直也の昇格
「うわー、すっごい大きい樹だね。僕、あんなの見たことないや」
背は130㎝ほどで首に青い宝石が付いたネックレスをつけた艶々の茶髪の小柄な体型の少女。髪は動きやすいようショートカットにしており、赤基調とて炎をイメージしたぴっちりとしたTシャツに、デニム生地のショートパンツを着ている。手には銀色に光るナックルガードをつけ黒革の鉄板入りのブーツを履いている。
その愛らしい大きな目と見開き、可愛いお口をイッパイに広げながら元気一杯で少し興奮気味な様子だ。森の茂みから幾つもの空に抜ける大きな樹の群が見える中でも一際山のように高く大きな樹をキララは指さていた。
「あれはセフィロトの樹と言って、私達の町の象徴なのよ」
「へー、そうなんだ。凄いねー、しょうちょう! ・・・象徴って何?」
目を輝かせながら話すキララにサクヤが優しく教えている。キララはコーアンの町を出てからというもの、あちらこちらキョロキョロと見渡しては気になった物がある度にあれは何? 教えて、教えて! と様々な事を聞いて来る。自分が知らない外の世界が面白くて楽しいみたいだった。直也達はその度にキララの質問に答えてあげていた。キララの興味は尽きることなく、絶え間なく直也以外のメンバーと話をいている。
中でもキララは千年の信頼と実績をもつイズナと、豊富な知識量を持つサクヤが雑学を交えて面白く話をしてくれるのがとても気に入ったらしい。
(赤いおべべ。あたしのおべべ。使徒様のいじわる)
逆にキララの母で現在は宝石をしているクララのテンションは駄々落ちしていた。気のせいか青い宝石もくすんで見えた。コーアンの町を出発するまでは買って戻って、戻って買ってと大騒ぎをしていたが、今はもう諦めてしまったらしい。
「僕楽しみだな。お兄ちゃんが住んでいる町って、どんな所なのかな? 楽しみだな?」
キララは目を細め朗らかな笑顔を見せながらそう言った。周りにいたみんなは、キララの発言を聞いてにこやかで温くキララを見つめている。直也に至っては口を手で押さえ驚きた顔をしていた。
「お兄ちゃん?」
隣を歩いていたサクヤにそう聞かれたキララは、ハッとした表情になりながら、一瞬直也がいる方を焦った様子で振り返った。キララは驚き嬉しそうにしている直也を見ると顔を赤くした。
「ち、違うもん。僕はお姉ちゃんって言ったもん。お姉ちゃん達の町って言ったもん」
キララはバッとサクヤに向き返り真っ赤な顔で否定した。
「そうなの?」
「そうだもん! 僕お姉ちゃんって言ったもん」
「ふふ、そうね」
サクヤはキララの頭を撫で撫でしながら相槌を打った。しかし益々キララは赤くなり必死で否定を繰り返しながら、直也を横目でチラチラと見ている。
「言ったもん!僕はお姉ちゃんっていたんだから! お兄ちゃんなんて言ってないんだから!」
「キララは可愛いな」
「ツンの妹ポジ」
「私は言っていないんだから!」
ふふふっ、みんなの温い笑顔に囲まれながら、キララは疲れるまで叫び続けた。
お昼頃セフィロトの町に着いた直也達はまず以来達成の報告をするため町の冒険者ギルドに向かった。コーアンの町で貰った依頼達成の証明書の提出を提出するためだ。久しぶりのセフィロトの町は相変らず活気があり、商店や露店は賑わいを見せている。お兄ちゃん事件からずっとへそを曲げていたキララも町に入ってからはすっかりと機嫌も良くなり、コーアンの町の時以上にあちらこちらを見ては走り回っていた。
(あのお店美味しそうな鳥の串焼きだな。お昼ご飯はいつもの食堂で食べることにしても、ギルドで時間がかかるかもしれないから少しだけ腹ごしらえをしておくかな)
「少しお腹が空いたからあのお店で串焼きを買おうと思っているのだけれど、食べたい人いる?」
「食べる、食べるぞ! 旦那様! 取り敢えず10串」
「私も頂きます」
「ではお嬢様、私は広場のテーブル席を確保しておきます」
