【1話完結】「幽霊なんているわけねーだろ!」とレアジョブ【ゴーストバスター】を追放した勇者パーティーの末路

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第1話 ゴーストバスターを追放した勇者パーティーの末路

「幽霊なんているわけねーだろ! お前はクビだぁ!」


 俺の名はライム。


 世界でも数人しかいない、【ゴーストバスター】のジョブを持っている。


 【ゴーストバスター】の力を見込まれて、国王直々に勇者パーティーの一員に任命された。


 ……のだが、パーティー活動を始めてわずか数日、リーダーである勇者ソリットからクビを言い渡された。


「待ってくれ、俺は国王から『霊に取りつかれやすい勇者を守ってやってくれ』と頼まれている。昨日だって、君が寝ている間に君に悪さをしようとした悪霊を撃退したっていうのに……」


「何度も言わせるな! 幽霊なんているわけねーだろ!」


 勇者ソリットは俺を突き飛ばす。


「俺も勇者ソリットと同じ意見だ。幽霊などという不確かなものを信じることはできない」


 パーティーメンバーのパラディン、ガルムも冷たい声で言う。大柄で冷静沈着なガルムは、パーティーの要だ。頭のいいガルムなら分かってくれると思っていたのに、ショックだ。


「あばよライム! 二度と俺たちの前に顔を見せるな!」


 そういい捨てて、勇者ソリットたちはダンジョン攻略へと向かってしまった。


――――――


「さて、何か良いクエストはないか……」


 翌日。ソロになった俺は、冒険者ギルドでクエスト一覧を眺めていた。


 ゴーストバスターの一部のスキルは、霊以外のモンスターにも効果がある。ソロの冒険者として、やっていけなくはない。


 とはいえ、ゴーストバスターがこなせるクエストなど限られていて……。


「ん? これはなんだ?」


 俺が目を付けたクエストは、最近発見された地下墓地の調査。


 モンスターは出ないが、近づくものがみんな体調を崩しているらしい。


「これは、霊の仕業だな……?」


 ということは、ゴーストバスターの出番だ。


 よし、明日からこの地下墓地へ向かおう。


 霊というのは、どこにでもいるわけではない。


 もし霊が沢山いるようなら、倒して沢山レベリングできる。


 俺の未来は、少し明るくなってきた。


――――――


 宿に帰ると、宿の前に勇者一行が待ち伏せていた。


「ライム、やはり霊はいるかもしれない……」


 青い顔でぼそぼそと喋るのは、パラディンのガルム。


「お前がいなくなった夜から、夜中に耳元で女の声がしたり、物がかってに動き出したりするんだよ。これは絶対に霊の仕業だ……」


「まぁ俺様は霊なんて信じてないんだが、こいつらがビビっちまってな。聖水ってのがあっただろ。あれをよこしな」


 聖水。悪しき物を清める力がある水だ。悪霊にも効果がある。ただし、除霊に使うためには注意点がある。


「ほら、聖水だ。ただし注意点があって、絶対に頭に振りかけるようにして使うこと。間違っても飲んだりするな――」


「――ありがとよ! ほら、代金渡しとくよ! 釣りは要らないぜ、ありがたく思いな!」


 勇者ソリットは俺の手から聖水をひったくって小銭をばらまき、逃げるように走っていった。


 ……ちゃんと聞いてただろうな。絶対に飲んだりしたら駄目だって。


 薬草が加工方法次第で毒にも薬にもなるように、聖水も使い方が大事だ。もし飲んだりしたら、かえって悪霊を集めることになる。


「まぁ、まさか勇者でも聖水を飲んだりはしないだろ。しっかり飲むなって言ったし」


 俺は地面に落ちた小銭を集めた後、宿でゆっくり休むのだった。


――――――


「ぷはぁ~! 意外とうめぇな! 聖水ってのは!」


 勇者ソリットは、聖水を一気飲みしていた。


 パラディンガルムもそれを満足そうに見つめている。


「これで今日はゆっくり眠れるな」


 二人は楽しそうに笑いあう。


 そしてその夜。


 街の宿で眠っていた勇者は、物音で目が覚める。部屋には勇者ソリット1人だ。


 パン!


 何か乾いた音が部屋に響く。


「なんだぁ?」


 ベッドから起き上がる勇者。


 パン! パン! パン! パン!


