シャロンの生き様
直也達が町の大通りにある冒険者ギルドに到着したのはお昼の少し前頃だった。ギルドの中は仕事を終えて帰ってきている冒険者達の姿はなく閑散としていた。
ギルド内にいる職員の多くの者は冒険者達が帰ってくる前に各自の溜まっている事務処理などに勤しんでいるようで、依頼の受付には職員が誰も居なかった。
(アリッサさんもジェシーさんもいないようだな。さて誰に声をかけたものかな?)
直也は依頼の達成の報告を誰にすれば良いのか考えている時のことだった。ドドドドドッ、激しく床を蹴るような騒がしい音が事務所の奥の扉から聞えてくる。直後にドバンッと勢い良く扉が開かれ、中から誰もが想像した通りの兎の獣人が飛び出して来た。
兎の獣人ことシャロンは幼い少女をこよなく愛する、セフィロトの町のギルマス代行で偉い立場の人だ。
ギルドの制服姿のシャロンは、直也の側に立つアスとキララの姿を見つけると、目にも止まらぬ速さでアスとキララに近づくと床に跪き、二人の手を取り(キララのことは無意識で)自分の胸の中へと引き込み抱きしめた。
「寂しかったよ、アスちゃん。会いたかったよ、アスちゃん」
シャロンは涙を流しながらアスとキララの体を強く抱きしめ、二人の胸に頭を押し付けながらオイオイと泣き始めた。
「アスちゃん、アスちゃんは知っている? 兎は寂しいと死んじゃうんだよ。アスちゃんがいないと私が寂しくて死んじゃうんだよ」
シャロンはそんなことを言いながら、強くしがみ付くように抱き付いてくる。アスはいつものことなので、ハイハイと簡単に受け流しているが、キララは突然知らない人に抱きつかれたことに困惑していた。
「このお姉ちゃんは誰? どうして泣いているの?」
「このお姉ちゃんはね。難しい病気にかかっているんだ。でも大丈夫だよ、人には滅多にうつらない病気だから」
「ふーん、そうなんだ。お姉ちゃん病気、早く治るといいね」
アスの説明をちゃんと理解出来た訳ではないキララは、目の前にいるのは病気に苦しんで泣いているお姉ちゃんだと前向きな解釈をしたようで、シャロンの頭をヨシヨシと撫で始めた。
(アスちゃんが優しい。私の頭を撫でてくれている)
「早く元気になーあれ」
「天使だ。私の天使が・・・・」
「僕は天使じゃないよ? キララだよ」
「?、・・・!!」
シャロンはここで初めて二人の胸から顔を離して自分の頭を撫でているキララのことを見た。シャロンは驚き息を飲んで絶句した。
そしてまず自分の頬を抓ってみた。
痛い、夢ではない。
今度は自分の目を疑いゴシゴシと目と手で擦る。
幻ではない。
それではとキララの匂いを嗅いでみた。未成熟の甘い果実のかほりがした。キララの匂いを何度も嗅いだシャロンはキララの容姿を舐るように観察する。
(歳は十歳前後でアスちゃんよりも少し年下。ショートカットが似合うボーイッシュな僕っ子。まだ背も低く瘦せていてツルペタだが、将来性があり伸びしろを感じることができるツルペタだ。容姿についても数年で絶世の美少女になる未来が容易く当然のように想像できる逸材。これは是非お近づきに)
シャロンは真剣な表情で色々と何かを確かめるように何度も何度もキララにタッチしたり、芸術家みたいに両手の親指を人差し指でフレームを作り引いたり近づいたりを繰り返している。
やがてハアハアと息が乱れ始め、顔が紅潮し、うさ耳をピンと伸ばして、身悶えを始める。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「これは少しまずいわね」
「あいつからキララを引き離せ!」
シャロンのキララを見る目は犯罪者のそれである。周りにいる良識ある大人達は、幼気な少女を守るために皆立ち上がる。直也達は勿論のこと仕事をしていたシャロンの身内とも言えるギルドの職員まで、その場にいたほぼすべての者達がシャロンの魔の手からキララを守るために心を一つに繋げた瞬間だった。
がしかし、時すでに遅し。
シャロンは整い始めていた。
「極上のまだ青い小さな蕾」
キララは見てそう呟いた次の瞬間、シャロンは整っていた。シャロンの全てが整っていた。乱れた呼吸が整い、体の震えが止まり、真っ赤に紅潮して興奮した様子の表情は、すべてを包み込む釈迦の如く穏やかになる。
「僕は極上のじゃないよ? キララだよ」
「止めろ!」
その場にいる者がシャロンをキララから引き離そうと一斉に詰め寄るが、今日の整ったシャロンは速かった。
「消えた!」
「速いぞ!」
まさに閃光、シャロン人生で恐らく一番速かっただろう。近くにいたアスですら反応することが出来ない。シャロンの持ち前の素早さにギフトとスキルが共鳴し、欲望と本能がさらなる加速を産む。整いはシャロンを次のステージに引き上げた。
「頂きます」
シャロンはキララの前に立つと両手の平を顔の前で合わせて言った。本当に見事な頂ますであった。
シャロンの「頂きます」の言葉の意味が分らずにきょとんとした顔をしているキララに、特殊性癖のケダモノ、シャロンが襲い掛かった。
あまりの素速さに周りの者達は虚をつかれて反応が間に合わない。
閃光のシャロンはキララを捕まえると大事に大切に抱きかかえ自室に高速移動し施錠すると、タッチ、吸い、舐めとキララを堪能し始めた。自分の欲求を思う存分満たすためにその毒牙を幼い体へと突き立てたのだ。
「甘、ウマウマ」
「ははは、お姉ちゃんくすぐったいよ」
唯一の救いは被害者である純粋な心を持つキララが、シャロンが遊んでくれていると勘違いしてしまい、楽しそうに笑ってはしゃいでいること。自分がセクハラ被害に遭っているなど夢にも思っていない。
しかし、ドアを蹴破って突入した大人たちは違った。みんな怒髪天を突いていた。
「何がウマウマだ、この変態!」
「そんな大人は修正してやる!」
「吸ったね! 僕だってまだ吸い付いたことなんてないのに!」
・・・・・
その後の色に狂ったシャロンは、キララを抱えたままギルドの外に闘争を計るも、本気を出した直也やイズナに取り抑えられてしまい(と言うか本気を出さなければシャロンを捕まえられなかった)、みんなから厳しく激しくダイナミックな修正を加えられたのだが、
「お姉ちゃんは僕と遊んでくれていただけなんだから、酷いことしないで!」
とのキララからの涙の嘆願もあり何とかその場で一命を取り止めることが出来た。が、
「ありがとう、キララちゃん・・・でも私は、貴方を諦めない」
反省の色は無い。
その日から三日ほど、キララに内緒でギルド正面玄関の天井に逆さ吊りにされているシャロンの姿を、多くの冒険者達が見かけたと言う。
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