その29

相模川 寒川駅西約1.7キロメートル「ロース・ステーション」

星川合衆国海軍 CSG3(第3空母打撃群)原子力航空母艦<カール・ビンソン>(CVN-70)


<カール・ビンソン>を中心としたCSG3は、相模川に設定された「ロース・ステーション」に到着していた。ブルー・ドラゴン作戦中<カール・ビンソン>は、この地点を中心に艦載機の発着艦作業を行う計画になっている。

<カール・ビンソン>の艦内では、様々な部署が作戦の準備に余念がなかった。

フライト・デッキ直下の03デッキにあるブルー・ドラゴン共同司令部では、攻撃前最後のマスブリーフィングが終わるところだった。このマスブリーフィングには入江男爵と岸本中将のほか、遠隔会議システムを使って星川陸軍の3/75Ranger(第75レンジャー連隊第3大隊)大隊長・青柳中佐や、酒匂海軍第1航空艦隊第5航空戦隊司令などブルー・ドラゴン参加部隊の指揮官全員が参加していた。

マスブリーフィングの最後を締めくくったのは、岸本中将だった。

「酒匂軍将兵の皆さん、そして星川軍将兵の諸君、今回の戦いは、見ず知らずの国で秩序回復を行う戦いではない。ましてや権益を守るための戦いでもない。核ミサイルの直接攻撃から、我々の家族や友人を守るための戦である。我々自身のための戦いなのである。この戦いを成功に導くには、全てのレベルでの協調が不可欠となる。それは、酒匂、星川双方の協調も同じである。この戦いが終わればまた敵同士にもどるのだろうと考える者もいるが、明日のことはレースのパンツをはいた外交官連中に任せよう。少なくとも我々は共に香貫の銃弾の下を這いつくばることになる。我々は共に戦う同志なのである。

いずれにせよ香貫軍は着々と態勢を整えている。それでも我々は勝って家族や友人を守る。共に信頼し、共に協調し、厳しい訓練に耐えた自分を信じ、そして仲間を信じろ。さすれば勝利の女神は我々にほほ笑むはずだ。諸官の健闘を祈る」

岸本中将の訓示が終わり、共同司令部にいる要員が起立すると、岸本中将と入江男爵は共同司令部を出て行った。香貫のミサイル基地に対する攻撃は、実施の段階に移った。


加藤中佐と、DCAG(空母航空団副司令)代理・榎本中佐も、共同司令部を出て長く狭い通路に出た。

「ブルーシャツを着て鼻高々の奴ら(空軍)は頑固ですな。鼻に一発くらわさないと分からんようだ」榎本中佐は、<カール・ビンソン>の指揮区画を行きかう乗員を避けながら言った。

「おいおい、パンチだけはやめてくれよ」

「そんなことはしませんよ。私も年をとって丸くなったんですから。それに、私が問題を起こせばボスまで飛ばされますよ」

「俺と違ってお前はまだ汚名返上のチャンスが残されているんだ。こらえるところはこらえてくれよ。それにお前がいなくなると俺が困る。お前がいないとフラッグ・ブリッジで昼寝ができなくなるじゃないか」

榎本中佐は、笑うとすぐに真顔にもどって言った。「私の出番がありそうですね」

「問題は、どんな状況で出番が来るかだ。予測もつかん。そんなときに攻撃軸を正しい方向に向けられるのは、海軍広しとはいえ、お前だけだ。頼んだぞ」

「できるだけの事をしますよ。ボスにこき使われるのは慣れていますから」

「榎本、お前もか」二人は笑った。


彼らの7センチメートル下、第7デッキ、艦内奥深くの弾火薬庫では、赤いシャツを着た武器員がミサイルや爆弾の組み立てに汗を流していた。

組み立てが終わり、調整が済んだミサイルや爆弾は、武器検査員が最終確認をしてグリスペンでしるしを記入していった。

航空機に搭載するだけとなったミサイルや爆弾は、搬送用のスキッドに固定され、フライト・デッキに通じる武器用エレベータに載せられた。

フライト・デッキでは、別の武器員がミサイルや爆弾を受け取り、直接航空機や艦橋横の一時保管場所に運んでいった。

そのフライト・デッキでは、発艦に備えた航空機の移動が行われていた。トラクターによって牽引されたF-14DやF/A-18がいたるところで動き回り、あるところでは燃料の給油が行われ、あるところではミサイルや爆弾の搭載が行われていた。はじめて見る人にとっては「混乱の極み」にしか見えない。だが、フライト・デッキで行われている作業は全て艦橋1階のハンドラー・ルームが管制する緻密に計算されシンクロされた動きだった。

