その9
金目川上流 平塚駅北西約2キロメートル
酒匂王国連邦海軍 第1航空艦隊第5航空戦隊 空母<瑞鶴>
「やはり、SS-27です。“シックルB”です……ですが……王子! 無茶なことはおやめください。入り口にも9K35ありました。修理中のようでしたのでミサイルを撃ってこなかっただけです。」北川少尉がモニターを見ながら言った。
「考慮しよう」大貫艦長と平岡飛行隊以外から注意されたことのない出雲少佐は戸惑いながら答えた。
「考慮ではありません! 約束してください。」北川少尉は本気で王子を心配していた。
「約束する。すまなかった。」
「申し訳ありません。言い過ぎました」北川少尉は立ち上がって出雲少佐に謝った。
「いや、いいんだ。これからも注意してくれ。私たちは友人だ」
二人の会話を聞いていた大貫艦長と平岡飛行長は顔を見合わせてほほ笑んだ。王子にも良い友人ができたようだ。
「なにはともあれ相手は核兵器だ。我々だけで対処を判断できない……王子、軍令部への報告をお願いしてもよいですか?」大貫艦長が言った。
「わかりました」出雲少佐は答えた。
「私もお供してかまいませんか?」北川少尉が話しに割り込んだ。
「最初からそのつもりだが、どうかしたのか?」懸念の表情をうかべる北川少尉に出雲少佐が言った。
「はい。詳しい分析は終わっていませんが……何か重要なことを忘れていると思います。私の気が付かない何かがあります。情報部の専門官と話しをさせてください」北川少尉は首をかしげた。
真っ暗な金目川の中央部を<瑞鶴>機動部隊が最大戦速で南下していた。香貫軍からの反撃を避けるためである。
闇夜に紛れて航行する<瑞鶴>機動部隊は、川の流れと追い風が重なって、急速に発着艦地点から離脱していた。川近くにある街灯の光が水面に反射しているところを通過する時だけ、機動部隊のシルエットが浮かんで見える。
その<瑞鶴>の艦橋から護衛艦に向けて発光信号が送られた。「ハツ、ズイカク、アテ、カクカンチヨウ、ハツカンニソナエヨ、ハツカンヨテイ2005、ミギハンテン」(発:瑞鶴艦長 宛:機動部隊各艦長 発艦に備えよ。発艦予定時刻20時05分。右回頭して発艦進路に向ける)
<瑞鶴>のフライト・デッキが薄暗いオレンジ色の光に染められた。艦橋の横に駐機していたSH-60K哨戒ヘリコプターとAEW.7早期警戒ヘリコプターが牽引車によって後方に移動された。
フライト・デッキの前方では前部エレベータが下ろされた。チリンチリン……チリンチリン、エレベータ作動中の警報音が艦内に鳴り響く。3年の歳月をかけた近代化改修によって、まさに生まれ変わった<瑞鶴>であったが、エレベータ警報音など近代化の必要がない箇所は、あえて従来の方式が踏襲されていた。
前部エレベータは、2往復して格納庫にあった出雲少佐の「紫電改2」”竜神01”と北川少尉を西酒匂に送る彩雲“孤虎03”をフライト・デッキに揚げた。
発艦する航空機がフライト・デッキに揃ったところで、<瑞鶴>の艦橋から再び発光信号が送られた。「ミギハンテン、ハツドウヨウイ……ハツドウ(右反転、発動用意……発動)」
「航海長! 反転の時間だ」艦長席から大貫艦長が命じた。
真っ暗な艦橋に航海長の号令が響いた。「面舵いっぱい! 右前進微速、左前進原速!」
<瑞鶴>は左に傾きながら上流に向けて回頭をはじめた。航海長は、川幅が狭いため舵だけでなく左右の推進力の差も使って<瑞鶴>を回頭させた。追い風が向かい風に変わり、フライト・デッキを前後に貫く中心線指示灯も点灯された。
後部スポットに駐機していたSH-60KとAEW.7は同時にエンジンを始動した。最初に救難任務のために空中待機するSH-60Kが飛び立った。続いて機体の右側に巨大な対空レーダーを抱えたAEW.7が飛び立った。AEW.7の任務はレーダーによる対空警戒と”竜神01”の安全を見守ることである。
