その20

江浦湾 沼津駅南南東約7.1キロメートル

香貫公国海軍 第1太平洋艦隊 原子力攻撃型潜水艦 <ペトロザヴォーツク>(B-388)


年老いた671RTMK型潜水艦(KEITO(京浜条約機構)コードネーム:ヴィクターⅢ型潜水艦)<ペトロザヴォーツク>は、穏やかな江浦湾をゆっくりと西に向けて航行していた。

浮上航行する<ペトロザヴォーツク>のセイルで、艦長・北堀中佐は思った。「江浦湾はいい海だ。陸で落ち込んだ気持ちを癒してくれる」 江浦湾を吹く潮風も穏やかで、北堀中佐を優しく包んでいた。まだ暗い夜明け前の時間でなければ、緑豊かな山、温かい青色をした海、そして静かな漁村。たとえ真冬でも寂しさを感じない海辺の風景が見られたのに残念だ……出港がこんな時間になった理由は、度重なる機材の故障と事故によって遅れたからだった。ただ、これらは<ペトロザヴォーツク>の故障や事故ではなかった。

当初、第1太平洋艦隊司令官は、出港可能な潜水艦3隻に対して鈴川を機雷で封鎖する命令を発令した。だが、そのうちの2隻、新しい971型潜水艦(KEITOコードネーム:アクラ型潜水艦)は出港できず、古い<ペトロザヴォーツク>ただ1隻が出港したのである。

出港できなかった971型潜水艦の1隻は、命令を受けたとき訓練航海中であった。反転して全速力で江浦基地に戻る途中、原子炉の2次冷却水を循環させるポンプが故障した。ポンプが故障した原因は、軸受けを支えるボールベアリングのボールに品質不良があったからである。その品質不良のボールが全速力の荷重に耐えられずに破壊したのである。

ベアリング破壊により瞬間的に停止したポンプの衝撃は、ポンプ自身やポンプを支える台座が変形しただけに止まらず、2次冷却水の配管にも亀裂を生じさせることになり、配管内の冷却水が漏れだした。幸いなことに漏れた冷却水は放射能に汚染されていない“きれいな”2次冷却水であったため、ポンプや配管を交換すれば任務に復帰できる。だが、今回の任務には間に合わなかった。

もう1隻の971型潜水艦は、江浦基地の潜水艦桟橋で発生した事故によって出港できなくなった。機雷封鎖に使う機雷を搭載するためには、そのスペースを確保するために魚雷の一部を陸上に下ろさなければならない。

狭い艦内と小さなハッチを通して発射管室にある魚雷を引き出すことになるのだが、少しでも引き出す角度が狂えば魚雷と船体が接触して双方が傷ついてしまう。幾度となく行っている慣れた作業だが慎重に行う必要があった。この潜水艦の乗組員にとっても慣れた作業であったが、急ぐあまりクレーンの操作を誤り、引き抜いた魚雷を落下させ潜水艦の耐圧ハッチを傷つけてしまった。傷ついた耐圧ハッチでは潜航中の水圧に耐えられないため修理が必要になり、この潜水艦も今回の任務には使えなくなった。

とばっちりを受けたのが<ペトロザヴォーツク>だった。度重なる故障や事故によって、そのたびに機雷を敷設する場所が追加となり、搭載する機雷の量が増え、その代わり魚雷が減っていった。魚雷庫から魚雷が減って喜ぶ艦長などいないが、北堀中佐が落ち込んだ理由はほかにあった。

第1太平洋艦隊司令部は、任務に充てる潜水艦が減っても代わりの潜水艦を充当せず、出港できない潜水艦が敷設する予定だった機雷を全て<ペトロザヴォーツク>に押し付けた。行き当たりばったりの作戦を不信に思った北堀中佐は、機雷搭載の合間を縫って第1太平洋艦隊司令部第2局(情報担当)に勤務する同期の幕僚を訪ねた。そこで聞いた話は北堀中佐の士気を削ぐに十分な内容だった。