日が沈んだ相模川を航行中の<カール・ビンソン>、全長1メートルほどのフライト・デッキはオレンジ色の照明に照らされ、そこを赤や黄色のシャツを着た身長5ミリメートルの要員が発艦準備を進めている。彼らの作業が終了すれば、次は飛行士たちの出番となる。それも間もなくのことだった。




柏尾川 大船駅北約1.8キロメートル

星川合衆国空軍 大船AFB(大船空軍基地)

星川合衆国大船コロニー


大船AFBに勤務する隊員の夕食が済んだころ、3/75Ranger(第75レンジャー連隊第3大隊)の隊員は、出撃前最後の食事に向かった。一連の騒動が始まって以来、やっと暖かい食事がとれることにレンジャー隊員は喜んだ。ただ、食事の時間は軍の基準にしては遅い時間だった。レンジャー隊員の何気ない一言から秘密が漏洩することを恐れた連隊本部が、基地に勤務する隊員の夕食時間とずらすように指示してきたのである。人との接触が少なければ少ないほど秘密が漏洩する危険は減る。

腹をすかせたレンジャー隊員は、将校は将校クラブ、上級曹長は上級曹長クラブ、曹長以下の隊員は兵員食堂に分かれて食事場所に入った。


若い下士官や兵が食事をとる兵員食堂は、数人の基地勤務員が食事しているだけだった。そこに入ったレンジャー隊員は、トレーを持って一列に並んだ。

「あんたら見かけない顔だね。どこの整備隊だい?」兵員食堂で民間従業員として働く芳江が、レンジャー隊員の列に話しかけた。

配膳の順番を待つレンジャー隊員の一人が自慢げに言った「お母さん、オレたちは整備員じゃあないぜ! オレたちはレンジャーだ。陸軍さ。」そして、左腕に付けたレンジャー徽章を初老の芳江に見せつけた。

「陸軍さんかい。どおりで体格がいいと思ったわよ。こんな田舎のコロニーに訓練でもしに来たのかい?」

「ちがうよ、オレたちは0時に集合して悪い奴らをぶちのめしに行くんだ」別のレンジャー隊員がこぶしを挙げた。

「おい、任務前点検の時間とか、うかつに喋るなよ!」前に並ぶ伍長が注意した。

「変なこと聞いてごめんなさいね。たくさん食べてがんばってよ」

「まかしとけ!」先ほどレンジャー徽章を見せびらかしたレンジャー隊員が答えた。そして、その後ろに並んでいた若い1等兵は、芳江を自分の祖母とだぶらせたのか祖母の言葉に頷くように首を縦に振った。

芳江は怪しまれないようにレンジャー隊員の人数を数えた。全部で500人くらいね。忘れないようにしないと。芳江はそう考えながら、洗い場に向かった。


1時間後、仕事を終えた芳江は、塗装の痛んだ古い“カムリ”に乗って夫の待つ自宅に向かった。芳江の自宅は、大船AFBの滑走路脇に建つ古いマンションだった。

「帰ってきたよ」ドアを開けると目の前のリビング・ダイニングは真っ暗だった。リビング・ダイニングの奥にはベランダに面して部屋が二つ並んでいる。右側の部屋は明かりとテレビがついていたのだが、ドアが閉められて隙間から明かりが漏れているだけだった。

