第14話 自然の力
全ての用事を終えたマナ達が船を係留している第二十四番係船場へと戻ると、著名なイラストレーターが描いた様なカッコイイ宇宙船がソコに存在していた。その船を、顎髭を弄りながら眺めている一人の男。歳は四十代といった所で、小太りのオッサンだ。男の側には切り倒された大木が転がっている。
「見違えたわね」
「おう、あんたか。見ての通り、中々にイイデザインしているぜ。ここいらじゃ見掛けないデザインだが、どこの船なんだい?」
「知らないわ」
「おいおい、あんたの船なんだろ? どこで製造されたかくらい分かってるんじゃねぇのか?」
「古い遺跡で見付けたのよ。どこで造られたのかも分からないわ」
「遺跡ねぇ……もしかしたら古代人の船かもしれねぇな」
「古代人って。あれってタダのお伽噺でしょう?」
そのお伽噺とは、遥か昔このミズガルズ銀河が出来たばかりの頃の事だ。暗黒雲で閉ざされていたこの銀河系にやって来た古代人達は、暗黒雲を振り払ってこの地に文明を築いたのだという。その種族は、人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、そして魔族であったと伝えられている神話である。
「いやぁ、それがよ。どうやらそうとも言えねぇみてぇなんだ」
「どういう事?」
「噂によるとどうもな、相当古い時代の遺跡が見つかったらしいぜ?」
「遺跡……」
マナはこの船を見付けた遺跡を思い出していた。あの時はゴブリンに追われていて自分達の身を守るのに精一杯だったが、踏みしめていた床は石なの金属なのかも分からない材質で柱などもハンドブラスター程度では傷一つ付けられなかった気がしていた。
「で、その遺跡って何処にあるの?」
「
「ソコってまさか……」
「ああ、エルフ国の領内だ」
「それはまた厄介な場所に……」
かつて銀河を覆っていた暗黒雲の名残とも云われる闇の森。この銀河の千分の一を占める広大なその土地が総てエルフ国の領土である。船の計器類が全く役に立たない為に手探りで進むしかなく、熟練の冒険者ですらも立ち入る事を良しとしない、一度入れば出ること叶わず。そう云われるほどの場所だ。そこから稀に生還出来る者も居るが、その確率は連番で十枚買った宝くじが全て高額当選するよりも低い。
「これを見付けたっていう遺跡はどうなんでい?」
男の言葉にマナはゆっくりと首を横に振った。
「ハルデニアの遥か彼方よ。今はもうダークサイドの制圧下。私達は運が良かったのよ。逃げ込んだ遺跡でこの船を見つけ、辛うじて逃れられる事が出来た。でなきゃ今頃は……」
生命維持装置に繋がれ、苗床になっていたのは疑いなかった。
(そういえば、無事に生きて帰れたのも彼のお陰でもあるのよね)
ゴブリン軍に補足された時、レイジが居なければどちらにせよ捕まっていた。マナがレイジに視線を向けると、そのレイジは転がる大木をマジマジと見つめていた。
「その木がどうかしたのレイジ?」
「いやちょっと、気になるんですよコレ」
「そりゃ大木だもの、木になっているわよね?」
「……へ?」
マナの返答に唖然とするレイジ。そこにミーナが口を挟んだ。
「ああ、気にすんなレイジ。マナ姉ぇはたまに天然をかますから」
「何よミーナ。誰が天然ですって?」
ぷんすかと怒ってミーナに言い寄るマナの姿を見て、レイジはマナたんマジおにかわ。と、内心で狂喜乱舞していた。
「で、その木がなんだって?」
どうどうどう。と、両手でマナをなだめながら、ミーナがレイジに聞いた。
「せ、正確には木の中なんですが……なんか感じるんですよね」
「何かってなによ」
「明確には分からないんですけど……オヤジさん。この木を縦に切って貰えますか?」
レイジは大木に手刀を向けてこういう風にとジャスチャーする。
「まあ、別に切るだけなら構わねぇが……」
言って男は腰に下げていたタブレットを取り出して何やら操作を始める。すると、ただの土くれだった丘が形を成し始め、大きなゴーレムへと姿を変えた。そのゴーレムは側に置いてあったこれまた巨大なカッターを手に取って大木を切り始める。
「何処まで切ればいいんでぃ?」
「もう少しです……あ、そこでストップ!」
レイジからの指示を受けてゴーレム操作を止める。
「んでここから横に切って下さい」
「了解だ」
再びカッターの刃を入れ始めるゴーレム。切り終えた幹がゴロンと転がり、残っている幹の底側に木の材質とは異なる材質の板が姿を現した。その板には文様が描かれており、金属なのか石材なのか見当もつかない。
