初めての買い物
直也達アマテラスの一行はコーアンの町の冒険者ギルドで無事依頼達成の報告を行った。オークの集落、ハイ・オーク達の実態や悪事、殺された達の物と思えわれる遺品の提出、最後にオークキングやハーオークの討伐の証となる部を提出した際には、多くの職員や冒険者達が集まり、仕事の速さとアマテラス面々の実力に驚きの声を上げていた。
直也達は多くの人に冒険譚を望まれ、ギルド主催で祝いの宴会を提案されたのだが、キララのこともあるので、コーアンのギルドマスタであるバッカスから今回の依頼達成の証明証をもらった直也達は、その足ですぐセフィロトの町に帰還することにした。
ギルドを出た一行は、まずキララの洋服や靴を買うためにコーアンの町のある被服店に訪れることにした。キララが今着ている服は比較的体格の似ているアスの予備の服だった。集落に居た時に着ていた者は元々粗末な作りの服だった上に、騒動でボロボロになってしまっていたため既に廃棄済みである。
被服野に向かう道中、人間の町に初めて来たキララは目をキラキラとさせながら元気よく色々な屋台のお店を走り回りその度に、「これは何かな?」とか「これ食べられるのかな?」と、好奇心を刺激されワクワク・ドキドキといった様子でみんなに色々と聞いている。みんなはそんな可愛らしいキララの姿を見て、幸せそうな笑みを浮かべていいた。
(あの美しい服は何ですか? あっちのアクセサリーは! これは一体? 凄いよ。欲しい、みんな欲しい、全部欲しい、超欲しい!! あの合コンの時あんなおべべを着ていたら、あたしは綺麗なアゲハ蝶になって、彼にフラれることもなく、キララの兄妹を作ってあげられたのに!!)
「五月蠅いので声を落としてもらえませんか」
キララ母は物欲を爆発させていた。爆発させながらあまり聞きたくない様なやけに生々しい独白をずっと続けている。直也もキララ母の対応に慣れてきたのか、塩っ気が出てきていた。
(使徒様! あたしあれ全部欲しいです。買って欲しいです。貢いで欲しいです。そしたらクララは使徒様の専用になってあげます)
キララが身に付けているキララ母ことクララネックレスは、青い宝石をギラギラに光らせている。どうやら興奮しているようだ。
「結構です。本当に黙って下さい」
そんな物欲にまみれた母と直也のやり取りを知らないキララは輝くネックレスを隠すように手に握り締めながらお店に並ぶ洋服を興味深そうに見ていた。
(ちょっと、キララ手を離しなさい。あたしの綺麗なおべべが見えな、)
「綺麗な服がいっぱいあるね」
「キララ、好きな服を選んで良いぞ」
「でも、僕はお洋服を買うお金持ってないよ」
「子供が余計な心配をするな。さあ、どれでも何着でも選んで良いぞ」
イズナが優しくそう言うと、キララは戸惑ったような感じを見せながら
「ありがとう、イズナお姉ちゃん」
と、嬉しそうにお礼を言い弾けるような可愛い笑顔をみせた。
(ありがとうございます、イズナ様。では、お言葉に甘えて。使徒様、あの奥にある真っ赤で丈の短い胸元ががっぱりとずっぱりと開いたエロティックなおべべを所望します)
クララもキララに乗っかり一見丁寧そうなお礼をしている。どうやら自分も買ってもらうつもりのようだ。
「言っておくけど、キララの分しか買わないから」
(しかし今イズナ様が何着でも好きなのを選べと?)
「キララにね」
(あたしはキララの母です。あたしにも権利があると思います。昔から言うじゃないですか。子供の物は親の物。親の物は親の物)
「言いませんから。いい加減諦めてよ」
直也はそう断りつつも、かつての世界でよく聞いた名言が、時間を越えて残っていた上に、名言が種族を越えて使われていることに対し、驚愕していた。
そんなこんなで直也とクララが不毛な言い争いをしている間に、キララは被服店の子供服のブースでみんなに代わる代わる服を合わされていた。
「キララちゃんこのお洋服はどう?」
「キララにはこっちの方が似合うと思うぞ」
「キララ、こっちの服は動きやすそうだよ」
(皆さんは分かっていません。使徒様、あのおべべを下さいな! あの赤いおべべは一番あたしが一番綺麗に着こなせるのよ!)
「あんたの服は買わないから」
ここで直也の塩っ気はとうとう海水の塩分濃度を越えてきた。
フリフリフリルが沢山ついた高そうな子供ドレスからジャージのような服まで、みんな持ってきてはキララに試着させて小さなファッションショーのようになっている。
確かにどういう訳かキララが着ると全部可愛い。いつの間にか店の店員やお客がキララの周りに集まり、ちょっとした騒ぎになっている。普段当たりが厳しいイズナやレーヴァですらキララの可愛さに当てられてメロメロになっているように見える。
(ちょっとあたし見られているの? あたしのきらめきがこの場にいるすべての視線を独り占めにしているの? 使徒様!)
「確かにキラキラしてるけど、みんなが見ているのはあんたじゃないからな」
直也は何故かクララに突っ込むことに何の抵抗を感じない。むしろ遠慮なくイケる。どんどんと直也の塩っ気は強くなり、現在は死海の海水位の塩分濃度並の塩対応となっていた。
しかし、そんな濃い塩まみれの言葉も、興奮マックステンションのクララには届かない。
(使徒様、最高よ、あたしは今最高に輝いているわ!みんながあたしを見ている。合コンでもこんなに見られたことなかったのに!)
一分一秒ごとにクララはバージョンアップをして心の強さを身に付けていっているように、はっちゃけていく。
また濃いのが増えた。でもまあ良いか。
と、そう考えていたがこれは何か早めに手を打つ必要があるかもしれない。
(あたしは見て! みんなあたしを見て! 特に使徒様は穴が開くほどにあたしを見て!)
クララの声は直也にしか聞こえない。
みんなに囲まれて笑っているキララの可愛い無邪気な笑顔を見ながら、クララの欲に満ちた声を聴いて、直也は思いっきり溜息をついた。
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