母の願い
キララが目覚める数時間前、倒されたオークキングの体から魔石を取り出した時のことだった。
「この魔石は?」
「直也様、これは」
「旦那様」
最初に異常に気が付いたのは直也だった。 オークキングの体から魔石はどす黒く、魔石の中に何かが存在している。魔石を太陽にかざし日の光に透かして見ると、中には小さな光と蠢く何かが見えた。蠢く何かは逃げ惑うように動く小さな光を追いかけて捕らえ、自らに取り込んでいるように見えた。イズナとレーヴァもこの魔石の異常性に気が付いたようだ。
(主様、今ならまだ助けられる。その魔石を早く壊して)
アスが直也に精神感応を使い話かけてきた。
(じゃあ、やっぱりこれは)
(主様の想像の通り、魔石の中は食べられた人の魂と悪食のスキル。まだ完全に食べられていない魂がいる)
直也は即座に魔石を霊気を込めた拳で殴り破壊した。
「直也さん、何を?」
魔石の正体にまだ気が付いていないサクヤ、マリー、リーシェはS級クラスに届くほどの高価で貴重な魔石を破壊した直也の行動に驚いた。魔石をギルドに持って行けばいくらになるのか? いつもはお金に厳しい直也の突然の行動に驚き皆息を飲んだ。
「みんな離れて!」
破壊された魔石から噴き出し、黒く濃密な魔素が意志を持っているかのように蠢き、やがて魔素はアメーバのような姿をとった。胴体から何本もでる触手のように動く手は獲物を探すかのように辺りに有る石や瓦礫などに手当たり次第に掴みかかっている。
「直也さん、アレは!」
サクヤ達は意志を持った生き物のように蠢く物から素早く距離を取り触手が届かない場所まで移動する。黒く蠢くモノは見れば見るほど気味が悪く、激しい生理的な嫌悪感を覚えた。
「あれは悪食のスキルの成れの果てさ」
「あんなのが、スキルなのですか?」
あまりにおぞましい姿をしたモノが、自分達が普段頼っているスキルだと言われサクヤはゾっとした。
「これはレアケースだと思う。普通のスキルはあんな形はしていないからね。悪食は魂を食べるスキルだったようだから。多くの魂を吸収することで力を得て自我のようなものが目覚めたんてより捕食しやすい形に進化じゃないかな」
蠢く悪食はただひらすら捕食する魂を求めて蠢いてようで、自我と言うよりかは原始的な本能のほうがより近いように見えた。
「ではあれに掴まっている光は・・・食べられた人の魂ですか」
「うん。たぶん最後の被害者だったあの子の母親のものだと思う。早く助けてないと」
直也はそう言うと自分の魂の奥に眠っている神から貸与された力、神気を呼び起こす。すると直ぐに青く透き通った神々しい光を放つ神気が直也の体から顕現し、見る者の目を奪う。
直也が元悪食だった蠢くモノに向かって手のひらをかざすと、手から一条の青い神気が光になって放出され悪食を一瞬で貫いた。神気に同体を貫かれた悪食だったモノはバタバタ体や職種を振るわせて苦しんでいるようだったが、次第に神気に触れられた箇所から崩壊を始め、震えながら消滅していった。正直なところ、直也は世界が創造したスキルを破壊することができるという確信はなかったのだが、スキルと同質かそれ以上の力を持つ神の力たる神気は、無事上手く作用して悪食だったモノを完全に滅したようだった。
悪食から解放された母親の魂は、自由を取り戻したことに気が付くと直ぐにキララに向かって飛んでいった。心配そうにイズナに抱かれているキララの周りをずっと飛び回っている。いつもでも離れようとせず、次第に輝きを失っていく母の魂を見て、直也は自分に出来ることはないかと考え、大霊界的な方法で母の魂と接触した。
キララの母の亡骸はレーヴァの炎によって火葬にされることになった。今は母の亡骸は木で組んだ小さな櫓をのせられていて、最後の別れをキララがしていた。キララの後ろには直也を始めとしたアマテラスのメンバーが全員整列しており、最後の別れを見守っている。
「お母さん僕一生懸命生きるからね、バイバイ」
キララ母の額に最後のキスをすると、櫓から降りてレーヴァの前にやって来た。
「レーヴァお姉ちゃん、お母さんをお願いします」
「分かったよ」
レーヴァはキララの頭に手をのせながら、直也に目配りをし、レーヴァの視線に気が付いた直也は頷く。レーヴァはキララの母が眠る櫓に視線を戻すと、櫓を囲むように火竜の炎を発現させた。レーヴァの竜炎は櫓を包み亡骸を骨へと変えていく。レーヴァに制御された炎は、赤色の炎から明るい黄色となる。そこで直也はレーヴァの竜炎で焼かれる母の骨を神気の力を使って高い圧力をかけ圧縮していく。レーヴァの炎と直也の神気は直也のイメージした通りに熱と圧を掛け続けた。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんは、何をしているの?」
キララはイズナの元に駆け寄り直也達が何をしているのかを聞いた。
「願いを聞いたのさ」
「願い?」
辺りの満ちていた二人の力は徐々に弱まっていき、やがて二人は力を解除する。竜炎も神気も消えると櫓が組まれていた痕が残る場所には、光に照らされて青く輝く石があった。よく見ると青き輝く石は中から光も放っている。
直也は青く輝く石を拾い、レーヴァの前に立つキララに手渡した。
“娘の側に居たい”
キララが手にした石、それはキララの母が願い、母自身の体を素材にして作られた母の魂が宿る、美しく輝くブルーダイヤモンドだった。
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