episode13.作戦会議


「これで、ファルベッドさんが怒られることはないですね」


 ファルベッドがアマシアに毒入りパンを出し、アマシアがそれを食べたという既成事実は作った。満足したアマシアは、続いてファルベッドに問いかけた。

 

「わたし、今日のパーティに出席したいです。何とか工面してもらえませんか?」

「何を言っているのですか。パーティには本物のセレニア様がいらっしゃるのですよ。会場で見つかってしまえば、その場で捕らえられてしまいます」


 確かに、パーティには当然セレニアが出席する。

 ノコノコと会場に行けば、ファルベッドに殺されていないことがバレるし、その場で打ち首にされそうな気がする。パーティに招待されてないアマシアは、会場に入ることさえ困難だ。


「グレン様と約束したんです。最後のパーティくらいは、仲の悪いフリはやめて仲良くしたいって。それに……シスターから貰った魔法具を、どうにか取り返さないと」

「お気持ちは分かりますが、

「ただの身代わりでは、主役ではない……?」

「え、ええ」


 その瞬間、爆速的にアマシアの脳が回転した。

 あるではないか。

 一つだけ、怪しまれずに会場に潜入できる方法が。


「ファルベッドさん、失礼を承知でお聞きします。もしかしてここに来る前に、グレン様と何かお話をされていませんか?」

「……。はい今後の伯爵家の展望と、グレン様とセレニア様との婚約の話です」

「やっぱり」


 グレンはアマシアと不仲の演技をしなければならなかったため、多くのことを語ったわけではない。だが彼は、当初からアマシアの身代わりの目的を疑問視していた。『俺が守る』という言葉を信じて良いのなら、彼は水面下で何かを行っているはずなのだ。


「グレン様が交渉するとすればそれはセレニアさんじゃない。伯爵夫妻にも発言権がある侍女長のファルベッドさんです」

「…………本当に、賢才でございますね。貴女は」

「わたしの力だけではないですよ。ファルベッドさんが、ここまでわたしを育ててくれたんです」

「そう、ですか」 


(わ。初めてファルベッドさんが微笑んでくれた……!)


 熟年の侍女長らしい、謙遜気味の小さなもの。

 アマシアに初めて見せた、まったく嫌味のない微笑だった。


「わたしに考えがあります。この方法なら、絶対に会場に入れます」


 ただこの方法は、協力してくれたファルベッドとて無事では済まないだろう。

 断られると思っていた。

 でもファルベッドは、最後まで笑うことなくアマシアの話を聞いていた。そのあと俯き、深く考え込んでいる。そして、決意したように顔をあげた。


「やりましょう。ちょうどグレン様から貴女がどこにいるのかと攻め立てられていたところです」

「あ、ははは」


 見た目は優しいが、ただの猫被りであることを知っている。

 アマシアは笑うしかなかった。


「ではわたくしは、栄えあるロレンティーネ伯爵家侍女長として、持てる力のすべてを発揮致します」


 力強い宣言からは、侍女長に相応しい貫禄と威厳深さが滲み出ていた。


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