“竜神01”と“孤虎03”も同時にエンジンを始動した。
出雲少佐は”竜神01”をカタパルトに導いていった。<瑞鶴>は近代化改修によって待望のカタパルトが装備されていた。夜間や艦が激しく動揺しているときにカタパルト発艦することによって発艦時の事故が大幅に減少した。以来、夜間発艦はカタパルト使用が原則となっている。
とはいえ、カタパルト発艦には十分な訓練が必要である。正確にカタパルト射出位置で機体を停止させることは意外と難しいのである。四隅にタイヤが付いた自動車でも、一発で駐車場に止めるには神経を使う。紫電改など尾輪式の航空機は、飛んでいない時は機首が上を向き前方視界が極端に制限される。まっすぐに走らせることも難しい。誘導員による指示があるといっても高い集中力が要求される。
無事に定位置で停止させた出雲少佐がホッとするのもつかの間、カタパルト要員によって機体とカタパルトが接続された。
射出指揮官が出力を上げろと指示してきた。出雲少佐はスロットルを最前方に押し出して出力を上げた。計器の指示に異常がないことを確認した出雲少佐は航法灯を点灯させた。発艦準備が整った合図である。
出雲少佐は真っ暗な金目川に投げ出された。最大出力で”竜神01”を上昇させた出雲少佐は、<瑞鶴>上空で“孤虎03”の発艦を待った。
合流した2機は西酒匂海軍航空基地に向かって飛び去った。
小出川 香川駅南西約1.5キロメートル
星川合衆国海軍 CSG3(第3空母打撃群)原子力航空母艦<カール・ビンソン>(CVN-70)
CVIC(空母情報センター)にCSG3の主要幹部が集まっていた。
CSG3副司令、岡部准将がTEL(弾道ミサイル輸送起立発射機)の写真を手にとった。「横山! 核ミサイルに間違いないのか?」
「これだけのデータが揃っているんです。間違えようがありません……問題は核弾頭がどこにあるのかということです」
「核弾頭はどこにいったのだ? そもそも何で核弾頭を外すんだ」<カール・ビンソン>艦長・大辻大佐が電話を取りながら疑問を口にした。
「撃つ前に、目標とするコロニーの大きさに合わせて弾頭の大きさを変えるんですよ。そうしないとダイダラに被害が及びますからね。ダイダラのICBMとは運用方法がまったく違います。香貫は、何でこんな使い勝手の悪い兵器を使うんですかね。それはそれとして、WESTCOMのJ-2部(西方軍司令部情報幕僚部)は、ここに核弾頭が搬入された証拠を握っているようです。詳しくは教えてくれませんでしたが……私は南側の部屋に搬入されたと思います。南側の部屋には2本のスロープが通っています。1本は建設中ですが、勾配の急なもう1本のスロープには多くの車両が通行した跡があります。核弾頭はここですね!」横山少佐は写真の右端に写った南側の部屋を指で叩いた。
「核を確実に除去するには核を奪わねばならない……いずれにしろ我々にできることは限られている。支援攻撃と航空偵察くらいだな。CAG、ほかにできることはあるか?」
「大将を呼んでもかまいませんか?」
「大将? ……誰だ?」
「シールズ分遣隊長(SEALs:星川海軍特殊戦部隊)の島崎大尉です」
加藤中佐と島崎大尉の出会いは6年前であった。VF-2(第2戦闘飛行隊)飛行隊長に昇進した加藤中佐のもとに、島崎少尉が新任の航空機整備士官として着任した。島崎少尉は着任の申告で、翌月に実施されるシールズの入隊試験を受けると言った。
加藤中佐は、なぜ転属が決まる前に報告しないんだ。よりにもよって転属先の指揮官に始めて会うその場で報告するとは! と思ったが本人の希望ということもあり加藤中佐は島崎少尉を励まして送り出した。
……だが2か月後、島崎少尉は戻ってきた。
シールズの選抜試験となっている基礎訓練課程の4週目に「ヘル・ウイーク(地獄週間)」と呼ばれる訓練が実施される。訓練生を体力と精神の限界まで追い込んで、極限での人間性を判断する訓練である。