「お帰り」ドアが開けられた左側の暗い部屋から夫の声がした。

「何かあったか?」夫は三脚に取り付けた望遠鏡で大船AFBを観察しながら言った。マンションの4階にあるこの部屋からは、滑走路とエプロンの一部が見渡せる。

「レンジャーとかいう兵隊が500人くらい食堂に来たわ。夜の0時に集合して悪い奴らをぶちのめしに行くんだってさ。その時間は、たぶん任務前点検の時間だと思うんだけど、任務前点検って何なのさ」

「出撃前の、やる気の確認と、持ち物検査みたいなもんだ」夫は、杖をついて足を引きずりながら明るい隣の部屋に移った。夫は、星川陸軍第82空挺師団に長く勤めた退役軍人だが、戦闘中に負傷した足が動かなくなり、杖がなければ歩けなかった。

「かあさんが仕入れた情報は、新崎さんが欲しがっていた情報そのものだ。こりゃあ臨時ボーナスだぞ。よかったな」夫は、芳江が仕入れた情報と自分が観察した基地の状況を暗号に変えながら言った。

「よし! できた。かあさん、頼むぞ」夫は、暗号にした紙を芳江に渡した。

芳江は「はいよ」と言って受け取ると、数回読み返した。紙を見ながら自然に話せるくらいに内容を覚えた芳江は、自分のガラケーを取り出して横浜コロニーに住む同年代の女性に電話をかけた。

その電話の内容は、他人が聞けばただの日常会話だった。NSA(星川国家安全保障局)が傍受していたとしても、NSAが関心を引くような単語は一切使われていなかった。

芳江は、電話を終えると深く息を吐き出して、近日中に振り込まれる臨時ボーナスの金額を計算した。金額に満足した芳江は「のどが渇いたわね」と言って明るい部屋を出ていった。


芳江からの電話を受けた横浜コロニーに住む女性は、第6台場金融センターで金融業を営む男に電話をかけた。彼女は、芳江との会話を一字一句漏らさず伝えると電話を切った。

電話を受けた金融業の男は、暗号を解読すると別の暗号に翻訳して香貫山首都コロニーで保険ブローカーを営む男に電話でその内容を伝えた。彼は、電話を終えると解読と翻訳に使った紙を机の上に置かれた灰皿の中で燃やした。紙が完全に燃えたことに満足した彼は、席を立って窓から外を眺めた。窓の外には眠らない町、第6台場金融センターの摩天楼がきらきらと輝いていた。


芳江と夫は、銀行の通帳を見ていた。「もう少しで目標金額ね」芳江はほほ笑んだ。目標金額とは、孫の手術に必要な費用のことだった。生まれながらの難病に苦しむ孫が生き続けるには、高額な手術費用が必要だった。その手術費用を貯めるために二人は必死に働いた。

だが、思うように金は貯まらない。それでも、できるだけ早く孫の苦しみを解放してあげたい。そんなとき、二人は星川国防新聞社の新崎編集長と出会った。事情を聞いた新崎編集長は、「大船AFBの動向を常時観察して報告してくれれば、相応の謝礼を払いますよ」と提案してきた。普段の謝礼は少なかったが、時々今回のような特別な情報を求められることがあり、その際の臨時収入はけっこうな金額だった。

「さぁ、私は内職を終わらせましょうかね」芳江はコンピュータの電源を入れた。

「今日は、もういいんじゃないか」夫は芳江の身体を気遣った。

「そうもいかないでしょ。1日でも早く手術しないと。ねっ」と言って、コンピュータの壁紙になっている孫の写真にほほ笑んだ。


芳江が自分を犠牲にしてでも孫を助けたいと決意したのは、孫が1歳の誕生日を迎えた日からだった。

孫の両親と芳江夫妻は、孫が入院する病室で、ささやかな誕生祝いを行った。

無数のチューブが身体につながれた孫に向かって、芳江はやさしく言った「1歳になったね。誕生日おめでとう」そして、芳江は孫に向かってほほ笑んだ。

すると、それまで無表情に天井を見ていた孫は、顔を芳江に向けてにっこりとほほ笑んだ。

鼻にもチューブが繋がれ、それでもほほ笑む孫を見て芳江の心は痛んだ。

芳江は孫に顔を近づけた。ふと、ほほ笑む孫の口の中を覗くと白い乳歯がみえた。あっ、乳歯が生えてきた。この子は病気と戦っているだけじゃないのね。大きくなろう、大きくなろうともしている。そんな健気な孫を見て、芳江の目から涙がこぼれた。