「ご主人様、私も食べる」
「ありがとうございます、直也さん。折角の夫の気遣い。ありがたくいただきます」
「キララお前も食べるよな。この町のご飯は美味しいぞ」
「・・・・・・、うん。いた、だきま、す」
、(串より、おべべ)
みんなが食べると直也の側に来る中、モジモジとしている所をイズナから声をこけられたキララは上目づかいで直也を見ると、恥ずかしそうにそう言った。
「遠慮しないで沢山食べて」
キララと話せたことが嬉しい直也は、スキップをしてしまいそうなる程の勢いでお店に向かい全員の分を注文した。注文を受けてた店主がみんなの前で次々と串を焼いていく。炭火で焼かれる串からは次第に香ばしい肉の香りが広がり待っている者達の食欲をそそる。
「旨そうだ」
「・・・」
最前列で串焼きから目を離さずにゴクリと唾を飲んでいるレーヴァの前にはいつの間にかキララが立っていて、露店の焼き場の窓にしがみ付き美味しそうにジュージューと言っている串焼きの虜になっていた。深呼吸をする様に鼻をヒクヒクさせて肉のやける匂いを必死に吸い込んでいるせいか、とうとうキララの口からは大量の涎が垂れ始めた。
「キララ、涎、涎」
涎に気が付いたアスが持っていたハンカチで口元を拭いてもキララは反応をしない。今や可愛い大きな瞳は限界まで見開かれており瞬きすらしていない。焼きあがった串焼きを店主が串焼きを自慢のタレに付けて再度少しだけ焼く。特製タレの凶暴な香りがキララの食欲を刺激したのか、キララの口からは滝のように涎が流れ始めた。
「ほら出来たよ、嬢ちゃん」
店の店主は出来上がった串焼きをかぶり突き信じられないほどの涎を流していたキララに差し出した。目の前に出された串焼きを見て完全に動きが止まった。呼吸すらしていない。キララは壊れたおもちゃのようにギィっと直也に振り向くと、
「僕はこれ、・・・食べてもいいの?」
と、消え入りそうな声で、恐る恐る直也に尋ねた。直也はキララの頭に手を当て撫で、その場にしゃがんで目線を揃えると、キララの目をしっかりと見て伝えた。
「キララ、僕達の家族なのだから遠慮しなくて良いんだよ。僕はね、キララには一杯食べて、沢山遊んで、色々学んで欲しいと思っているんだ。それで毎日がワクワクしてドキドキするような経験を沢山思いっきりして、健全な心と常識をもって元気な強い女の子に育って欲しい。そして、いつかキララを守ってくれる人が出来るまで、僕は命を懸けてキララを支えて守ると誓うよ」
直也はキララに思いを伝えると串焼きを二本持って小さなキララの両手に持たせた。一本は自分の分だがそんなことは気にしない。今はキララに食べてもらいたいと思っていた。
二本の串焼きを両手に持って驚愕の表情を浮かべるキララ。何で二本も? 食べても良いの? 直也を見る驚きの瞳がそう言っている。直也は黙って頷いた。キララは顔を紅潮させて頷き返すと、串焼きの肉を、一口齧った。
はむ、はむ、ごくん。
「うんまあぁぁい!」
キララはそう叫び残りの串焼きを貪るように泣きながら食べ、あっという間に喰らい尽くしてしまった。
「美味しいよう、僕こんな食べ物食べたことないよう」
直也はキララの涙を拭いてあげながら、
「この町にはね、他にも美味しいものが沢山あるんだ。僕がキララを色々なお店に連れて行ってあげるから」
「うん、直也お兄ちゃんありがとう!」
あまりの感動で、涙声でぴえーん泣きながら話すキララの姿を、サクヤ達は思い思いに串焼きを食べながら温かく見守っていた。
直也はこの日、密かにキララの餌付けに成功し「ちょっと気になる強い命の恩人お兄ちゃん」から「美味ししいご飯を食べさせてくれる、強くて優しい、好きかもしれない命の恩人のお兄ちゃん」へ、昇格?していた。
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