島崎少尉は、この訓練で適正なしと判断された。訓練仲間が脱落しそうになっても手を貸さず、自分だけは合格するぞといった彼の性格が見抜かれた結果であった。
シールズの教官は彼が適正なしと判断された理由を説明したが、彼は聴く耳を持たなかった。能力の劣るやつらに足を引っ張られただけだ。4か月後に開始される次の基礎訓練課程まではVF-2でトレーニングしよう。彼はそう考えた。
VF-2にとって島崎少尉は迷惑な存在となった。業務や部下に興味を示さずトレーニングに明け暮れる彼を信頼する者は誰もいなかった。加藤中佐は何度も注意したが効き目はなかった。
1か月しても注意を聞き入れなければ転任させよう。任期満了前に転任させると彼の経歴に傷が付くかもしれないが、しょうがない。そんな時、加藤中佐のもとに島崎少尉が報告に訪れた。
「先月の航空機可動率を報告します」
「63パーセントか! 整備班も頑張ったからな」
「この数字で頑張っているのですか?」
「F-14の平均可動率より5パーセントも高い」
「隊長もあまいですね」
「島崎、航空機を飛ばすために整備員がどれだけ苦労しているか知っているのか? それに、部品供給の遅れや整備作業を考慮していない機体設計などは整備員の責任ではないぞ!」怒りを爆発させた加藤中佐は深呼吸して怒りを静めた。「毎日徹夜で作業している整備員を見ているだろ。それでも整備員が怠けていると思っているのか?」
「怠けているとは思いませんが、整備員の努力については改善する余地があると思います」
「そんなに言うなら、今日から毎日0200時から0230時の間、整備作業をしている整備員を観察しろ。これは指揮官から島崎少尉に対する命令だ! わかったか!」
「そんな無駄なことをする理由を教えてください!」
「理由? そんなものは自分で考えろ! ただ一つだけ言える事がある。いまの君では、シールズはいらないというだろう。それどころか海軍にもいらない。」
自分の能力を過信していた島崎少尉はショックを受けた。加藤中佐は情に厚い指揮官だと聞いていたのに、その加藤中佐からも要らないと言われた。俺の何が悪いんだ?
「確かに君は優秀だよ。だが大事な事を忘れている。それが何なのかは自分で考えろ。わからなければ海軍から叩き出す。わかったか!」
返事をしたものの島崎少尉には分けがわからなかった。俺の何が悪いんだ? 再度自分に問いかけた。
「とにかく毎日毎日夜中に作業している整備員の顔を見続けることだ。君なら必ずわかってくれると思う」
それ以来、島崎少尉は夜間の整備作業を見に行くことが日課となった。
夜間のフライト・オペレーションが終了してジェットエンジンの轟音がなくなった格納庫は、空母のエンジン音と発電機を回す低い音だけが聞こえる。つかの間の静寂が訪れた時間でも、明日のフライトに備えた整備員に休む時間はない。配管の奥にある部品を効率よく交換するコツを後輩に教えながら作業する先輩整備員。そのコツを必死で習得しようとする後輩整備員。どんなに小さな亀裂でも見逃さないぞ! と、目を皿のようにして機体の目視点検をする整備員
島崎少尉は考えた。優秀か優秀じゃないかが問題ではないんだ。一人一人が自分の役割を確実にこなす。そしてお互いを信頼する。結果的にチーム全体の力が高まる。これまでの島崎少尉では考えもしないことだった。
整備員も初めのころは「シールズに行きたいだけの野郎が、こんな夜中に何の用だ!」と思って敬礼する以外は無視していた。しかし島崎少尉は毎日毎日0200時にやってきた。我々が怠けないように監視しているのか? 最初はそう思っていた整備員も、どうやら違うようだと感じはじめた。
ある日、島崎少尉がいつものように整備員を見ていると若い整備員が話しかけてきた。「毎日大変ですね! 少尉!」
「あ あぁ! 毎日勉強させてもらっているよ。 遅くまでご苦労さん」島崎少尉は自分が驚くほど自然に相手を気遣う言葉を口にした。それに部下から声をかけられたのは今回が始めてであった。