「機雷敷設の目的は知らされているだろう?」同期の幕僚は言った。

「知っている。なんでも伊勢原に造ったミサイル基地を星川の海兵隊から守るためだろう。作戦命令にも書かれていた。バカなことをしたもんだ。あんなところに核ミサイルを配備して基地をどうやって守る気でいるのだ?」北堀中佐は、同期の幕僚から熱い紅茶の入ったカップを受け取りながら言った。

「お前の言うとおり基地の防御は最初から課題だった。だから極秘裏に基地の建設を進めていた。それが不幸なことに星川と酒匂の両方に発見されてしまった。詳しくは言えないが、基地防御の件については複数の基地を建設して連携して防御する計画が進行中だ」

「戦略ロケット軍が基地でも造ろうと言い出したんじゃないのか。えれぇ迷惑だ!」

「少し違う。あそこは永野公が発案した基地だ。ただ、最初、陸軍と空軍は適当にお茶を濁すつもりだったのだが、戦略ロケット軍司令官が立ち回って、今では新しい軍管区まで作る壮大な構想になっている。その軍管区司令官は戦略ロケット軍から出すというおまけ付きでな。そういった意味では、お前が言うとおり戦略ロケット軍が基地を作ったとも言える。だから、基地が発見された後の対応についても、海軍総司令部は関係ないと考えていた。ところが今回の件を報告する御前会議で、永野公は海軍の対応をご下問された。高みの見物と決め込んでいたうちらの海軍総司令官殿は、とっさに鈴川を機雷で封鎖して海兵隊の侵入を蹴散らしますと答えた。それが今回の任務の発端だ」

「そんなことでか!」北堀中佐は、こぶしで膝を叩いた。

「経緯はどうあれ命令は出された。問題はだな、今回の件は作戦の細部にいたるまで海軍総司令部が計画していることだ。機雷を敷設する日時や場所だけでなく、機雷の設定諸元や航法計画まで海軍総司令部が決めてきた。お前に対する作戦計画も形式上は第1太平洋艦隊司令官からのものとなっているが、内容は一字一句海軍総司令官から第1太平洋艦隊司令官へのものと変わりない。出撃できるのはお前の艦だけになった時も海軍総司令部が計画を修正してきた。もちろん第1局(第1太平洋艦隊司令部作戦担当)は海軍総司令部に計画の修正を求めようとしたのだが、うちの参謀長に止められた」そこまでいった同期の幕僚は、北堀中佐に顔を近づけ、声を落として続けた。

「話は変わるが、31師団(第31潜水艦師団:香貫海軍のすべての戦略核ロケット搭載潜水艦が所属する部隊)で、出港中の艦は何隻あるか知っているか。ゼロだ。ゼロ。1隻を除いてすべて何らかの不具合で修理中だ。唯一故障していない1隻は、お前も噂では聞いていると思うが下士官兵を中心に艦内で反乱がおきた。噂は本当なのさ。だから乗員の入れ替えをやっている最中だ。こんな状況で機雷敷設に向かう潜水艦3隻中2隻が不具合で出港できませんとは言えないだろ」

「何でもかんでも動ける艦にすべてを押し付けるから悪いんだろ。反乱が起きても不思議には思わんね。そんなことでは伊勢原にミサイル基地を作ったから動けない31師団なんか要らないと言われかねんぞ」

「海軍総司令部の関心事も戦略ロケット潜水艦の存続だ。あとな、海軍総司令部はうちら司令部の指導力に疑問を持っているようなんだ。だから政治的に微妙な今回の作戦を細かいところまで決めて命令してきた。政治的に微妙な作戦を自分たちで計画しないですんだと考えているうちの司令官も司令官なんだが、司令部の上層部も責任逃れするやつばかりだ。指導力に疑問を持たれてもしかたねぇけんど、そのツケは末端の部隊が払うことになる。今回はお前の潜水艦だ。お前が不始末のツケを払う必要なんかないぞ。何かあればすぐに戻ってこい。いいな! お前には、今建造中の955(ヤーセン級最新鋭多用途原子力潜水艦)を任せようという話もあるんだ。わかったな!」


