キララの母

 直也達はコーアンの町への帰路についていた。新しく家族となったキララの胸には青いダイヤモンドが輝いていた。手先が器用なマリーがキララ母を細工してネックレスにしてくれていた。首からネックレスをさげたキララはイズナやレーヴァ、サクヤやマリー、リーシェにアスと、全員の所に足を運んでは交互に手を引かれながら道を歩いている。しかし、何故か直也の元には一回も来ない。直也が時折キララの様子を確認しようとすると、キララは直ぐにイズナやレーヴァの陰に隠れてしまい可愛い顔を半分だけ出してジッと直也を観察するように見つめてくるのだった。



「俺、嫌われるようなこと何かした?」


(ふふ、キララったら使徒様に見られるのが恥ずかしいのね。この子ったらいつの間にか大きくなって)


 娘の側に居たい。キララ母の願いを聞き入れた直也とレーヴァの奇跡の共同作業により、キララ母は自らの体を素材にしてブルーダイヤモンドとなり、直也の神気の力を借りてダイヤの中に魂を定着させていた。直也の神気が影響したのかキララ母の魂はすっかり元気を取り戻していた。


(ところで使徒様、うちのキララのことちゃんと責任取ってくれるのですよね)


「はあ、責任ですか?」


(まあ、使徒様がキララに言っていたじゃないですか。一緒に暮らそうって)


「いや、確かに言いましたけれども、それは・」


(使徒様! 幼い少女をそそのかした挙句に、未成熟な蕾の体を抱いておきながら、責任逃れをする気ではないでしょうね!)


「そそのかして抱いたって、僕はそん、」


(逃げる気ですか! 使徒様ともあろうお方が自分のしたことの責任を取らないなんて、あ・り・え・な・い、でしょうが!)


 キララ母は何とか優秀な直也にキララを娶って貰おうと必死になっており、第一段既成事実という体で切り込んでいるところだ。


(こんなにも優秀な男を逃がすなんて手はない。絶対にキララの旦那になってもらわないと)


「聞こえていますよ。思いっきり」


(ギク!)


 半眼になった直也が、キララ母に突っ込もうとキララを見ると、可愛いキララは直ぐに人影に隠れて見えなくなってしまう。キララ母の話では恥ずかしがっているだけだと言うがやっぱり寂しい。何とかキララと仲良くなりたい直也は年上の自分から行動せねばとキララに声をかけることにした。


「キララちゃん、お兄ちゃんと一緒に歩こうか?」


 直也立ち止まり、マリーに連れられて歩くキララに手を差し伸べる。


(キララ、チャンスよ! ボーナスタイムよ! イケイケ、キララ、忘れられなくなるくらい激しく行きなさい! そして彼の胸に飛び込んで唇を奪って既成事実を作るのよ!! こんな良い男なんか滅多にいないんだからね! クソッ・・・あたしだってもう少し若くてれ生身の体があれば、超押し倒して使徒様をキララのお父さんにしたのに・・・)


「だから、聞こえていますって」


 キララの胸のダイヤが激しく発光している。かなり興奮しているみたいだ。直也はそんなキララ母の生々しい心の独白を聞き辟易した。母親の見た目もキララと同じで、まんまオークの姿ではなくどちらかと言えば人間の姿によく似ていたのだが、オークの血を引いているだけあって、生前はかなりの肉食系の女だったのであろう。

 しかも、聞こえていないとはいえ幼い娘に既成事実を求めるあたりから、結構な知能犯的なところもあったように見える。


 直也に声を掛けられたキララはマリーの体の影に隠れてしまう。キララはチラッ、チラッと顔を半分だけ出しては上目遣いで直也の顔を見ている。その姿がたまらなく可愛く感じた直也は、まるで砂糖と練乳をめちゃめちゃ混ぜた生クリームをラーメンの丼ぶり一杯分を一気に食べたかのような甘い顔でキララに再度話しかけた。


「怖くないよ。何もしないから一緒に帰ろう」


「嫌、何か僕怖いよ」


 撃沈、直也はキララにフラレてしまい、がっくりと肩を落とす。


「今のはダメだ、直也。それは犯罪者が言うセリフだ」


 誘拐犯が言うテンプレのようなこと言ってしった直也は、マリーにたしなめられた。


(キララ、恐ろしい子! あんたって子はその年で“焦らし”と“あざと(あざとい)”を使いこなして男の心奪うとは! あたしがその域に達するのにどれだけ苦労したことか!)


 キララ母ダイヤはかなりの興奮をしている様で体はもうめちゃめちゃ光っている。キララは光るダイヤを大事そうに手に取ると大事そうに両手のひらで包み込む。ちなみにキララ母と話が出来るのは直也だけである。何度か試してみたが神気が影響をしているようで、神気を持たない者は意志の疎通が出来ないらしい。元神族で宇迦之御魂神様の従属であったイズナにも会話は出来ない様だった。


(天才よ! 私の子供は千年に一度の天才だわ!)



 キララ母の歓喜に満ちた叫びが直也の頭に響く。キララ母は自分の死を完全に乗り越えたらしい。昨日は確か悲しみにうちひしがれていて、しおらしく涙していたのに、今はなんか変にはっちゃけてしまっている。良いのか悪いのか?っと聞かれれば間違いなく良いことだけれども、何か素直には喜べない自分がいる。


(それは使徒様のおかげですよ。感謝しています。娘共々あたしも一生使徒様にお仕えいたしますね) 


「いや、結構です」


(いえ、死んでも使徒様についていきます)


「・・・はあ」


また濃いのが増えた。でもまあ良いか。


 みんなに囲まれて笑っているキララの可愛い笑顔を見て、直也は微笑んだ。







「恨めしや、恨めしや・・・。でも、放置プレイはちょっと快感」


 殴られ置いて行かれて丸一日以上放置されたフレイヤは、自分のことを忘れてほのぼのとした雰囲気をかもし出している直也達を、ハアハアと変態的に息を吐きながら匍匐姿勢でのぞき見をしていた。その瞳は常に笑顔で子供の頭を撫でるイズナの姿を捕らえている。


「羨ましい、なでなで。羨ましい、ヨシヨシ」


 フレイヤは悔しそうに唇を噛むと、愛するイズナたまの心を取り戻すための行動を取ることにし、誰にも気付かれぬようにゆっくりとその場から姿を消した。





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