第17話 インタビューウィズ……

 エグマリヌ王国星系第十一惑星街ハルデニア。ワープリングへと向かう航路から外れた場所に航行不能な宙域が存在している場所がある。大小様々な岩の塊が不規則な回転をしながら衝突を繰り返している危険宙域だ。


 その危険極まりない場所の只中にある小惑星の一つで、フルフェイスのヘルメットを被り、新スク水を身に纏った一人の女性が岩陰に身を潜めながら遠くに輝く恒星をぼんやりと眺めていた。


「私の命もあと少しか……」


 ヘルメットのバイザーに表示された各種データ。その中の一つ、生命が存続する為に最も必要である酸素量が、残り僅かである事を示していた。


「生まれて十七年。短い人生だったなぁ……」


 エグマリヌ王国星系の片田舎に生まれ、冒険者になるのを夢見てハルデニアへと、ほぼ家出同然に飛び出したのがつい二ヶ月前の事。その時にはこんな死に方をするなんて露程にも思ってはいなかった。


「恋したかった! 彼氏欲しかった! ピー(自主規制)もしたかったっ!」


 バタバタバタ。と、手足をバタつかせて一頻り暴れた後、グッタリと岩肌に身を預けた。


(パパ、ママ、お兄ちゃん。ゴメンね、もう会えないや……)


 目尻から零れた涙の一粒がヘルメットの中を漂う。


「ん……?」


 当初それは涙の一粒だと思っていた。絶望的な状況に泣きじゃくっていた頃の名残だと。しかしそれは見間違いであると彼女は気付く。バイザーに投影されていた各種データの中に小さく映るレーダー機能。それを拡大させると彼女の目から再び大量の涙が溢れ出た。


 ☆ ☆ ☆


「私が冒険者ギルドエグマリヌ支部支部長、エッダトゥ・ヘイ・ハーチであるっ!」


 筋骨隆々な五十代の男が声高々に名乗ると、騒ついていたホール内がシンと静まり返る。覇王色の覇気にも似たプレッシャーがホール内を覆った為である。


「皆の者、私の呼び掛けによく答えてくれたっ!」


 続いて放たれた言葉に、静まり返っていたホール内が騒がしくなる。強制的に呼んだのはお前だろうがっ! とか、俺達に死ねって言ってるのと同じだ! とかそんな怒号が随所から聞こえてくる。そんな罵詈雑言を涼やかに受け流してエッダトゥは話を続けた。


「軍事独裁主義のモヤシ共が全滅した話は皆聞いているだろう。その正体はずっと不明のままであったがつい先程、調査に向かわせた偵察艦よりそれが明らかになったとの報告があった!」


 誰もが知りたかった情報が得られるとあって、罵詈雑言はいつしか賞賛の声へと変わっていた。


「モヤシ共を食い散らかしたのは……コイツだっ!」


 パチン。と指を鳴らすのと同時に、ホール内に大小様々なモニターが現れて映像が流れ始めた。


『さあ、話して』


 撮影をしていると思しき男が手の平を差し出して、カメラに向かって座るセミロングで新スク水を身に纏った女の子に話して聞かせるように促した。


『え? あ、えっと……何を話せば?』


 突然カメラを向けられて、新スク水を着た女の子が困惑した様子で聞き返す。撮影している男はやれやれ。といった風にため息を吐いた。


『名前は?』

『あ、えっと。レイカ、です』

『歳は?』

『じゅ……十七です』

『スリーサイズは?』

『へっ?! え、えと……は、八十八。ご、五十七。は、八十……あの、これって言う必要あるんですか?』

『余計な事は考えなくていいから素直に答えて。カレシは居るの?』

『い、居ません』

『募集中って事だね?』

『は、はい……』

『それじゃあ、服を一枚脱いでみようか』


 顔を真っ赤に染めて俯き加減であった新スク水の女の子は弾かれたようにその顔を上げた。


『一枚って私コレしか着てな──』


 と、そこまで流れた所で、エッダトゥが映像を強制終了させた。そしてレイジはハッと気が付いた。


(コレ、エ◯ビデオのインタビューシーンと同じじゃねぇかっ!)


 某インタビューにソックリであった。


「おい、後でアイツを俺の元へ連れて来い」


 秘書に向かってそう言ったエッダトゥの顔は修羅と見紛う程に怒気に満ちていた。ちなみに、この一件でレイカには絶える事なくパーティーへの誘いが来る様になり、インタビュアーの男はエッダトゥにフルボッコにされた挙句、辺境へ左遷されたというのが後々の話である。


「真なる映像はコレだ」


 形相は修羅のままで再びパチンと指を鳴らすと、モニターには楕円に近い球形状の何かが映し出された。と同時にホール内の冒険者達が騒めき始める。


「あ、あれは……ゴブリンキングか!」

「ゴブリンキング!? アレが!?」


 誰ともなく発した言葉にレイジが反応する。ファンタジー作品で稀に登場するゴブリン達の王の面影はその何処にもなく、言われなければ絶対に気付く事は無いレベル。コレを見た瞬間、レイジと同じモノを連想するはずである。


(デス◯ターじゃねぇかっ!)