「何かあればすぐに戻ってこい」か、それも選択肢の一つかもしれん。そう考えた艦長・北堀中佐が、ふと横を向くと目の隅に副長格の政治将校・峰尾中佐をとらえた。峰尾中佐はセイルで見張りをするふりをして、双眼鏡で夜景を眺めていた。私が命令に反して帰投を決断したら、この政治将校は何と言うだろう。

まあいいさ。この作戦の発端がいかに馬鹿げたものでも任務を途中であきらめる気は毛頭ない。そう考える士官だからこそ、香貫にとって貴重な戦力である潜水艦の指揮を任されているんだ。江浦湾が北堀中佐の気持ちを前向きに変えた。

「0時方向、航法灯」見張り員が報告する方向に目を向けた北堀中佐も航法灯を確認した。あの航法灯は、発令所のレーダー員が先ほどから報告してくる1124型哨戒艦(KEITOコードネーム:グリシャ級哨戒艦)のものに違いない。もっともこんな時間にあんな場所にいる艦船はKGB(香貫国家保安委員会)国境警備局の1124型哨戒艦くらいなもんだ。レーダー員の報告がなくてもわかる。

北堀中佐は知っていた。KGB国境警備局の1124型哨戒艦が何を監視しているのかを。KGB国境警備局は、建前では外敵の侵入を監視することになっているが、第1の任務は軍の行動を監視して報告することなのである。こそこそと嗅ぎまわるスパイ野郎め。海軍軍人としての誇りを持つ北堀中佐にとって、そんなKGB国境警備局を受け入れることは到底できなかった。

あいつらも我々をレーダーで確認しているはずだ。よし! 少しあいつらを驚かせてやろう。出港してから最初の潜航で、こんなことをするのは危険だが、少しは気分も晴れるだろう。それに乗員の訓練にもなって一石二鳥だ。そう考えた北堀中佐はセイルにある防水マイクを手にとった。「急速潜航! 急げ!」

突然の潜航命令で蜂の巣をつついたような騒ぎとなったセイルで、KGB国境警備局の1124型哨戒艦を一瞥した北堀中佐は、艦内に通じる梯子をほとんど滑るように降りて行った。突然この艦がレーダーから消えたら、あいつらも驚くだろう。北堀中佐は、滑り降りながら口の右側を上げて笑った。




中村川 二宮駅西南西約2キロメートル

酒匂王国連邦海軍 橘海軍基地

酒匂王国連邦海軍 第6艦隊 通常動力型潜水艦<そうりゅう>(SS501)

酒匂王国連邦 橘コロニー


<そうりゅう>は、相模川で星川海軍の空母<カール・ビンソン>をやり過ごした後、漁船の出港時間に合わせて相模川河口を通過した。

漁船の騒音に隠れて相模川河口を通過した<そうりゅう>は、幸運に恵まれた。前日相模川上流で降った雨によって下流の水量が増していたのである。増水した相模川の水が河口周辺の海水を広くかき回してくれたおかげで、いつもしつこい星川海軍P-8A対潜哨戒機の監視をやすやすとすり抜け、予定よりも早く橘海軍基地に到着できた。


橘海軍基地のある橘コロニーは小さく古く、そして寂れたコロニーだった。

橘コロニーの建設当初は平塚と酒匂を結ぶ物流の中継地点として発展が期待された。だが、その平塚は星川との領有権争いによって開発が進まなかった。橘コロニーの発展のカギとなる平塚がこの調子では、にっちもさっちもいかない。橘コロニーの発展を期待して進出した企業や人は見切りをつけて橘コロニーを去っていった。

さらに、日本国で問題となっている地方都市の衰退は「スクナビ」世界でも同じで、小さな地方コロニーである橘コロニーも人口流出を止めることはできなかった。この状況を改善しようと古い町並みを撤去して再開発を行ったが、酒匂方面との交通手段が未整備であったため、これも失敗した。

歴史を感じさせる古い町並みが撤去されずに残っていれば、西湘の海と古い町並みによって観光コロニーを目指すこともできたはずだった。だが、それに気づいたときにはすでに遅かった。

このような橘コロニーに目をつけたのが軍だった。新兵器を人目にさらすことなく開発したい軍にとって、インフラが整い人口の少ない橘コロニーは絶好の場所だった。酒匂の軍人でも兵器の開発に携わらなければ訪れることのない基地。それが橘海軍基地だった。