 どこからともなく、乾いた音が連続して聞こえる。


「な、なんなんだぁ? 一体、何が起こってるんだ?」


 その時勇者ソリットは、視界の端で何かが動くのをみた。


「あれ、ベッドサイドの人形、こんな表情してたっけか……?」


 無表情だったはずの人形が、今は確かに笑っている。


「まったく、変な人形だぜ……」


 勇者ソリットが近づいたその時、


「ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!」


 手足をバタつかせて人形が笑い出す。

 

「ケケケケケケケケ!! ケケケケケケケケケケケケケケ!!」


「な、なんだこの人形は!?」


 そして人形はふと糸が切れたように動かなくなる。


「一体何だったんだ……」


 バン!


 今度は窓の方から、何か叩くような音がする


 勇者ソリットが窓を見ると、そこには、無数の赤い手形が付いていた。


――――――――――


 翌朝。


「全く、昨日はうるさくって全然寝れなかったぜ……」


 眠い目をこすりながら、勇者ソリットはパラディンガルムの部屋のドアをノックする。


 ゆっくりとドアが開き、パラディンガルムがのそり、と出てくる。


「……さない……」


 パラディンガルムが、何かぼつりと呟く。


「あ? なんだって?」


「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」


 突如、パラディンガルムが勇者ソリットに襲い掛かり、両手で首を絞める。


「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」


 うわごとを何度も繰り返しながら、パラディンガルムは首を絞め続ける。


「なにしやがる、てめぇ!」


 ドンッ


 勇者ソリットがパラディンガルムを突き飛ばし、拘束から逃れる。


「……? 俺は一体何を……?」


 パラディンガルムは、目が覚めたばかりのような表情できょとんとしている。


 2人は宿の談話スペースに移動する。


 そして勇者ソリットは、昨日部屋で起きた出来事や、今パラディンガルムが何者かに意識を乗っ取られていたことを説明する。


「そそそそそれってやっぱり幽霊の仕業じゃないのか?」


「馬鹿言え、幽霊なんているわけねーだろ」


 そう言って勇者ソリットはコップに水を注ぐ。


「プハー。ん? なんだこれ? コップになんか入ってるぞ」


 コップに入っていたのは、大量の髪の毛だった。


「やっぱり幽霊の仕業だーーーーー!」


 パラディンガルムが悲鳴を上げて走り出す。


「もう嫌だ! 勇者ソリット、お前やっぱり悪霊に憑りつかれてるんだよ! お前にはもう二度と関わらない!!」


 パラディンガルムは、二度と戻ってくることはなかった。


――――――――――


 さらに翌日、首都の城にて。


 今日は魔王討伐に向けて、勇者パーティーが中間報告に国王に謁見する日だ。


 この世界では、幽霊というものはあまり信じられていない。しかし王宮ではしっかりとその存在を認識していた。


「この代の勇者は霊に取りつかれやすい体質なのが玉に瑕じゃった。だが、苦労して【ゴーストバスター】を探し出し、パーティーメンバーにすることができた。勇者はさぞ快調に活躍しておるじゃろう」


 謁見が始まる前から、国王はご機嫌だった。


 しかし、


「ゴーストバスター? ああ、あいつならクビにしましたよ? だって霊なんているわけないじゃないですかアッハッハッハ」


「なんじゃとー!?」


 勇者の報告に、国王は腰を抜かしていた。


「そ、それでゴーストバスターをクビにしてから心霊現象は起きておらんのか?」


「起きていませんよそんなもの。夜中に変な音がしたり人形が笑い出したり窓に真っ赤な手形が付いたり仲間が何者かに意識を乗っ取られたりはしましたが」


「バカモーン! それが心霊現象だ!」


 国王は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。


「ええい、お前は勇者クビだ!」


「そ、そんなぁ! 王様、良いお土産を持ってきたので、これで機嫌を直してください。勝手に笑い出す人形。面白いでしょ?」


「ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!」


「そんなもの城に持ち込むな馬鹿者ーーーーーーー!!」


 城中に国王の悲鳴が響き渡る。


「ええい、こんな悪霊の呪いをあちこちにまき散らす危険なやつを野放しにはしておけん! ”アレ”を持ってこい!」


 騎士たちが、謁見の間に何か重いものを引きずって運んでくる。


 ギロチン台だった。


「ええ!? 王様、あんなもので一体何しようっていうんですか?」


「それは今に分かる。さぁ入れ!」


 国王に呼ばれ、黒いフードを身にまとい、顔を黒いマスクで隠した男が現れる。


「どもっす。俺、勇者サン担当の死刑執行人っす。頑張って執行するんでよろしくお願いしますっす」


「いやあああああぁ!」


 勇者が悲鳴をあげながら窓から飛び降りる。


「逃げたぞ! 追え! 決してあの厄病神を逃がすな! 必ず殺せ!」


 国王の命令で、騎士たちが元勇者を追いかけていく。


 こうして元勇者の、悪霊に祟られながら王国に命を狙われる逃亡生活が始まった。


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