 パッと見、デスス◯ーである。


 直径約八十キロ。と、本家本元のデ◯スターよりは小さく(初代◯ススターは約百二十キロ)、完全な円形というよりは楕円に近い形状をしている。石材を磨き上げて鏡面処理を施した外壁はレーザー兵器による効果が薄く、実弾かもしくはそれに近い兵器でなければ傷一つ付ける事が出来ない所は本家とは違って攻略難度が上がっている。


 主砲はゴブリンジェネラルの主砲を五門束ねたスーパーゴブリンブラスター。射出されたその姿は、どこからどう見てもイゼ◯ローン要塞の雷神の槌トールハンマーである。その威力は惑星を易々と貫く事が可能。と、デスス◯ーやイゼル◯ーン要塞と遜色ない攻撃力を有している、収容艦艇約二万隻を誇る移動要塞である。


「アレと戦えとか冗談じゃないぜ!」


 冒険者の一人が声を上げると、周囲へと伝播して『そうだそうだ』の大合唱が始まる。スーツ姿に蝶ネクタイ。と、身なりが統一されたギルド員と思しき人物達が慌てて諌めていたが、非難轟々の的となっているエッダトゥは涼し気な表情で立っていた。


「案ずるな。この私も共に征くのだ」


 一言。そのたった一言でホール内が静まり返った。


「エグマリヌ国王陛下の直接の依頼により、この私が陣頭に立つっ!」


 エッダトゥが言い切ると、今度は随所で喝采が起こる。


「支部長が出るとなれば心強いがな……」

「あの、支部長さんてそんなにお強いんですか?」


 冒険者達が沸き立つ理由がサッパリと分からないレイジはチャッピーに聞く。その問いにマナが代わりに応えた。


「軍の戦艦を見たでしょ?」

「ええ、見ました」

「あれが十万隻あると思ってくれればいいわ」

「じゅ、十万ですか……」


 宇宙空間にズラリと並ぶ十万の戦艦。その戦力が一つの船に集約されている事を思うと、どれほど強いか容易に想像できる。


「それでも勝てるかどうかは微妙な所だな」

「十万隻分の戦力があってもですか?」

「ああ。キングの戦力はおおよそで十四万。AやB級は居らずC級が三組。残りはDとEばかり。ちとキビシイぜ」


 俯き加減で頭をバリバリと掻くチャッピー。せめてB級が二、三組居れば。とボヤいた。


「A級冒険者さんに助けを求めては?」

「そんなのギルドがとっくにやっているわよ」

「まあ、そうだな。支部長が出るって事は、A級もすぐには来れない場所に居るって事だ。そうなると、作戦内容は時間稼ぎになるのが濃厚だな」

「そうね。討伐じゃなく、A級到着までの時間稼ぎなら幾らでもやりようはあるわ」

「それでも相当犠牲が出る事になるだろうがな……」


 その犠牲者の中に自分達やマナ達が含まれない事を祈るしかない。


「弱点とか、ないですかね?」

「弱点ねぇ……」


 再び俯いて頭を掻くチャッピー。


「例えば、排気ダクトから内部に侵入して動力炉を叩く。とか」


 初代デス○ターはその排気ダクトに魚雷を打ち込まれて塵と化し、二代目のデ○スターも戦闘機によって内部の動力炉を破壊されて崩壊した。名称はゴブリンキング。と、ファンタジックな名前が付いてはいるが、どこからどう見ても動力で動いてるとしか思えないメカニカルな姿に、その作戦が使えないかとレイジは思っていた。


「排気ダクト……あるにはあるんだが……」

「それは何処に?」

「主砲のど真ん中よ」

「……へ?」

「ど・ま・ん・な・か」

「ああ。主砲のど真ん中にある」

「マジですか!」


 スーパーゴブリンブラスターは等間隔で円形状に並ぶゴブリンブラスターを排気ダクト直上で収束させて打ち出す兵器である。収束された同質のエネルギーは相乗効果によって増幅され、合わせれば合わせる程にその威力は天文学的に跳ね上がるのだ。


「B級盾航艦じゅんこうかんですらヤバイ兵器だからな、オレ達程度なら消滅は確定だ」

「そりゃぁ、ヤバイっスね……」


 最強の盾持つ自分達の船ならイケるかもしれないと思っていたレイジ。ジェネラルの砲撃を受け止める事が出来る盾役タンクも沈むと聞いてその強さにようやく気が付いた。



 エッダトゥの背後に巨大なスクリーンモニターが現れる。そこにはエグマリヌの星系図と各惑星の現在位置が示されていた。


「ハルデニアを破壊したゴブリンキングは、現在この辺りに居ると思われる」


 星図に矢印が示される。その位置は二つ程の惑星公転軌道を通過した場所だ。


「幸いにも、ヤツはワープが使えない。故に、我々の計算では八日後にエグマリヌへと到達する見込みである。そこで──」


 エッダトゥがパチンと指を鳴らすと、惑星公転軌道を示す線の上に青色のマーカーが表示された。


「この第四惑星軌道上にてヤツを叩く! 決戦は六日後の予定だ。各々装備を整え次第集結せよ!」

「「「おおおっ!」」」


 冒険者達の敢闘精神が声となりホールの壁が崩れるかと思える程に響き渡る。エッダトゥに当てられていたスポットライトが消えると同時に、各冒険者達は踵を返してそれぞれの準備に入ったのだった。

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