<そうりゅう>のセイルに立つ艦長・高原中佐にとっても、橘海軍基地は初めて訪れる基地だった。

補修の跡がいたる所に残る古い船舶エレベータを昇ると、狭い港内の正面に貨物埠頭があった。そして、その左奥に海軍専用の桟橋が2本設置されていた。<そうりゅう>は、ゆっくりと慎重に桟橋に向かい、最後は曳船の支援を得て2番桟橋にもやいを結んだ。第6艦隊司令部が予想していたよりも早い入港だった。


「機械、舵よろしい」セイルに立つ高原中佐のもとに副長・新井少佐が駆け上ってきた。高原中佐は振り向きながら手を挙げて、了解したことを無言で告げた。そして高原中佐は、これまで見ていた隣の桟橋に視線を戻した。その視線の先には巨大な潜水空母、<伊400>が係留されていた。

「偉大なもんだ」高原中佐はボソリとつぶやいた。「偉大、ですか?」新井少佐も高原中佐の横に並んで<伊400>を見つめた。

「潜水空母なんて誰でも考えつくが、それを形にするのは難しい。大変な苦労があったのだろうな。それを酒匂の先人は成し遂げた。たった3機とはいえ攻撃機を積んで潜れるのだぞ。すごいもんだ。もっとも今では攻撃機を搭載することはないらしい。いろいろな極秘の試験に従事しているとのうわさだ」話す高原中佐の目は<伊400>から離れなかった。

「そのうわさは私も聞いたことがあります……いやー、しかしデカいですな。初めて<伊400>を見ました。」

「星川のような大国にとっては無用の長物だな。巨大な空母艦隊を持つ星川が、こそこそと隠れる必要はない。力で押せるだけの数を揃えている。だが、それには弱点もある。そこを突くために造られたのが<伊400>だったということだ」

「弱点ですか?」新井少佐は意味が分からず聞き直した。

「そうだ。弱点だ。後でよく考えてみることだ。要は、数で劣る我々が星川と同じ土俵で戦ってはならないということだ」高原中佐は、新井少佐の肩をポンとたたいて発令所に降りるハッチに向かった。

「艦長! 間もなく迎えの車両が来ます」

「そうだったな。ありがとう。後は頼んだぞ」そう言った高原中佐は、思い出したように振り向いた「相模川を出るときの副長のリコメンドは適切だったぞ。<カール・ビンソン>の動きも副長の予測どおりだったな」そういって高原中佐は、発令所に降りていった。




中村川 二宮駅西南西約2キロメートル

酒匂王国連邦 橘海軍基地開発隊群橘試験所

酒匂王国連邦 橘コロニー


高原中佐を乗せた車両は、開発隊群橘試験所庁舎の玄関に着いた。玄関では当直士官の大尉が出迎えて、車両から降りた高原中佐を地下の会議室に案内した。

会議室のドアの前で立ち止まった当直士官は「こちらが6艦隊の臨時司令部です。お入りください」といって自身は会議室に入らず立ち去った。

高原中佐は会議室に入った。その会議室は、もともと何の備品も設置されていなかったらしく、部屋の中央に大きなテーブルが並べられ、その上に数台のコンピュータと電話が載せられただけの殺風景な部屋だった。

そこでは、3人の第6艦隊司令部幕僚がコンピュータに向かって仕事をしていた。

ドアの開く音で3人の幕僚はキーボードを叩く手を止めて振り向いた。その中の一人、3人の中の先任者である第6艦隊司令部作戦主任幕僚・細島大佐が声をかけた。「おう! 来たか。出迎えもせずに申し訳ない。ちょっと待ってくれ。報告書を終わらせてしまうから。我々も来たばかりなんでな。そこの椅子にでも掛けていてくれ」細島大佐は、そういって再びキーボードを叩きだした。以前同じ潜水艦で勤務したことがあり、気心の知れた二人だった。