せめて、このチューブをはずして自由に動けるようにしてあげたい。それは、孫の両親と芳江の夫も同じ思いだった。だが、高い高い手術費用が必要だった。それでも孫の両親と芳江夫妻は、手術費用を貯めようと誓った。なかでも芳江の決意は固く、以来3つの仕事を掛け持ちして働き続けている。

そんな芳江夫妻にとって、新聞社に情報を提供するだけで得られる臨時ボーナスは無くてはならない収入だった。芳江夫妻は新崎編集長に感謝した。

だが、芳江夫妻は騙されていた。

新崎編集長の名刺に印刷された星川国防新聞社の住所には、狭い事務室に電話があるだけで新聞社などではなかった。星川国防新聞社など存在しないのである。そして新崎編集長は、芳江夫妻には星川国防新聞社編集長の名刺を渡していたが、別の協力者には別の会社、別の肩書き、別の名前の名刺を渡していた。新崎編集長は会う人によって肩書きも、名前も変えていたのである。彼は、KGB(香貫国家保安委員会)の海外工作員だった。芳江夫妻が提供した情報は、香貫に流れていたのである。

芳江の夫は、情報の伝達方法や高額な報酬に不審を抱いていたが、芳江と孫のことを考えると詮索はできなかった。ましてや、芳江にその事を話すことなどできなかった。私は、外国に情報を売り渡しているのではないか。芳江の夫は、そう思うこともあったが、それならそれでいい。最後まで騙されたふりをしよう。芳江の夫は、芳江とは違う決意を持っていた。




鈴川と板戸川の合流点付近 伊勢原駅南約2.5キロメートル

香貫公国軍 R38基地


風は、伊勢原でも吹きはじめていた。風は、滑走路のある廊下を吹きぬけ、廊下にある司令部テントをバタつかせていた。

その司令部テントにいる堀内少将のもとに、最高参謀本部から芳江の情報が届いた。

「香貫山は、この情報が正確だと考えているのだな」堀内少将は情報担当将校に問いかけた。

「はい、この情報を補強する材料もそろっています。大船の空軍基地には、12機ほどのC-130が飛来しています。また、二俣川空軍基地でも動きが活発です。この基地にはAWACS(星川空軍・早期警戒管制機E-3C“セントリー”)とF-15が配備されています。」

「星川の両用戦部隊は?」

「星川の太平洋艦隊に所属する両用戦艦艇は、その所在を確認済みです。こちらに向かってくる両用戦部隊はありません。ただ、<カール・ビンソン>打撃群の所在は不明です」

「相模川か」

「おそらく……司令官、今夜です」情報担当将校は断言した。

「私も情報部の見解に同意します」情報担当将校の理論的な帰結とは違い、作戦担当将校・藤井中佐は、肌の感覚で星川の攻撃が今夜だと感じていた。

「よし! “魔女の食事”を発動するぞ。輸送機の離陸は0000時でいいな」堀内少将は、藤井中佐と作戦担当将校を交互に見た。

「その時間でいいと思います。AWACS(早期警戒管制機E-3C)が来る前に制圧を完了させねばなりませんから。」藤井中佐は頷いた。

「12機のC-130なら、レンジャーの1個大隊全てを輸送できます」第331親衛パラシュート降下連隊第1大隊長・青木中佐はそう言って腕時計を見ると話を続けた「あと2時間ほどで到着する私の部隊が揃えば、彼我の兵力に差はありません。概ね状況判断のとおりです。計画を変更する必要はないでしょう」青木中佐は、机に置かれた分厚い作戦計画書を指差した。「ただ、空から攻撃されるのは厄介ですな。これを避けるには接近戦に持ち込むしかありません。“魔女の食事”に期待しましょう」