若い整備員は機体の奥に頭を突っ込んで作業していたらしく髪の毛まで油まみれになっていた。油で汚れた作業服の名札には“小野崎”と書いてあった。名札を見つめる島崎少尉に気が付いた小野崎上等航空兵は自己紹介した「小野崎上等航空兵であります。少尉」
「小野崎君か! あの機体はよく故障するな」
「そうなんです。新型のF-14Dならこれほど苦労しないと聞いているのですが……明日のフライトまでには飛べるようにします」小野崎上等航空兵は敬礼してその場を立ち去った。
島崎少尉と部下の整備員は徐々に打ち解けていった。だが、島崎少尉がシールズ基礎訓練課程に再挑戦する前日に事故が発生した。
その日、島崎少尉とVF-2の整備員は、2機のF-14Aを発艦させるためにフライト・デッキ左後方にある第4エレベータ上で作業していた。第4エレベータのすぐ横は着艦エリアとなっていて、5本のワイヤーが着艦エリアを横切るように張られていた。
このワイヤーは“アレスティング・ワイヤー”と呼ばれている。航空機の後部下面に装備されたフックがアレスティング・ワイヤーを引っ掛けることによって急停止される。短い空母の着艦エリアでも航空機が安全に停止できるのは、このシステムのおかげである。
そのアレスティング・ワイヤーの横でVF-2の整備員がF-14Aの飛行前点検をしていると、重攻撃機A-6Eが着艦してきた。そのA-6Eがアレスティング・ワイヤーを引っ掛けたその瞬間、アレスティング・ワイヤーが切れてしまった。
直径約0.1ミリメートルのアレスティング・ワイヤーは獲物に跳びかかる蛇のように身をくねらせて島崎少尉とVF-2の整備員に迫った。まともに当たれば体が真っ二つになってしまう。第4エレベータ上にいた整備員や甲板員は一瞬凍りついたが、それぞれの方向に逃げだした。そんな中、一人の整備員が恐怖に凍り付いて動けなかった。それは小野崎上等航空兵であった。
あぶない!
島崎少尉は反射的に走り出して小野崎上等航空兵に飛びついた。二人は滑り止めコーティングされたデコボコのフライト・デッキに転がった。小野崎上等航空兵を守るように覆いかぶさった島崎少尉の右足にアレスティング・ワイヤーがぶち当たった。
島崎少尉は飛ばされて意識を失った。
……島崎少尉は意識を回復した。そこは空母艦内の病室だった。「そうか。俺は飛ばされたんだ……」起き上がろうとしたところで衛生兵に止められた。
「少尉! 安静にしてください。あなたは右足を骨折しています。」
「骨折! 俺には行かなければならない所がある。ここを出してくれ!」
「まだ骨折部分の腫れが引いていません。ギプスをつけるまで動くことはできません」
俺は骨折したのか! そうか! ……これではシールズの基礎訓練は無理だな! 島崎少尉は何が何でも行きたかったシールズの夢が絶たれたはずなのに不思議と悔しさはこみ上げてこなかった。それよりも小野崎は無事だったのか?
「他のけが人は?」島崎少尉は、衛生兵に聞いた。
「整備員が1名負傷しましたが軽い擦り傷だけだったので、もう復帰しました。あなただけです。」
そうか! 小野崎は無事だったのか。よかった。
しばらくすると、病室に小野崎上等航空兵が入ってきた。「少尉! 意識が回復されたのですね!」
「あぁ 大丈夫だ。小野崎は大丈夫か?」
「私は擦り剥いただけです……私のせいで少尉に怪我させてしまい……すみません」小野崎上等航空兵の目には涙がにじんでいた。
島崎少尉は思った。今の自分は大事な部下、大事な仲間を守れたことに誇りを感じている。今までシールズにこだわり、周りの人間を無能だと思って相手にしてこなかった自分がちっぽけに思える……これか! 隊長が言っていた大事なものって。人を思いやる気持ちというか何というか、うまく表現できないけれど……この気持ちだったんだ!