数分後、「よし、終わった。待たせて悪かったな。ところで高原、1番桟橋に係留されている<伊400>は見たか?」報告書の作成を終えた細島大佐が言った。

「ええ見ました。でかいですね……急に私の艦がここに入港を命じられたことと<伊400>には関係があるんですか?」

「ある。お前は、あのデカい潜水艦を護衛することになる。その前に、これまでの経緯を説明した方がいいな」細島大佐はそういって香貫のミサイル基地と、星川との共同作戦について説明した。

<カール・ビンソン>の動きが慌ただしかったのはそのためだったのか。合点がいった高原中佐は何度も頷いた。

「ただ、核弾頭を奪う陸軍の計画は二転三転していまだに決まっていない。星川との合同司令部が今日の夕方に設置されるから計画はそれからだ。」

「じゃあ、我々がお役御免になる可能性もある?」

「それはないと軍令部はいっている。なんでもほとんどの輸送機が真鶴方面に駆り出されている。なんとか輸送機を確保できたとしても、空軍は重量物を空中投下する装置を持っていない。そこで白羽の矢が立ったのが<伊400>というわけだ。大名行列のように輸送艦を連ねて行くわけにはいかんからな。」


<そうりゅう>も着いたぞ! 軍令部は何かいってきたか」白髪混じりの髭をたくわえて、いまでは廃止となった旧型の士官用作業服を着た、がっしりとした体格の男が会議室に入ってきた。<伊400>艦長・沢地大佐である。

「軍令部からは何の音沙汰もありません」細島大佐は、ぶしつけな人だと思いながらも年上の沢地大佐の質問に答えて続けた。「ちょうどいい時に来られました。<そうりゅう>艦長が来ています」といって高原中佐を見た。

沢地大佐は、細島大佐の視線の先にいる高原中佐を値踏みするように見ると、髭をなでながら言った。「君が、あの新品の栄えある初代艦長か?」

「そうりゅう艦長、高原です」まさかこんなところで生きた化石に出会うとは思わなかった。この人の潜水艦を護衛するのは骨が折れそうだ。高原はそう思った。

「君がわしの艦を護衛するのか。最新鋭だからといって油断していると、逆にわしが君を護衛することになるぞ! ところで君は、わしの艦のことをどのくらい知っているのかな? 時代遅れの潜水艦なんぞに興味はないか」

「正直に申しますと何も知りません。新しい装備の試験報告に<伊400>の名前が出てくる度に、どのように試験に関与したのかと思ったことはありますが、その程度です」

「ふん、そんなもんだろ。だが、わしは君の艦のことをよく知っておるぞ。新しい装備のほとんどは、わしの艦で試験したものだ。AIP(非大気依存推進)も、君の艦に装備するずっと以前からわしの艦に装備して評価を続けてきた」

だから私に何をしてほしいのだ! 返事に困った高原中佐が何をいうべきか考えていると、高原中佐の気持ちを察したかのように沢地大佐が話を続けた。「君が本気でわしの艦を護衛する気があるのなら、護衛対象をよく知る必要があるとは思わんか?」

そういうことか! 単に古いだけの艦ではない。そのことを見せびらかしたいんだ。この人は。だが、沢地大佐の言葉にも一理ある。護衛対象の能力を知っていれば、それに応じた適切な行動が可能になるだろう。それに、あの巨大な潜水空母にも興味がある。見に行ってみるか。高原中佐は、そう思って細島大佐を見た。

「軍令部から作戦計画の原案が来るのは、早くても明日の夜だ。時間はあるぞ」細島大佐は言った。

よし、決めた。「お伺いします」といって高原中佐は頭を下げた。

「よかろう。来るときは航海長と水雷長も連れてこい。あと、先任クラスの下士官もな。一通り艦内を説明したら、わしの艦で昼メシでも食おう。いろいろ相談したいこともある」そう言った沢地大佐は、視線を細島大佐に向けた。「昼メシにはお前ら3人も来い。基地のまずいメシより艦のメシの方がずっとうまいぞ」話す沢地大佐の態度は高飛車だった。

こんな人が指揮する艦と組んで任務が達成できるのだろうか? 細島大佐と高原中佐はお互いに顔を見合わせてそう思った。

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