」
トング・ノベンバー02? 海軍のE-2Dだ。そんなのしるか!!「ファック・オフ!」浜田少佐はそう答えた。
「おいおい、下品な言葉を使うな。気持ちは分かるが、君たちは輸送機を守るためにいるんじゃないのか。すぐに2-3-4に向けろ。新たな敵がチョップスティック・フライトを狙っている。今なら間に合う」同じ戦闘機乗りとして浜田少佐の気持ちが痛いほどわかる榎本中佐がCICOと浜田少佐の無線交信に割って入った。
「ブッチャーナイフ リーダー ターン レフト ヘディング2-3-4 輸送機を狙わせるな!」榎本中佐の言葉に浜田少佐の冷静な部分が反応した。
「わかってくれると思ったぜ! ブッチャーナイフ・リーダー ウエポンズ・フリー、繰り返す、ウエポンズ・フリー。敵の西には攻撃中のロストル・ブラボー、東ではウエットタオルを敵とチョップスティックの間に割り込ませる。注意しろ」
浜田少佐は、人差し指で操縦桿のマイクスイッチを2度押して榎本中佐の指示に応えた。
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