フレイヤの友

「気持ち良く、・・・無いだと?」


 まったく気持ち良くない。むしろイラっとしかしない。痒い所に手が届かない感じだ。


 フレイヤは愕然とした。


 フレイヤは直也とイズナを嫉妬させて愛を取り戻すために、SとMが朝から集う専門店に足を運んでいた。この専門店は裏では知らない人が居ないと言われるほど有名な店であった。

 フレイヤが指名したのはSのナンバー1嬢、鞭使い音速つばめ返しのサラ、彼女にかかればどんな清い聖人でも週5で罰を求める哀れな罪人になると言われている。

 

 現在フレイヤは普段白銀の鎧の下に身に付けている法衣の姿で、手を荒縄で縛られたプレイルームの天井に吊るされという、「捕らわれた女騎士コース」という人気のサービスを受けているところだったのだが、全く良くなかった。


「そろそろ、素直になったらどうだい。 ・・・秘儀、先っちょつばめ返し!」


「・・・足りない」


(期待外れだ。これではイズナたまに嫉妬をさせるどころか、私が先に欲しがってしまう)


「その余裕は何時まで続くかな? 喰らえ、先っちょつばめ返し! 小股!」


 フレイヤが考えている間も鞭によるサービスが続いている。胸の先っちょや、股間の〇めの先っちょを器用にピンポイントで責めてくるのだが、これでは足りない。全く足りない。


「すまないがもっと強く頼む」


「欲しがるね。普通なら塩吹いて喜ぶのに、この責めでも足りないなんて。あんた相当の咎人だね」


「私は更に上の世界を知っているから」


「聞き捨てならないね! 私の異常の上を知っているだって? 舐めるな! 私はまだ本気をだしちゃいないよ! ・・・・・・ハァ!」


 フレイヤの言葉を侮辱と感じたサラは力を溜めて鞭を振った。シュグオッっと鞭を持ったサラの右手が残像を残して消えるとパンッっと拳銃を打った時のような音が聞こえる。次の瞬間インパクトを受けた床が粉々に吹き飛んだ。


「ほう、音速を越えたか。なかなか楽しめそうだな」


「この技は負担が大きいからあまり使いたくはないけれど、ナンバー1として、嘗められたままでは終われないからね」


「面白い! 私にこの店の頂たるお前の力を、技を、ガッツを見せてみろ。お前の全部で私を打ち取ってみせろ!」


「くらえ、私のオリジナル神技、天翔けるペガサスの流星鞭!」


 サラの鞭がまるで百本に増えたように見えた。実際に鞭の空気を裂く発射音は耐えまなく続いており、フレイヤをしばき倒している。全身を余すことなく次々と打たれるフレイヤだがその目にまだ余裕があった。常人であれば一撃で体を粉々に爆散されてしまう様な攻撃を何十とその身に受けてもまだ平然としている。


「この、鞭打ちに堪えるか化け物め! じゃあ更にギアを上げてやる! 私の体もってくれよ。ハァー、二倍三倍マシマシだー!」


「サラの鞭の速度が上がってイク。マッハ1、マッハ2、マッハ3、痛ゥ」


 サラは最後の力を振り絞り鞭を速度を上げていく。フレイヤは鞭で打たれる度に服が吹き飛びマッパとなってしまっていた。


(いいぞ。これはいいぞ)


 ゾクゾクと良い感じにフレイヤが感じ始めたがそれも長くは続かなかった。フレイヤの体を責めるマッハ先っちょつばめ返し! 小股!が止んでしまったのだ。


「何故止める。せっかくゾーンが見え始めたところだぞ!」


 フレイヤがさらに向かって物申すと、サラは右腕を抑えてうずくまっていた。



「すまないね。私の腕がいかれちまったよ」



 サラの右腕は青く腫れあがっており、かなりの痛みがあるのか脂汗と流している。鞭で打った時間は二十秒ほどだろうか、秒間百発以上の攻撃を放ったサラの腕の方が先に壊れてしまっていた。


「参ったよ、私の負けだ」


 サラは素直にプロとしての負けを認めると、左手に鞭を取りフレイヤを吊るしている荒縄に目掛けて鞭を振るった。鞭は寸分たがわず縄に命中しフレイヤは自由を取り戻した。フレイヤの身を自由にしたサラはそのまま振り返ることなくプレイルームの出口に向かって歩き出口の扉のノブに手を掛けた。


「待て、サラ。お前の鞭、中々よかったぞ」


「あんたみたいな高みにいる人は初めてだったよ。だが次は私が勝つ。あんたに勝って私も高みに登ってみせる」


 マッパで仁王立ちのフレイヤがサラに向かい健闘を讃えると、サラは再戦を誓う。二人の間にスポーツで死力を尽くして戦い合った後のような清々しい空気に包まれた。


「また、な」


「ああ、またな」


 フレイヤの再開を求める言葉に、サラは怪我をした腕を抑えながら笑みを浮かべプレイルームを後にした。


 


 飛ぶ鳥後を濁さず。サラとのプレイで法衣と下着を失ってしまったフレイヤはマッパの上にそのまま鎧を身に付け会計のためフロントに向かう。直の白銀の鎧は冷たい上に肌が可動部に挟まって中々に良い。白銀の鎧を楽しみながらフロントに向かうとそこには店主が立っていた。


「店主、世話になったな」


「今回のお代は結構です。サラが言っておりました。お客を満足させることが出来なかったと。私共はプロでございます。満足をしていただけなっかったお客様からお題を受け取ることはできません」


「・・・(フッ)」


 プロとしてのサラの心意気に好意を抱いたフレイヤは金貨を数十枚ほど店主に渡して店を出た。開店と同時にプレイをしたため外はまだ明るい。欲求不満は否めないが、友と出会い満足もしている。


「お腹が空いたな」


 イズナたまへの恨めしい感情も忘れ、フレイヤは腹ごしらえをするために、世間一般的には倫理に反するノーパン鎧という姿のままで、いつもお世話になっている食堂に向かい歩き始めた


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