覚悟
「面白かったね」
キララはレーヴァに手を惹かれながらご機嫌でさきほどのことを話していた。
「すっごく速くてね、僕ビューンてなってね、風になったんだよ」
直也達は楽しそうに話しをするキララの姿を見ながら、キララ大切な物を守ることが出来なかった自分の不甲斐なさを感じていた。
そしてシャロンに心を許してしまったキララに、如何にして傷つけないように「シャロンは変態だからあまり近づかないようにね」と言ったら良いものかと方法を悩みながらアオヤマ食堂に向かって歩みを進めていた。
(使徒様、キララの純潔が汚されてまったことの責任は取っていただけるのですよね。あんなにじっくりたっぷり舐るようにされては、キララはもう他所にお嫁にはいけません。誠意のある対応をお願いします。母として納得がいく誠意を見せて下さった暁には、あたしも使徒様の元へまいりましょう。キララを躾るため、良い嫁になるよう教育するためにあたしも使徒様の嫁なりましょう。7番あたし、8番キララみたいな感じで、二人で使徒様に尽くしますから)
さっきからシャロンの毒牙のかかりキララがお嫁に行けなくなってしまったと責任の所在を問いかけてくるクララの声に辟易としていた。始めはクララの訴えに申し訳ないと罪悪感を覚えたものだが、内容が十回リピートした辺りから少々苛立ちを覚えていた。
大体どうしてクララを嫁にする話となっているのだろう? ギルドを出てから続く自分も嫁にとのクララの主張を直也は聞き流しながら歩いていた。
「・・・・・・」
(使徒様、どうして何も答えてくれないのですか? ご不満があるのですか?)
直也が何も答えないことを不安に感じたクララは、直也の心や感情を推し量るために直也に意識を向ける。クララの魂を今生へ固定し定着するためにダイヤの中に宿された直也の神気が、クララの意識に反応して心の表面にある直也の感情を読み始める。
(使徒様から伝わってくる感情は苛立ち? あれ?誠意は? もしかしてあたしは使徒様に嫌われている? いえ使徒様は決してキララもあたしのことを嫌ってはいない。むしろ心地良い好意を感じます。では使徒様の苛立ちの意味は? 使徒様が苛立つ理由は! あたし達親子が使徒様に何かを求められている? それに気が付かないからの使徒様が苛立つ。 何が足りないの? 使徒様にあたし達親子が出来る、使徒様が求めること? ・・・親子で! アワ! まさか使徒様が欲しがっているのは、使徒様は! アッワワワワ!)
ようやく話のリピート再生が終わって次に話が進んだが、クララは慌てふためき怯えている感じがする。直也は何となく嫌な予感がしたが、特に突っ込むこともせずに継続して聞いてない振りを続けていた。
すると次第にクララは落ち突きを取り戻し、悩み始め苦しみだし、やがて諦め色々な大切なモノを捨ててしまった人のような悲壮感が漂わせながら静かに話を始めた。
(使徒様の苛立ちの理由がわかりました。使徒様の周りの女性達を見れば一目瞭然でした。使徒様ハーレムにいるのは強くて美しい魅力が溢れる女性達です。種族、年齢も持っている性属性も違う6人の女性。6人の誰もが持っていない、あたしとキララにしかない性の属性。 ・・・使徒様はこれを求めていたのですね。そのことに気が付かないあたしに苛立っておられたのです。察することが出来ずに申し訳ありませんでした)
「・・・・・・?」
(本当に使徒様に仕える者として申し訳ない気持ちでいっぱいです。使徒様の願い確かに承りました)
「?」
(あたし一人でもキララも一人でも満足させることが出来ない。二人が一緒でないといけないない。 ・・・使徒様は、 ・・・親子丼を、お求め、だったの、ですね。正直受け入れるのには躊躇いましたが、使徒様がどうしても親子丼を召し上がりたいと言うのであれば、あたしも覚悟を決めて人道をはずれましょう。キララと共に使徒様の元に嫁ぎ、親子で使徒様の聖棒にお仕え致しましょう)
娘の向く末を心配して泣いていた母はもういなかった。親子二人で使徒様に嫁ぐことが出来るなら、使徒様がそう望むのであるのならば、あたしは喜んで道外れた淫欲の世界に身を落してみせましょう。覚悟を決めた強い一人の女だった。
(親子丼、使徒様どうぞ召し上がれ)
直也はクララの思考が全く予想していなかった余りにも酷い場所へ辿り着いてしまった事に驚いた。何をどうすれば親子丼という結論になってしまうのか? ていうか親子丼は世界にまだ残っていたのか? 次々と浮かんでくる疑問に懸けられた身に覚えのない親子丼のセクハラ容疑、直也は苛立ちを覚え堪らず大声で叫んでいた。
「親子丼なんて考えたこともないわ!」
(ヒエッ、申し訳ありません)
直也の叫びにクララは使徒様を怒らせてしまったと恐縮してしまいようやく大人しくなった。何を間違ってしまったのだろか、今のクララにもし肉体があるのであれば全身から汗を流しながら怒れる上司の機嫌と窺う部下のような図になっている事だろう。
「親子丼? 考える?」
「どうした急に」
「直也様、親子丼がどうかしたのですか?」
「ハハ、なんでもないよ。驚かしてしまってごめんね」
「主様。今の親子丼ってどっちの親子丼。食べる方かな? まあどっちも食べるんだけど」
「え、師匠。親子丼ってそんなに種類があるんですか」
「直也(さん 様)?」
町の大来での突然の大声による親子丼という不穏な発言に疑問を抱いたサクヤ達。直也が焦る姿を見てサクヤ達は益々疑惑を持ってしまったみたいで、直也はどう説明したら良いものかと困っている時に意外な救世主が現れた。
「旦那様は親子丼が食べたいのか? あそこの親子丼は旨いからな。親子丼ならあたいは大盛で十杯は食べられるな」
こよなく美味しい料理を愛する食いしん坊のレーヴァは、直也がお昼のメニューを考えていたと受け取ってくれたのだった。レーヴァの話を聞いたキララも親子丼に興味を持ったらしく二人の会話が続いていく。
「ねえねえ、お姉ちゃん親子丼って何?」
「親子丼は肉と卵の料理だ。フワッとしたトロトロの卵に柔らかくてプリプリとした肉が入っていて、あまりの美味しさに一口食べた瞬間におかわりをしちゃう位だ。キララもあたいが奢ってやるから今日は好きなだけ食べろ」
「うん、僕食べる! 親子丼をイッパイ食べる」
「うん。親子丼を腹一杯食え。沢山食べて大きくなるんだぞ!」
「ありがとうレーヴァお姉ちゃん」
レーヴァとキララのやり取りのお陰で、直也はサクヤ達の疑惑の視線から解放されて胸を撫でおろすことが出来たが、幼いキララが親子丼を連呼する姿を見てとても大変なことをしてしまった気がして、何も知らないキララを貶めてしまったような気がして、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
Soul Contractor 未来の世界に帰還した英雄は美女達に誘われ冒険者になる 虹まぐろ @aoao527man
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