「なんじゃこりゃ?」
「この文様は……船の文様と同じだわ」
「なんでこんなモンが木の中に……」
「恐らくですけど、元々付いていたモノが外れたのかもしれません」
「外れた……? ああ、そうか。木の成長と共に取れちまったのか」
「ええ。長い年月をかけて、幹の中に取り込まれてしまったのかと」
なるほど。と、小太りの男はスッキリとした表情で手の平と手の腹でポンと叩く仕草をする。地球でも看板やロープなど、幹に取り込まれた物は数多く存在している。これも恐らくその類いではないかとレイジは思っていた。
「じゃあ、これはこの船の装備品ってワケ?!」
「付けてみないと分かりませんが、多分そうです」
「でかしたわレイジ!」
感極まってレイジに抱きついたマナ。そのレイジは今、店で買った宇宙服を着ている。その生地はマナ達と同じく薄いが為に、マナの胸の感触がダイレクトに伝わってくる。
例えて言うならマシュマロだ。その人肌に温められたメロンサイズのマシュマロが、薄布一枚通してレイジの胸板に密着していた。そしてその接触部分から、熱く滾ったマグマの様な何かがレイジの頭へと駆け登る。
「うぼぁっ!」
「きゃっ!?」
辛うじて間に合った。レイジが咄嗟に横を向かなければ、マナはレイジから飛び出した赤濁とした液体をブッかけられていただろう。
「ちょ、大丈夫?!」
「だ、大丈夫れふ……ぷっ」
再び噴き出すレイジの赤噴水。倒れたレイジを心配するあまり膝を付いたマナであったが、件のマシュマロが強調されてしまい、追い討ちをかける形となった。
☆ ☆ ☆
ハッと目を覚まし勢い良く起き上がったレイジ。そこは真っ白な部屋の中で真っ白なテーブルに真っ白な椅子。と、色々と白尽くしな部屋だった。
「ここは船の中か……?」
乗って日が浅いレイジは、艦橋と通路、そしてエアロックくらいしか知らない。その為に疑問系なのである。
プシュー。とエア音と共に部屋のドアがスライドする。ドアを開けたのはマナ。その後ろにミーナの姿も見える。
「気が付いたのねレイジ」
コトリ。と真っ白なテーブルの上に、持っていたお盆を置くマナ。そのお盆の上にはコップに入った水と錠剤ケースが乗っていた。
「全く。いきなり鼻血出すから驚いたわ」
「すみません。ご心配かけて」
「ホントよもう」
レイジに水が入ったコップを手渡して、机に置かれた錠剤ケースを取る為に背を向けたマナ。そのマナの隙を突いてミーナがレイジに耳打ちする。
「で? マナ姉ぇの胸の感触はどうだった?」
「ぷおっ!」
口に含んだ水を思わず吹き出したレイジ。そしてその汚れを察知したアイツが即座にやって来ては水分すらも綺麗に吸い取っていく。吸引力はしばらく変わらないのがウリである。
「デカかったっしょ?」
「は、はい……」
ミーナと同じく声のトーンを落として答えるレイジ。あの感触を思い出しただけで鼻の奥が熱くなる。
「はいこれね」
マナが差し出した手の平の上に、直径一センチにも満たない錠剤が三粒ほど乗っていた。しかも、青汁を固めた様な色をしていたのである。
「な、何ですかコレは……」
引き攣りながら尋ねたレイジにマナはニッコリと微笑んでその正体を明かす。
「何って、ローポーション」
「ポーション?! コレが!?」
ファンタジーにおけるポーションとは、試験管又は三角フラスコの容器に入っているのが殆どだろう。しかしここではポーションといえばコレ。打身、捻挫、打撲に擦り傷そして切り傷も、三粒飲めばたちまちのうちに元通り! 頭痛、腹痛、腰痛、関節の痛みも勿論の事、便秘も治っちゃう万能薬! ついでに元気も出るから取り敢えず飲めばひとまず安心。ただし個人差と症状によっては効果が期待できない場合があります。その場合、より効果の高いモノを服用して下さい。の、ポーションである。
「増血効果もあるから飲んでおいた方が楽になるわ」
ころりん。と、その錠剤はレイジの手の平へと移され、錠剤をまじまじと見つめた後に意を決して口に放り込んで水で流し込む。
「う。お、おお……」
レイジの身体から気怠さが消え、内側から力が湧きあがる。ついでに息子もちょっとだけ元気になっていたようだ。
「凄いですね。これがポーションのチカラ……う」
ただ一つだけ。良薬口に苦し。と云われる様に、雑草を喰んだ様な草臭さが鼻を抜けてくるのが難点であった。
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