“魔女の食事”は、第586戦闘機連隊第1大隊長(白バラ隊)瀬奈ふぶき中佐が発案し、藤井中佐らR38基地の幕僚が協力して仕上げた作戦の名称だった。

“魔女の食事”作戦は、最初に星川空軍のAWACSを無力化した後に、その混乱に乗じてレンジャー隊員を乗せた輸送機を攻撃する作戦である。

この作戦を成功させる鍵は、AWACSの無力化である。

星川軍の目と頭脳であるAWACSを取り除けば、星川軍は我々の動静がわからなくなる。あとは、護衛戦闘機を輸送機から引き離せば、輸送機を攻撃するチャンスが増える。

だが、AWACSは自らが攻撃を受ける空域に位置することはない。ほとんどの場合、その後方に位置する。しかも護衛の戦闘機を伴っているので、彼らが対応できないスピードがなければ作戦は失敗する。幸いにもMiG-31は、それだけのスピードが出せる。しかも“AWACSキラー”とも呼ばれるR-37長距離空対空ミサイルを発射する能力を持っている。

問題は、攻撃終了後のMiG-31にA57基地に戻るだけの燃料が残っていないことである。このような時こそ空中給油が必要になるのだが、香貫空軍の空中給油機は爆撃機の支援用として4機しか保有していない。戦闘機のパイロットで空中給油の訓練を受けた者はいなかった。

かといって、車輪にそりを装着した輸送機が、やっと着陸できるR38基地に戦闘機は降りられない。

「燃料がなければ、燃料がある伊勢原の空港に降りればいいじゃない。伊勢原のハウス・コロニーを飛び回っているC-130があると聞いているわ。場所はここ」瀬奈ふぶき中佐はそういって航空図を広げ、井崎コロニーのある場所を指差したのだった。

瀬奈ふぶき中佐の作戦はいけそうだと考えたR38基地司令・大松大佐は、情報将校と作戦将校に井崎コロニーを調査させた。

井崎コロニーは各方面に申請や広報を行っていたため、空港の資料は簡単に入手できた。公共用飛行場の完成検査として、ICAO(スクナビ国際民間航空機関)やFAA(星川連邦航空局)に提出した書類や、スクナビの航空会社にプレゼンテーションした井崎空港の詳細資料などである。

これらの資料には、滑走路や燃料施設だけでなく電話交換設備や電源管理施設、コロニー全体の詳細な地図なども含まれていた。さらに、コロニー内の警備態勢に関する資料もあり、虫の侵入に備えただけの武器しかないことも判明した。唯一脅威となりそうなのは、M2重機関銃を荷台に搭載したピックアップ・トラックだが、これも虫対策のもので1台しかなかった。瀬奈ふぶき中佐が言うとおり、井崎コロニーは臨時の給油基地として必要な条件を備えていた。


堀内少将から“魔女の食事”作戦の指揮官に任命されたR38基地副司令官・清水大佐が、司令部テントに入ってきた。清水大佐は、戦略ロケット軍の正規戦闘服を着て、腰にはMP-443拳銃を収めたホルスターを下げていた。

堀内少将は、清水大佐を目に止めると「いいときに来てくれました。清水大佐。今夜、星川が攻めてきます。輸送機の離陸0000時で“魔女の食事”を発動します」と言って清水大佐を見た。

「やはり今日ですか。準備はできています。計画に変更はありますか?」清水大佐は冷静だった。

「いえ、変更はありません。清水大佐、頼みます」堀内少将は、軽く頭を下げた。

「了解しました」清水大佐はそう言うと、青木中佐に顔を向けた。

「三好少尉は、なかなかの若者ですな。いろいろ話をさせてもらいました」

三好少尉は、“魔女の食事”に派出される第331親衛パラシュート降下連隊第1大隊第1中隊第1小隊長のことである。

「そうでしたか。三好は、早くに両親を亡くして苦労したので、しっかりしているのだと思います。三好をよろしくお願いします」青木中佐は頭を下げた。

「そうでしたか。三好少尉と、あなたの小隊をお預かりします」清水大佐も頭を下げて続けた。「0000時離陸でしたら、もう1回図上演習ができますな。それでは司令官、皆に知らせてまいります」清水大佐は、そう言うと司令部テントを出て行った。

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