「私のせいでシールズに行けなくなりました。チーフが言ってました。少尉! 私なんかのために……」
士官の場合、シールズ基礎訓練課程の再挑戦は1回だけ許されている。ただし前回の訓練から半年以内という制限があった。骨折しては訓練に参加できない。島崎少尉の夢は絶たれた。
「小野崎! 気にするな。それより、俺が整備士官としてVF-2に残ってもいいか?」
「それは俺が許さん!」加藤中佐が病室に入ってきた。加藤中佐は、抗議しようと立ちかけた小野崎上等航空兵を制して1枚の紙を島崎少尉に渡した。その紙は海軍特殊戦コマンドからの通知であった。
BT
0708021545I
RESTRICTED(秘)
FM:COMMANDER NAVSPECWARCOM(発:星川海軍特殊戦コマンド司令官)
TO:COMSIXTHFLT(宛:第6艦隊司令官)
INFO:COMCAR AIRWING TWO、COMMANDER FIGHTER SQUADRON TWO(通報:第2空母航空団司令、第2戦闘飛行隊長)
通知第0708015号
SUBJ:訓練の許可(通知)//NO05531//
以下の者が訓練可能となった段階で基礎水中爆破訓練基礎訓練課程での訓練を許可する。
VF-2 海軍少尉 島崎 優一
BT
「ずいぶん弱気になったな。大将! お前らしくないぞ」
「隊長。これは……ありがとうございます」
「お前が自分で勝ち取ったものだ。」
加藤中佐は持てるコネをフル動員して島崎少尉の再挑戦を特殊戦コマンドに迫った。最初は特例を認めなかった特殊戦コマンドであったが、身を挺して部下の命を救った結果の負傷だという加藤中佐の説得により、島崎少尉の再挑戦を認めさせたのである。
「よかったっすね。少尉!」小野崎上等航空兵は自分のことのように喜んだ。
4か月後、“大将”島崎少尉はVF-2総員の見送りを受けて基礎訓練課程に向かった。
「シールズに核を奪わせるつもりか?」
「シールズでも、たった8名では無理です。シールズには、この基地を監視してもらおうと思います。問題はどこで監視するかです」
岡部准将は指揮下兵力の配置を確認した。「香貫も監視を強化するはずだ。航空機で監視場所まで送るのは危険だな。<カメハメハ>でシールズを送らせよう。問題はその先ということか」
攻撃型原子力潜水艦<カメハメハ>SSN-642はポセイドン型弾道ミサイル潜水艦として建造されたが、新型の「オハイオ」級弾道ミサイル潜水艦の増勢に伴ってシールズの作戦を支援するためのDDS(ドライ・デッキ・シェルター:シールズ隊員が艦の出入りに利用するエアロックとシールズ輸送用潜水艇の格納庫)を設置してシールズ支援潜水艦となった。
前方展開するCSG(空母打撃群)には突発事態に対応できるようにシールズ分遣隊と彼らを輸送する潜水艦が派遣されている。CSG3には退役寸前の<カメハメハ>が派遣されていた。
「はい。<カメハメハ>で香貫の基地近くに上陸することは問題ないと思います。問題は、そこから監視に適した場所まで移動して、見通しがきくように建物か木に登らなければならないことです。ちょっと、きついかな」
「お呼びですか? 加藤さん!」島崎大尉がCVICに入ってきた。
「大将。出番だぞ!」
「香貫のミサイル基地ですか?」
「察しがいいな。基地の監視をしてほしい。だが監視場所を設置するまでが大変だぞ。できるか?」加藤中佐は距離スケールが記載された航空写真を島崎大尉に手渡した。「この建物の2階部分にある滑走路を監視してほしい。現場までは<カメハメハ>で送る」
島崎大尉は受け取った写真と補足資料を鋭い目つきで見つめた。「監視するには、建物の北側と南側に監視所を作る必要がありますね、場所は、この木と、この木がよさそうです。ただ、2階部分を監視するには5メートルくらい木を登らなければなりません。それでも4時間くらいで登れます。ただ、香貫に発見されないように夜間に移動するしかありません。ですが……いけますよ。やります」
「ダイダラ」人なら5分で行ける場所でも、身長5ミリメートルの「スクナビ」人にとっては困難な道のりである。「スクナビ」にとって20メートルは7キロメートルとなり、5メートルの高さは1.8キロメートルとなる。身体が小さくなることで体重も軽くなり負担は軽減されているとはいえ、富士山五合目から山頂まで垂直に登るようなものである。
「期間はどのくらいになりそうですか?」
「約2週間。これ以上ならば交代要員を送る」
「他に聞いておきたいことはあるか?」岡部准将が島崎大尉の意思を確認した。
「ありません。副司令!」
「すぐに移動の準備にかかってくれ。注意を怠るなよ」岡部准将は島崎大尉に出撃を命じた。
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